うさぎ
私は今、何やらおかしな状況におかれている。
目の前には薄ピンクの、遊園地で風船を配っていそうなうさぎが一体。
いや、中に人間がいるから正確には一人というべきか…?
まあどっちでもいいか。そんなことは。
まずは状況を整理しましょうか。
私は本を書庫に入れるため、ミステリーシリーズを10巻抱えてここ、第一書庫に入り、電気を付け後ろを向いたのがつい数秒前。
振り向いたらこのうさぎがいたのだ。
で、壁に追い込まれて逃げ場を失っている。
一体、私が何をしたというのだ。
目の前のうさぎを睨みつけてみるが、ピクリとも動かないし喋りもしない。
なんなのだ一体。
私は疲れているのだ。早く家に帰ってゆっくり風呂に入りたいのだ。
苛立つ心を言葉に出さないように注意し、うさぎに語りかける。
「あの、閉館時間はもう過ぎたのですが…関係者でしょうか?」
うさぎはじっとしたまま返事は無い。
本当に何だっていうんだ。
私は短気なのだ。手を煩わせないで欲しい。
あれか?強盗か?私は殺されるのか?上等だコラ。こちとら巷じゃ凶器になると有名な分厚い本を持ってるのだ。女だと思って舐めるなよ。
と、突然うさぎが動いた。
右手がゆっくり挙げられる。
殴られるのか?くるなら来い。本を固く握りしめる。
私の考えとは全く違い、挙げられた右手は私の頭にぽんっと置かれ、そのまま労うかのように左右に動く。
このうさぎは何を考えているのだ?!
全く分からない…。あ、手あったかい…。って、違くて。
「なんなんですか?」
自分でも分かるほど不機嫌なドスの効いた声が出た。
うさぎがびくりと震えるのが分かる。
頭から手が離れ、そのまま扉まで移動し、少しかなしげな雰囲気を纏ってこちらをチラっ。
肩を落として書庫から出て行った。
「ふぅぅ…」
全身から力が抜け、涙が湧き上がる。
やめてくれ。驚いたじゃないか。
頭にはまだじんわりと熱が残る。
頭なんて、撫でられたことないのに。
涙が次々と溢れる。
この涙の正体は、寂しさか?
「馬鹿馬鹿しい…石が落ちてしまうだろう…いい加減泣きやめ自分」
自分に言い聞かせるが涙は止まらない。
生ぬるい、塩っ辛い体液は頬を伝い、輪郭を離れると光をキラキラとたたえる何かの鉱物になり床にコロコロと落ちていく。
透明、桃色、黄色、緑色、赤色、橙色
寂しさの塊は埃っぽく薄暗い空間の中、憎いほど美しく輝いている。
初の女の子目線ですね。
涙から宝石が生まれるなんて私なら泣まくりますよ。そして売り払いますね。