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親父とコロナ

 「何にせよ、カナタが知らなくてもいいことだ」

 そう言ってコロナが話題を切った。

 何となく歯切れが悪いが、これ以上は訊かないことにした。

 「それじゃぁそろそろ……」

 話が終わったところで親父が席を立った。

 「寝るのか、親父」

 「いや、帰ってたばかりで悪いんだけど、もう仕事に行かないとなんだ。金太、あまり夜更かしするんじゃないぞ」

 と言われても、時刻は午前四時。

 コロナが電源を入れたテレビからは、『お仕事に行く方はいってらっしゃい、お休みになる方はおやすみなさい』とアナウンサーの声が聞こえている。

 寝るにしても、このまま起きているにも微妙な時間だな。

 「じゃ、行ってきます」

 「いってらっしゃい」

 「うむ、気を付けて行けよ」

 俺とコロナは、黒いロングコートの親父の背中を見送った。



 「……ぅ……ん?」

 寝ぼけまなこで辺りを見回す。

 どうやら、気が付かないうちにテーブルに突っ伏して眠っていたようだ。

 「んーっ!」と背伸びをすると、何かが焼ける臭いがした。

 コショウの香りもする、誰かが料理をしているのだ。

 キッチンを見に行くと、深紅の髪を揺らして狭いキッチンの中をくるくると動き回る小さな姿が見えた。

 エプロン姿のコロナだった。

 「起きたか、カナタ、もう少し待ってくれ」

 コロナは「よっ」とフライパンを持ち上げると、炒めた野菜を丼の中に入れた。

 「よし、持って行ってくれ」

 俺は言われるままに、丼に手を伸ばした。

 「おお、うまそうだな」

 料理の正体は野菜がたっぷり入ったラーメンだった。

 


 「どうだ、うまいか?」

 「ああ、おいしいよ」

 元は市販の即席麺だが、一工夫するだけでこうも美味しくなるのか……。

 「それにしても、何で朝からラーメンなんだ?」 

 「ん?おかしなことをいう奴だな……、ほら、もう昼だぞ」

 時計を確認すると――ほんとだ、もう午後一時だ。

 「まぁ今日は特に予定も無いからいいか……ずずっ!……ごちそうさま」

 「お粗末さまでした。ふむ、久しぶりに作ったのだが、喜んでくれて何よりだ」

 「うん、この味、何だか好きだよ」

 「そうか、やはりギンジの子だな。ギンジも子供の頃はこのラーメンが好きで、週にニ回は作ってやったんだ」

 コロナは、何かを懐かしむような表情で俺を見る。

 「そういえばさ、コロナと親父はいつからの付き合いなんだ?昔から知っているような素振りだけど」

 「知りたいか?まぁギンジは話すなとは言ってなかったからな……。よし、話してやろう」



 「今から四十前のことだ……」

 そして、コロナは語り始めた。

 幼女が四十年前と口にする姿はミスマッチだが、何故か違和感が無かった。

 コロナ表情や話し方のせいだろうか。

 「(わたし)はヨーロッパのとある国の小さな村で(おさ)をしていた。その村の住民は吸血鬼と人間だ。ある日、村に日本人の男がやって来た。その男は魔術組織の調査員で、異種族が共存するこの村を調べに来たのだ」

 ここまで聞いて、人間と吸血鬼が共存しているという環境は珍しいことであることが読み取れた。

 「その男は村の仕事を良く手伝ってくれてな、住民からの信頼を確実に得ていた。それから三年が経った頃、男は村の娘と結婚し、数年後には子供をもうけた。その子供がお前の父親、ギンジだ」

 まさか、コロナの親父の出生の話を聞くことになるとは思わなかった。

 そして魔術組織ということは、親父の親父、つまり俺の祖父も魔法使いだったということか。

 

 

 

 

 

 

 



 



 

 

 

 

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