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親父は魔法使いで無職

【キャラクター】


■カナタ/高宮(たかみや) 金太(かなた)

主人公、非日常に憧れる少年

普通の高校生


■高宮銀司(ぎんじ)

カナタの父、魔法使い

無職



 作文事件から半年後、親父の都合で地方都市に引っ越すことになった。

 それが現在の我が家がある、月長市(つきながし)だ。

 月長市での生活は俺が憧れる非日常とは程遠いものだった。

 転校先では、作文事件を知る人間は勿論いない。

 普通に友達ができ、普通に中学生になり、今はもう高校生だ。

 この六年間、俺の周りには普通のことしか起こらなかった。



 いや、もしかすると非日常はもう始まっていたのかもしれない。

 一年前、親父が無職になった。

 一応、魔法使いではあるのだが、仕事に行かなくなってしまったのだ。

 そして半年前、そんな親父に母は愛想を尽かして出て行ってしまった。

 それから男二人、無駄に広い一戸建てで暮らしている。



 ヴーッヴーッ!

 携帯の鳴る音に起こされ、俺は重い頭を振って電話に出る。

 『金太(かなた)ちゃーん、おっはー!朝ごはんよー』

 「……」

 声の主は母ではなく、無理やり女声を出そうとして名状し難い声になった親父だった。

 『どうした、元気がないぞぅ?』

 朝から気味の悪いおっさんの声を聞かされて気分が良いわけがない。

 「父さん、目まいがするから今日は休むよ」

 そう言って布団をかぶって、しばらく黙ってみる。

 『お、おい……本当に体調が悪いのか?』

 「冗談だよ、今行くから」

 ベッドから身を起こし、制服に着替える。

 身支度を整えると、親父が待つダイニングへ向かった。



 「いってきまーす」

 「いってらっしゃーい」

 エプロン姿の親父が俺を送りだす。

 これも普段の日常で、当たり前の光景だ。

 そして俺はいつも通り、普通の通学路を歩き、普通に学校へ向かう。

 俺が通う『月長西高校』はありふれた普通科の公立校だ。



 「なんだこれ?」

 昼休み、俺は弁当箱のフタを開けて硬直した。

 プラスチックの容器の中で銀色に輝く物体が一つ、弁当の中身は五百円硬貨だった。

 それが食べ物ではないことは誰にでもわかる。

 つまり、これで何か買って食えということなのだろう。

 しかし、納得できなかった。

 それは、昨日から親父が弁当を作ると宣言していたからだ。

 


 親父は無職だ。(ゆえ)に収入は無い。

 だから節約しないと生活できないのだ。

 その節約の中で一番の問題となるのが食費だ。特に毎日の昼食代だ。

 昼食に購買部でパンやジュースを買う、それが毎日となるとかなりの出費になるだろう。

 そこで解決策として親父が弁当を作ってくれることになったのだ。



 俺は朝食のメニューを思い出していた。

 スクランブルエッグや魚のほぐし身があったりと、いつもトーストだけの朝食に比べると豪華だった。

 それらから推測されることは――おそらく、親父は弁当を失敗したのだろう。

 スクランブルエッグは元々は卵焼きで、ほぐし身は魚の切り身が崩れてしまったものだろう。

 キッチンから焦げくさい臭いがしていたのが決定的だ。

 かなりのやる気だったので(まか)せたが、今思い返すと親父が料理をしている姿は記憶に無かった。

 


 自信満々に「任せろ!」と言った建て前、失敗したとは言いだせなかったのだろう。

 弁当箱に入っていたのは五百円玉だけではなく、「ごめん」と書かれたメモ用紙も入っていた。

 こういう素直じゃないところが親父らしい。

 俺は微笑を浮かべると、五百円玉を握りしめて購買へ向かった。

 昼休みはあと半分、もうパンは残っていないかもしれない。

 無かったらジュースで腹を誤魔化そう。



 俺は購買部でパンを買い、教室に戻ってきた。

 「まさか焼きそばパンが残っているとは……」

 焼きそばパンは人気商品というイメージがあるが、この学校ではそうではなかったのか。

 俺は焼きそばパンを袋から取り出そうとして、そこで気付いた。

 ――こいつ、焼きそばパンじゃない!

 よく見ると(めん)と供ににソースで茶色に染まった米がパンに詰まっていた。

 ――これは、そばめしパンだァーーッ!

 おそるおそるかじってみると――うまい、味は焼きそばパンとよく似ている……というか同じだ!!

 それもそうだ、米さえ除けばただの焼きそばパンだ。

 食べ続けていると、ふと思った。

 ――まてよ、焼きそばパンもそばめしパンも二百円だったよな……ということは、米が入っている分そばめしパンの方がお得ッ!!

 このパンに出会えたのも親父が弁当を失敗したおかげだ、こういうのを不幸中の幸いって言うんだよな。

 俺は少しだけ嬉しくなり、そばめしパンを一気に頬張(ほおば)った。

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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