この世界に魔法はある!
俺は昔から、アニメや特撮番組のヒーローに憧れていた。
異形の怪物から人々を守るために戦う戦士、男なら一度は憧れたことはあるだろう。
自分にもアニメのような超常の力を使えるのではないかと、ヒーローの必殺技の真似をしたりしたこともあるだろう。
大抵の人は、そんな『ヒーローごっこ』をしているうちに、所詮フィクションだと諦めて、信じなくなってしまう。
そんな非日常は存在しないのだと。
だが、俺は信じ続けた。
何故なら、身近に超常の力を持つ人物がいたからだ。
その人物とは、俺の父親だ。
親父が行使する超常の力、それは『魔法』だ。
そう、俺の親父は魔法使いなのだ。
まぁ誰も信じてはくれなかったけど……。
小学四年生のとき、『ぼく・わたしのお父さん』という題で作文を書いた事があった。
『ぼくのお父さんはまほう使いです。』
『お父さんはしごとに行くときには、いつも黒いロングコートをきて、ギターケースをせおって出かけます。』
『ぼくのたん生日には、ぎんのつるぎをプレゼントしてくれました。』
俺が作文を読み終えると、周りが静まり返っていた。
当時の俺は、「きっとみんなは、俺の父さんの凄さに感動しているんだろうな」と思ったが、すぐに間違いであることに気付かされた。
盛大に笑われた。
俺は目を丸くして辺りを見回した。
クラスのみんなが俺を指でさして笑っていた。中には腹を抱えて悶絶している者もいた。
俺はどうして笑われたのか理解できなかった。
それは仕方の無いことだ。
俺にとっては、父親が魔法使いという日常が当たり前だったからだ。
それまで『魔法がある日常』が当たり前として生きてきた俺は、『魔法があるのはフィクションだけ』という常識が受け入れられなかった。
事実、魔法は本当に存在するのだから。
俺を笑ったやつらは、本物の魔法を見たことが無いのだろう。
本物の魔法を知っているのなら、そんな間違った常識を持つはずがない。
そう思った俺は、親父に頼みこんで初歩の初歩だが、魔法を教えてもらうことになった。
数日の手解きを経て、俺はクラスメイトに魔法が本当に存在することを証明することになった。
見せたのは炎の魔術属性の魔法で、『指先にマッチ程度の火を起こす』というものだった。
それを見たクラスメイト達は「おおっ!」や「すげぇ!」などの感嘆の声をあげた。
俺は、みんなが現実に魔法が存在するという事実を受け入れてくれたのだと、そう思った――。
しかし、たった一言でそれは打ち砕かれた。
「何か仕掛けがあるんじゃないか?」
その言葉が発せられた瞬間、クラスメイト達がざわつき始め、「たしかに」や「それもそうだ」と言い始めた。
「本当なんだよ!」と叫んだが、「じゃぁ証拠を見せろよ」と返され、黙り込むと「やっぱり証拠が無いんだな、ウソつくなよ」と理不尽な言葉を投げつけられた。
それから火が付いたように、俺を嘘吐き呼ばわりする声が増えていった。
俺は悔しくて、親父にもっと強力な魔法を教えてくれるように頼みこんだ。
だが、親父は首を横に振った。
「お父さんは悔しくないの?」と問うと、「何とも思わないね」と答えた。
そして、「お前は何が悔しかったんだ?」と逆に問われた。
俺が悔しかったのは魔法の存在を否定されたことだ。
「魔法は本当にあるのに、それを認めないのはおかしいよ!」
「そうか、それなら逆に、魔法が存在しないことを認めろと言われたら、素直に認められるか?」
「無理だよ、だって魔法はあるもん!」
「だよな、なら何故みんなが魔法の存在を認められないのか解るよな」
小四の思考力では言葉の意味が理解できず、俺はうつむいた。
そんな我が子を見て、親父はやれやれと肩を落とした。
「解りやすく言うとだな、お前には魔法があることが当たり前だろうが、他の子たちにとっては魔法がないのが当たり前なんだ」
今なら何となく、親父の言っていたことの意味が理解できる。
『自分の当たり前は、他人にとっての当たり前ではない』ということだ。
これは要するに『うちはうち、よそはよそ』と言いたかったんだよな。
回りくどい言い方をしても意味は同じ、そんなことで子供が納得できるわけが無い。
――それが常識?ふざけるな!魔法は本当に存在するんだ!当たり前のことのように!
そう思う自分は世間から見れば異物なのだと、そう理解したと同時に、自分がいるべき世界はここではないと思った。
いつしか、その常識に対する反発心は、『非日常への憧れ』という感情を形作るに到った。
ちょっと暗い雰囲気ですが、本編はそんなことはないと思います
むしろギャグテイストにしたいくらいです