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未練  作者: 紫苑
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最終話 あるべき場所へ

高志が気付くと夜が明けていた。昨日、石階段で石山と話をしてからの記憶が殆どなかった。しかし母屋に帰り、確かに石山の部屋にいる自分がいる。多分上の空でここまで来たんだろう。そしていつの間にか眠ってしまったらしい。


酔っ払いみてえだな……。


自分自身に苦笑しながら起きたがった高志。部屋には誰もいなかった。高志はふと時計をみると、時刻は7時半だった。おそらく昨日同様、石山家では7時過ぎから朝食なのだろう、耳をすますと1階から人の声がしていた。


俺、今日戻るんだよな。


高志はふと思った。石山との約束は3日間だった。時間までは指定していなかったが、遅かれ早かれ24時間後俺がここにいることはない。

高志はそう思うと、急に複雑な気分になった。学校は面倒で行きたくないが、クラスメートたちには会いたい――そんな感じだった。行きたくないけど、行きたい。帰りたくないけど帰りたい。

そんなことを思っているうちに高志の中に1つの疑問が生まれた。


俺はどこに帰るんだ?


死んだ俺に帰る場所などない、戻る場所などない。俺はどこに行くんだろ、どうなるんだろ。


高志がそんな不安に駆られていると、ガチャッというドアが開く音がし、石山が入って来た。

「少しは整理着いたか?」

部屋に入って来るなり石山は言った。

「俺さ。どこ行くんだろ?」

高志はその質問には答えず、先ほど感じた不安を石山に訪ねた。

「成仏する前の霊って、みんな同じこと聞くんだな」

そう言った石山は僅かに口元に笑みを浮かべていた。ただそれは笑顔ではなく、皮肉の笑みだったが。

「悪かったな、ワンパターンでよ」

「安心しろよ。天国とは保証出来ないが、地獄ではない。少なくともここよりは良い所だろうな――って俺はいつも言ってる」

最後の一言が余計だろ。と思いつつ、高志は「そうか……」と頷いた。

「どうしたい? 行きたい場所とか会いたい奴とかあるか?」

石山は高志がそれ以上成仏したあとの世界について考える間も与えず、高志に問いかけてきた。

「そんなこと言われてもな……」

将行にだってもう1回会いたい。宮本さんにだって会いたい。行きたい場所だってある。

でも――


高志は思った。これ以上ちんたらしててもどうしょうもないよな。誰かに会えば、思い出の場所に行けば、一昨日からくすぶりかけていた思いが強くなってしまいそうだから。


死にたくない。という思いが――


「いいや。もうそろそろ逝くよ」


高志の気持ちは固まっていた。どんなとこだろうと構わない。俺は俺のあるべき所に帰る。ただそれだけだ。

石山は一瞬「本当にいいのか?」という顔をしていたが、高志の顔が真剣なのを見てその言葉は口に出さず「分かった。少し待ってろ」とだけ言い、部屋を出て行った。おそらくいろいろ支度があるのだろう。

10分ぐらいした頃だろうか。石山は右手に黒い袋を持って部屋に戻ってきた。

「さて。行きますかね。成仏は死んだ場所じゃなきゃ出来ないから」

高志は黙って頷き立ち上がった。


それから2人は一言も話さなかった。気づくと高志は飛び降りたビルの屋上に来ていた。

「なあ。ちょっとだけ――10分だけいい?」

「いいぞ。好きなだけ時間使え」

高志はそのまま屋上から町を眺めていた。いつもと変わらない町並み、確か本当に死ぬ直前もこうして町眺めてたな。ただその時何を考えていたか高志には思い出せなかった。何も考えてなかったような気がする――馬鹿すぎるな俺。


「将行、ごめんな。俺、お前のこと全然考えてなかった。いつだってお前は俺のためだったような気がする、俺、自分だけ辛いとか考えてさ、本当ごめん――母さん、父さん、江美。早く立ち直ってくれよ、悪いのは全部俺だからさ。みんなは悪くないからさ。お願いだから自分責めないでくれよ――宮本さん。俺本気で好きだった。宮本さんも好きだったって聞いて本気で嬉しかった。でも、もっとマシな奴見つけてくれよ……」


呟くように風に向かってそう言った高志。もう泣いていなかった。それらの言葉は絶対に届かないことは分かってはいたが、風に乗って届くような気がした。

「俺、成仏できねえかも。こんな後悔ばっかしてて、未練だらけだぞ?」

何となく笑いながら後ろを振り返り、そう言った高志。座り込んでいた石山は何かを考えていたのか、ゆっくり顔をあげると言った。

「松野の“それ”は未練じゃない。生きる意味、生きてた証なんだ。宝物だと思って大事に持ってけよ」

何か結局コイツには道案内してもらってばっかだな。と思いながら高志は頷いた。

「んじゃ、そろそろ」

まるで家に帰るときの別れの挨拶のように、高志は言った。石山は後ろを向き持ってきたバックからなにやらいろいろ取り出していた。

「石山」

高志が思い切って呼びかけると「ん?」と顔も向けずに石山は返事をした。


「いろいろありがとな――たまには笑えよ」


もっといい言葉があるはずだった。もっと言わなければならないことがあるはずだった。それなのに、結局それしか言えなかった。

が、石山は作業の手を止めると振り返り言った。

「松野こそ。もう死ぬんじゃないぞ」

笑っていた。最初で最後の石山の笑顔だった。それは想像していたよりもずっと優しく、自然な笑顔だった。

「じゃあいくぞ」

石山はそう言うと、なにやらお経のようなものを呟き始めた。同時に高志は宙に浮いているような気分になった。とても温かかった。体中の力が抜けていくような温かさが高志の体中を駆け巡った。同時に意識も薄れていった。高志はほとんどない意識の中で


「ありがとう」


そう呟くと静かに目を閉じた。



ここまで読んでくださった方。誠にありがとうございます。

書きたいことが多すぎて、結局まとまらなくなってしまったことは反省しております……。語彙力・文章力のなさを実感しました。

感想。批評。など、お待ちしております。ありがとうございました。

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