第一話 始まりは死
もう嫌だ。こんな生活なんかもう嫌だ。捨ててやる。何もかもなくしてやる。
俺、松野高志は数日前から自殺することを決意していた。
理由――そう聞かれても困る部分がある。正直理由などないのだ。高校3年であるため、毎日毎日机に向かってひたすら受験勉強。受かるかどうかも分からない不安や、周りと比べても全然伸びてかない成績に対する不安。何で俺だけ? 何でこんな苦しいことしなくちゃいけないんだ? そう考えると生きて行くことすら馬鹿らしくなってきたのだ。
それならいっそ、死んでみるのはどうだろうか?
いつからかそんなことを思うようになり、そしてその思いは徐々に強まって来ていた。
俺が死んでも別に何も変わらないだろ。むしろ受験生が1人減ったんだ。喜ばれるんじゃねえの。そんな安易な考えが高志の中に生まれて来たのだ。
そして気づくと自殺の為の場所を探すようになっていた。いろいろ考えたが、自分のような奴に出来る方法と言えば投身しか思いつかなかった。
そして今、高志は苦労して探し出したビルの屋上にいる。人通りが少ない通りにある上に、屋上への扉には鍵をかけておいたので、誰も入ってくることはないだろう。自殺だと分かるよう、鞄などはきっちりまとめておいておいた。本当は遺書など書けばいいのだが、そこまでする気はなかった。
さて、そろそろ逝くか。
今まで心地良い風に吹かれながら、周りの景色を見渡していた。そうすれば、少しは未練が残ると思ったからだ。しかし冷え切った自分は何も感じず、本当に自殺する気なんだと自分で自分の気持ちに確信を持つと、高志はフェンスをよじ登った。さすがにフェンス越しに下を見たときより何十倍も高く感じ――実際7階建てなので普通に考えても充分高いのだが。一瞬足がすくんだ。
しかし下を見ると幅5メートル程しかない道路はやけに広く見えまるで手招きしているかのように見えた。
「じゃあな」
高志は殆ど聞こえない声でそう呟くと、今までフェンスを掴んでいた手を放した。




