ファンタジーは待ってはくれない
夜も更けて街の酒場は今日も静かです。珍しく二人の冒険者が水よりも安いエール酒をあおっています。
「そういえば、どれくらい魔物討伐してないんだろう?」
「この辺で最後に魔物が出たってのが、かれこれ2年も前だからねぇ…。」
「うわっ。もうそんなに経つんかぁ。」
「腕が鈍るよなぁ。」
「せめて獣でも狩りたいところだけどさぁ。」
「そりゃ、狩人から苦情来るだろ…。」
「それな。冒険者協会の方からも、禁止令でてるし。」
「なんでも、狩人の方でも獣の保護とかで禁猟区とか、禁猟期間とか設けてるらしいぜ。」
「まじかよ。そうなると、冒険者協会が魔物保護とかに本腰入れるとか、本当の話しっぽく聞こえるな。」
「ありそうだな。あいつらも暇そうだしな…。」
「採取はどうよ?やってる?」
「あかんよ。薬草なんて二束三文、供給過多すぎる。」
「そりゃ、そうだろ。ケガなんて薬草よりも教会で治してもらった方が早いしな。」
「そうだよな。僧侶も冒険者やるより普通に教会で医療行為してた方が金になるしなぁ。」
「生臭坊主ぐらいだろ、冒険者になるなんて。」
「いや、詐欺の類だぜ、そいつらは。」
「って、ひっかかる冒険者もいないだろ。」
「そうなんだよな。そもそもケガするような冒険なんてないしな。」
「どうよ、冒険に出るのは?」
「どこへ行くんだよ…!?」
「やっぱ、遺跡?」
「おいおい、遺跡なんて、もう調べ尽くされてるだろ…。」
「そこは、さぁ、未知なる遺跡を探して…。」
「夢だねぇ。そんな遺跡あったらいいんだけどさぁ。」
「夢だよねぇ。だから未知の遺跡なんだよなぁ。」
「帰らずの森、あるじゃん!?」
「いやぁ、あそこに遺跡はないんじゃねぇ?」
「あぁ。あってもエルフの里ぐらいか?」
「だろうねぇ。割に合わんわ。」
「金にならんとどうにもなぁ。」
「そうだよな。金にはなるが、鉱山とかだとドワーフが根城にしちまってるからなぁ。」
「そうそう。鉱山は金にはなるが重労働だし、ドワーフいるし、だし。もう探す場所ないんじゃね?」
「あとは、空とか?」
「おいおい、どうやって行くんだよ?」
「そりゃ、魔法とかでさぁ。」
「あぁ、伝説の魔法の絨毯とか…。」
「ないなぁ。」
「ないよなぁ…。」
「商隊護衛の依頼とかどうよ。」
「そっちもからっきしだよね。」
「やっぱりなぁ。騎士団にしろ、衛兵も時間を持て余してるからなぁ。」
「盗賊にしても、最近はねぇ。」
「盗賊といやぁ、ほら、ちょろい背の低い隻眼の男いただろ?」
「あぁ、最初の冒険で魔物とやりあって片目失ったとかいう?」
「そう、そいつ。なんか、食いつぶれて盗賊になったって話だけどさぁ。」
「まじか。確かに見た目から盗賊だなぁ…。」
「それが、すぐに衛兵に制圧されたらしくてさ。」
「うわぁ。それでどうなったの?」
「あぁ、谷の方で吊るされてたって話。」
「本当かよ。嫌だねぇ。」
「あぁ。ああはなりたくないよなぁ。」
「せめて、傭兵の依頼ぐらいあればなぁ。」
「傭兵ねぇ。魔物相手はいいが、人間相手だぜ?」
「さすがにキツイか?」
「いやぁ、こっちがやられるリスクが高いしなぁ。」
「それはそう。魔物と違って勝てる確証がないか。」
「そもそも、どの国も安定してるからな。」
「戦争、そのものがないね。」
「だな。傭兵の需要なんて聞かないし。」
「まぁ、傭兵やるような奴は剣闘士になるか。」
「やや、それはもう奴隷のレベルだぜ?」
「それでも盗賊よりはましだよ。」
「比較対象がロクでもないなぁ。」
「こんなんだったら魔法覚えたら良かったよなぁ。」
「いやいや、そうでもないぞ…。」
「っていうと?」
「ほら、目のクマがひどい瘦せこけた奴いただろ。」
「あぁ、なんかいたなぁ。」
「あいつ、必死になって攻撃魔法とか覚えてたけどさぁ。」
「うんうん。」
「いまじゃ、生活魔法しか使う機会ないってんで。」
「あぁ。そうか。」
「割に合わないよなぁ。」
「うん。そいつは悲劇だな。」
「結局、時間と頭の無駄使いだよ。」
「世知辛いなぁ」
「ほんとにな…。」
「お、そろそろ夜が明けんじゃね?」
「もう、そんな時間か。」
「じゃぁ、得物持っていこうか。」
「こいつも、そのうち禁止されるんじゃないか?」
「ありそうだな。こっちも乱獲で禁止されるかもしれん。」
そう言うと冒険者二人、長い釣竿をもって酒場から出てゆくのでした。




