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ソレ言わないとダメなんですか?

夜が明けるとすぐに、私たちは神殿に向けて出発した。今日は快晴で、見上げれば雲ひとつない空が広がっている。


私とルリ、きぃちゃんを乗せたワゴンは、しばらくして街道から山道へと入った。道は狭いけれど、ここは国王がお参りに使う道でもあるので、ワゴンがなんとか通れるくらいには整備されているのだ。


ワゴンの揺れに身を預けながら、私はずっと気になっていたことを聞いた。


「ねぇルリ、メモとか保存食とか準備してあったのは、あの変な鳥の予言があったから?」


「そうです。やはり予言は当たってしまいましたね」


そうなのだろうか?辛酸をなめさせられたのは確かだけど、予言は少し違ったような気がする。


「でもあの鳥は『女同士の戦いに巻き込まれる』とか言ってなかった?」


ルリは一瞬「しまった!」という顔をする。


「ですからその、女神さまの戦いの相手が獣神の女だったのです」


「ふうん?」


両方とも女の神だから「女の戦い」ってことか。思っていたのとニュアンスが違う気がするが、あれが予言の通りだったと言うならそういうことにしよう。


途中、お昼ご飯を食べたりして休憩しつつワゴンは山を登り続けた。やがて、きぃちゃんが午後のオヤツを欲しがり、ルリが食べ過ぎだと叱り始めたころ、ワゴンは北の神殿へと到着した。


「これ、私のポシェットを漁ろうとするのはやめなさい!」


「ばふぅうう!」


あきらめの悪いきぃちゃんを押しのけてルリは立ち上がる。ワゴンのドアを開けてステップを出した。先に降りて私に手を差し出す。


「さあ、沙世さま」


私は無言でうなずくと足をステップに踏み出した。やっと家に帰れるという安堵の気持ちと、この島から離れる淋しい気持ちが押し寄せてきて、足元がふわふわとおぼつかない。


ワゴンから降り、草の茂る地面に立って目の前の神殿を見上げる。


それは最初に降り立った南の神殿とそっくり同じ形で、日の光を浴びて白く輝いていた。少し高い床へ続く階段も、大きな屋根も、それを支える太い円柱も、すべてが白い石でつくられている。私は石の階段を登ってなかへと入った。


神殿の床は森のような深い緑色をしていた。南の神殿は海の色をした瑠璃でつくられていたけれど、こちらは翡翠のようだ。どちらも自然の美しさを崇拝するティーダル島らしい神殿だ。


そしてその神殿の中央、緑の床から1メートルくらい離れた空間に、女神さまがふわりと浮いていた。顔はルリに瓜ふたつで、相変わらず天女のような服装をしている。女神さまは空中をスーッと移動してこちらへ寄ってきた。


「よく来たわね沙世、じゃあさっそく綺麗な金の玉をここに移してちょうだい」


そう言って女神さまは中央の空間を指さす。いきなり?と思ったけど、まずは儀式を終わらせるのが重要なのだろう。これが失敗したらティーダル島の人々が飢饉で困るかもしれないのだ。


私は女神さまに誘導されるままに神殿の中央に進みでた。きぃちゃんを抱いて隅で見守っている瑠璃に視線を送ると、彼女はかすかにうなずいた。


女神さまが言う。


「ここに跪いてこう言うのよ『おお!この世で最も美しい女神が与えし神の力、綺麗な金の玉よ!ここにありて豊かさと平穏をもたらしたまえ』!」


またソレ言うんだ。後半はともかく前半部分はいるんだろうか?はなはだ疑問だったけど、私はおとなしく床に跪いた。言われた通りの言葉を唱え始める。


「オオ、コノヨデモットモ、ウツクシイ・・・」


ところが女神さまが大声でそれを止めた。


「ストーップ!!」


「?」


私は首をかしげて女神さまを見あげる。女神さまは両手を腰に当てて、なにやら怒っているようすだ。


「沙世、何よその棒読みは?もっと感情を込めて言わないと!」


ええ?南の神殿ではこれで大丈夫だったんですけど?


私の困惑を無視して、女神は「こうやるのよ」と実演しはじめた。


「お~おおお!この世でもーっとも、う!つ!く!し!い!」


大げさな身振り手振りまでつけた大熱演だ。私は引いた。自画自賛する女神を見ていられずに、視線が空中をさまよう。


「こうよ、分かった!?」


「は、はあ」


そんなの無理、絶対無理。少し考えて、とりあえず思いついたことをやってみることにする。


私はあらためて床に跪くと、女神に止められないように早口で一気に言う。


「綺麗な金の玉よ!ここにありて豊かさと平穏をもたらしたまえ!」


すると私の胸から綺麗な金の玉が飛び出し、神殿の中央にとどまって美しい光を放ちはじめる。もしかしたらと思ったけど成功したようだ。


「ちょっとぉおお!なんで私を讃えるところをはしょったのよ!?」


怒る女神さま。なくても問題なかったじゃんと開き直る私。


ルリが走り寄ってきてあいだに入る。


「女神さま、沙世さまはお疲れです。ワラバーアガチーにさらわれて大変だったのですから」


すると女神は急に気まずそうになった。


「そ、そうだったわね」


少しは責任を感じているかもしれない。不自然なほどの笑顔をつくって、私を急に褒めだす。


「沙世、ひとりでよく頑張ったわね!さすが私が見込んだだけあるわ」


私は足元をウロウロしていたきぃちゃんを抱き上げた。


「この子が助けてくれたんです。ワラバーアガチーの尻尾に食いついてくれて」


「ブルシズね、可愛いじゃない」


女神さまはルリと違ってモフモフの可愛さが分かるようだ。私からきぃちゃんを受け取って、楽しそうにぷにぷにの肉をつまんだり匂いを嗅いだりしている。私は神殿の外を指して続けた。


「それに、アヒルンゴたちにも助けられました。特に隊長はすごく頭がいいんですよ」


本当に、隊長がいなかったら今ごろは森の肥やしになっていたかもしれないのだ。女神さまにも知っておいてもらいたかった。


「その子たちを見たいわ」


女神はきぃちゃんを抱いたまま、ふわりと飛んで神殿の外へ出る。


「クワクワッ!!」


突然の女神登場に、アヒルンゴ隊長が走り寄ってきた。そして女神さまの前で何度も頭をさげて、何かを訴えている。


「クワックワ!クワッ!」


「あらヤダ、この子」


女神さまは目を丸くした。そして空気を分けるように優雅に片手を振る。その手から金色の光がこぼれて、アヒルンゴ隊長の体に降りかかった。


次の瞬間、隊長の姿が人間に変わった。私と同い年くらいの青年で、髪がクリンクリンに跳ねている。


えっ!?


突然のことに呆然としていた私は、遅ればせながらそれに気づいて大きな悲鳴をあげた。


「イヤぁああああああ!」


青年は一糸まとわぬ素っ裸だったのだ。

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