アヒルンゴ隊長は行動する
どうしよう!?沙世さんが巨大トカゲにさらわれてしまった!
ボクはトカゲが去っていった方向を呆然と眺めた。ボクたちアヒルンゴは水上を行くようには早く陸を走ることはできない。頑張って追いかけたけど、木から木へと飛び移って移動するトカゲにあっという間に引き離されてしまった。
でも、あのぽっちゃりブルシズが勇敢にも尻尾に食らいついて行った。途中で振り落されたりしてないといいな。あの子だけでもついていてくれれば少しは安心だ。
「「クワ、クワッカー?」」
(隊長、どうしましょう?)
ボクと同じように呆然としていたアヒルンゴ隊員が、途方にくれたように聞いてきた。ボクらは行き場所を指定されれば御者がいなくても目的地へ人を運ぶ。だけど人間の命令なしには動いたことがないので、隊員たちが戸惑っているのも無理はない。
ボクは考えた。
アヒルンゴ隊の隊長としては、このままルリさんか沙世さんが帰ってくるのを待つのが普通だ。ボクたちは人間の命令も許可もなしに勝手に動き回ってはいけないのだから。
でも、今は非常事態だ。ルリさんは何も言わずにいなくなり、沙世さんはさらわれてしまった。ワゴンでただぼんやり待っていても状況は良くならないだろう。
北の神殿に行ってみようか?
神殿に女神さまがいらっしゃるならきっと助けてもらえる。でも女神さまがいなかったら?
よし、沙世さんを探しに行こう!
ボクはそう決めて、隊員たちの方へ向き直る。
「クワクワッ、クワ、クワッカ!」
(ボクは沙世さんを探しに行く!)
「「クワクワ!?」」
(マジっすか!?)
「クワ、クワ、クワッカークワ!」
(うん、お前らはワゴンで待機な)
ボクは説明する。隊員たちはワゴンに残って、誰かが帰ってきた場合は片方はボクに知らせるために走り、もう片方が残るのだ。ボクたちアヒルンゴはブルシズほど鼻は良くないけど、仲間の匂いならけっこう離れていても感知することができる。
「「クワッカー!」」
(了解っす!)
ボクらは隊列を組んでいったんワゴンへと戻った。とにかく夜が明けないことには捜索は難しいと思ったからだ。あのトカゲはルリさんが言っていたワラバーアガチーだろう。だったら沙世さんが危害を加えられる危険はない。
途中、あの湧き水のところに寄って、落ちていた水筒を拾った。沙世さんが水を満タンに入れておいてくれて良かった。手がないボク達では水筒のフタは開けられないから。
そしてワゴンを停めた場所まで戻ると、火の消えてしまった焚火を囲むようにして皆で寝った。
でも、ワラバーアガチーに捕まっている沙世さんをどうやって助けたらいいのかな?
ボクは目を閉じたまま考えた。どうにかしてアイツの気を逸らさせることはできないだろうか?いやそれ以前に、居場所を見つけられるかどうか心配だ。
眠れないまま悩んでいるうちに、空がだんだんと明るくなってきた。ボクが立ちあがると隊員たちもすぐに気づいて起きた。ボクと同じようにあまり眠れなかったようだ。
「クワクワクワ!」
(ではあとを頼む!)
「「クワッカー!」」
(了解っす!)
ボクはくちばしで水筒の紐を持つと、まだ薄暗い森のなかを昨夜追っていった方角へ走った。沙世さんに食べさせるため、羽の下に干し肉の袋を押し込んである。こうすると多少はものを持ち運ぶことができるんだ。
森のなかの道なき道をボクは走った。
ときどき立ち止まっては、周囲の物音に耳を澄ませたり木のうえを探したりした。そうやって半日も探したころ、ボクは空腹を感じてきた。思えば今朝から何も食べていない。ここらで腹ごしらえをしておこうと、ボクは鼻を利かせて空気のなかに食べ物の匂いがないか探した。
あっちだ!
北部に多く自生する赤い実の香りがする。香りのほうへ向かって歩いて行ったボクは、そこで思わぬものを見つけた。うっかり口を開いてしまったので、水筒が足元にボコンと落ちる。
「クワッ!?」
赤い実のなる木の下に、あのブルシズがひっくり返っていたのだ。周囲を見回すが、そこには落ちた木の実が散らかっているばかりで、沙世さんの姿はない。やっぱり昨夜、この子だけワラバーアガチーに振り落されてしまったのだろうか?
まだ生きているかな?
恐る恐る近づくと、静かな呼吸音が聞こえてきたのでホッとする。もしかしたらケガをして動けないのかもしれない。ボクは頭をさげてブルシズの顔をのぞき込んだ。
「ぶふっ」
何やら言って寝返りをうつブルシズ。その顔には平安そのものの表情が浮かんでいた。口元にはヨダレが垂れている。ボクは羽をくちばしに当てて考えた。
これはもしかして・・・腹いっぱいになって寝ているのか?そうなのか?
よく見れば周囲には食い散らかした赤い実の残骸が散らばっている。きっと熟して落ちたのを拾って食べたのだろう。
ボクは肺いっぱいに空気を吸い込むと、大きな声で叫んだ。
「クワックワー!!」
「ば、ばふ!?」
ブルシズは飛び起きてキョロキョロする。そしてボクを見つけると「ぶふぅ」と不満そうに鳴いた。
「クワ!クックワッカ?」
(おい!沙世さんはどこだ?)
「ぶふ?」
言葉が通じていないのだろう、ブルシズは首をかしげる。ボクは身振りを交えて再度聞いた。
「クックワ、クックワカ?」
(沙世さん、沙世さんは?)
「ば、ばふっ!」
「あっ、そうだ!」とばかりにブルシズは慌てだした。周囲を嗅ぎまわったりクルクル回ったりしている。
ボクは呆れた。昨夜はあんなに頑張ってトカゲの尻尾に食いついていたのに、なんで沙世さんのことを忘れてるんだよ?
「ばうっ!」
そんなあきれ顔のボクには目もくれず、ブルシズは突然走り出した。ボクは慌てて水筒を拾ってその後を追った。置いて行かれないように必死に走るけど、ブルシズは早いからどんどん引き離されてしまう。
やがて姿が完全に見えなくなった。困ったなと思いつつ見当をつけて進んでいると、森に遠吠えのような声が響いた。
「ばぅううう!ばうばうばぅうううう!」
あっちか。
遠吠えのした方へと急いで向かう。地面に沙世さんが倒れているのを発見して側へと駆け寄った。どうやら無事のようだけど、少しようすがおかしい。ブルシズがいくら顔を舐めても沙世さんはいっこうに目を覚まさないんだ。
水を飲ませてあげられたらいいんだけど。
でも悲しいことにボクではフタが開けられない。ブルシズにも無理だろう。
あっ!
どうにか出来ないものかと試行錯誤していたら、紐がくちばしをすり抜けて水筒が落ちてしまった。
ボコン!!
大きな音をたてて、水筒は沙世さんの頭にヒットした。




