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小さなお手伝い集団

「うわあ、なにこれ?」


女の子はみな背丈が20センチくらい。長い黒髪を背中に垂らし、ルリと同じような服を着ている。近づいてきた1人をよく見れば、顔立ちがルリそっくりだ。いや、彼女よりほっぺがふっくらして幼く見えるから、おチビちゃんの頃のルリといった感じか。そのチビルリちゃんが総勢30人くらい、そこらにフワフワと浮いている。


「この子らは私の分身で、掃除、洗濯、炊事などの雑用をさせます」


つまりは女神の分身の分身ということか。いったいどこまで分身を増やせるんだろう?


「これから沙世さまの服をご用意しますので」


「それって、こちらの世界の服?」


ルリがこくりとうなずくので、どんな服なのかと尋ねる。暑いからさっさと着替えたいけれど、窮屈だったり動きにくいような服は嫌だなと思ったからだ。


「こんな感じです」


ルリは手のひと振りで変身してみせた。


それはパンツとチュニックの組み合わせのような服装で、足元は素足にサンダル。パンツはゆったり目でくるぶしの少し上で裾がすぼまるデザイン。Vネックのチュニックはお尻が隠れるくらいの丈で、動きやすいように両脇にスリットが入っていた。袖は肘が隠れるくらいの長さだけど、袖口が広がっているので風通しはよさそうだ。


「動きやすそうでいいね!」


「はい、これはこの島の庶民の一般的な衣服です。富裕層の着るドレスもありますが、暑い国なので楽なほうがいいと思いまして」


うんうん、バカンスだしね。納得していると、ルリが型から下げた小さなポーチから、長い棒に巻いた布をにゅっと取り出す。ポーチと中に入っていた物の大きさがだいぶ合わない気がするんだけど、これも女神の力なんだろう、たぶん。


「これでこの子たちに服を作らせます」


ルリが取り出した布を空中にほうり投げると、チビルリちゃん達がサッと集まってそれをキャッチする。数人がかりで巻かれた布をひろげ、一人がハサミを取り出して切り始めた。


「え?これから作るの?」


「はい。1時間あれば3着は作れますので心配ありません」


そんなに早く?と思ったけど、見れば数人はもう針を動かし始めている。ルリはまたポーチから追加の布を取り出して彼女らに投げていた。


「ルリがやったみたいに、魔法?で変身するんじゃダメなの?」


「せっかくですから本物を身につけていただきたいのです。それに、この世界に存在しないものはあまり持ち込みたくありません。申し訳ありませんが、着替えができたらそのお洋服もあずからせていただきますので」


私はうなずいて自分の服を見下ろす。


私の持ち物はみんな本来はここにはないはずのものだから、持ち込むなっていうのは分かる。万が一にも島の人の手に渡ったら、こっちの世界になんらかの影響が出てしまうかもしれないからだ。 


「準備ができるまで沙世さまは休んでいてください。迷うといけないので神殿からは出ないようにお願いします」


「わかったわ」


だったら景色でも眺めていよう。私は神殿のすみっこへ歩いて行って座った。床の端がちょうど縁側のようになっているので、その淵に腰かけたのだ。地面からはけっこう高さがあるので足がつかない。子どもみたいに足をプラプラさせる。


そこにチビルリちゃんのひとりがフワフワと飛びながら、グラスに入った飲み物を持ってきてくれた。


「ありがとう」


礼を言う私にチビルリちゃんはコクコクとうなずき、頭を下げると飛んで行った。言葉は理解してるみたいだけど、しゃべれないっぽい。


ルリもチビちゃん達もおおもとは女神のはずなのに、個性が少しずつ違うらしいのが面白い。ルリは女神と違い、真面目で淡々としている。そのルリから生まれたチビルリちゃんたちは、見た目に愛らしさがあって親しみが感じられた。


「これはハーブティーかな?」


グラスに入った飲み物は薄い水色をしていて、顔を近づけるとパイナップルのような香りがした。よく冷えたそれを一口飲んでみると、スッキリとした甘さで飲みやすい。スーッと体の熱が引いていく気がする。暑い島の気候にピッタリだ。


異世界で最初のウェルカムドリンクを飲みながら、私は眼下の景色を見下ろした。斜面に生い茂る森とその先に広がる海。耳をすませると微かに波音が聞こえてきた。森に住んでいるらしい鳥の声も。


ああ、いい気持ち。


潮風をうけて私は目を閉じる。こんなにのんびりするのはいつ以来だろう?全く知らない世界に連れてこられたのに、不思議と不安はなかった。例え一時的にではあっても、生活や仕事のことを考えなくていいってすごく気楽だな。 


「沙世さま、お洋服ができました」


ボーッとしてる間に1時間経ったらしい。振り向くとルリの隣に服が3セット並んでいる。それぞれチビルリちゃんたちが持って浮かんでいるのだ。どれか選べということだろう。


服はそれぞれ上下が同系色でコーディネートされていて、チュニックの裾や袖口に控えめな刺繍が入っている。履物は皮と植物のツルでできたサンダル。服はどれも可愛いから悩んだけど、青系の服に鳥の刺繍が入ったものを選んだ。


「え、ええっと、どこで着替えたらいいかな?」


チビちゃん達から服とサンダルを受け取った私は、ジッとこちらを見ているルリに尋ねた。


「どこでも・・・ああ、私は後ろを向いていましょう」


ルリは察したように私に背を向けた。空中に浮かんでいたチビルリちゃん達も、マネするようにいっせいにむこうを向く。


いや、そうじゃなくて。


丘の頂上に建っている神殿は、だだっ広いだけで壁がない。無人島とは言え、大自然のなかでのフルオープン着替えには抵抗がある。下着も替えるんだし、誰も見てないとしても恥ずかしいよ。


「あの、オープンすぎて恥ずかしいんだけど」


「そうなのですね」


私の声に振り向いたルリは、ほんの一瞬目を見張る。そしてポーチから布を出すとチビルリちゃんたちに命じた。


「これで目隠しを」


たちまち私の周囲にぐるーっと一周、布のカーテンができた。即席の更衣室のようなものだ。布を持って空中にとどまるチビちゃん達は、お利口さんなことに顔を背けて私の着替えを見ないようにしている。


「ありがとう!」


私は急いで着替え始めた。パンツのウエストはゴムになっているし、普段着ている服とさほど変わらないのがありがたい。着てみると麻のような素材で風通しがよく、涼しかった。


サンダルも意外に履きやすい。足をおおう部分のツルは収縮性があって、足にピッタリフィットするのだ。それにしても服もサンダルもサイズがぴったりだけど、どうやったんだろう?


「こんな感じでいいかな?」


簡易更衣室から出たら、周囲のチビルリちゃんたちがいっせいに拍手してくれた。「似合ってるよ」ということだろうか。なんだか照れくさい。


脱いだ服をルリに手渡すと、「お預かりします」と言ってポーチのなかに入れた。あのポーチ、スマホとお財布を入れたらいっぱいになりそうな大きさなんだけど、いったいどうなっているんだろう?


「では参りましょうか」


ルリの先導で神殿の階段を降りると、神殿の前にはいつの間にか乗り物らしきものが駐車していた。屋根のある箱型の車体に、前後2つずつの大きな車輪がついている。乗り物は馬車とよく似た感じだけど、そばにいるあの生き物は何だ?


「え、えーと、アヒル?」


私は自分よりも大きいその生き物を見上げた。



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