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ルリときいろちゃんは同類?

それからは大変だった。


倒れた女将を宿の主人が運び、常連客が近所の医者を呼びに走った。そしてレストランのお客を放っておくわけにはいかない主人に代わり、私とルリは女将のベッドのそばに付き添うことにした。夫婦の寝室はボヤで使えないから、空いている客室を使ったのだ。


いろいろあって疲れちゃったのね。


そう思いながら、私は白い顔で横たわる女将を見つめた。ベッドに寝かせるまえに主人が髪をほどいたので、その長い髪は女将の体とともに布団のなかに横たわっている。ルリは部屋のあちこちを回って安全を確認したあと、女将には興味なさそうにソファに座ってしまった。


「女将さん、分かりますか?」


女将が身じろぎしたのでそっと声をかけると、彼女は意識を取り戻した。ベッドわきに座る私に気づいて状況を理解したようだ。謝罪の言葉を口にした。


「申し訳ありません。お客さまに飛んだご迷惑を」


そう言って起き上がろうとするのを、私はそっと手で制止する。


「いけません。女将さんは倒れたんですよ?お医者さんに診てもらうまで安静にしていてください」


「だけどレストランが」


「そちらはご主人がやってますから。残りのお料理を包んで持たせて、お客さんには帰ってもらうようです」


私の言葉に女将は無念そうなため息をついたが、やはりどこか具合が悪いのだろう。ベッドに沈むようにして再び目を閉じてしまった。


トントン。


しばらくして部屋にノックの音が響くと、医者を連れた主人が顔を出した。私たちに丁寧に礼を言うと、大きな包みを差し出して言った。


「お料理はこちらに詰めておきましたので、どうぞお部屋でゆっくりお召し上がりください」


「「ありがとうございます」」


ここまで空気のようだったルリが、横からきてサッと包みを受け取る。


「沙世さま、邪魔になるといけませんから部屋に戻りましょう」


「う、うん」


いや、ルリは絶対ご飯が食べたいだけだろうと思ったけど、医者の邪魔になるのは確かだから、速やかに部屋に戻ることにした。


ところが部屋の前まで戻ると、ブルシズのポッチャリ担当である「きいろちゃん」がお座りをして、私たちを待っていたようだ。


「ばふぅうう・・・」


悲しそうな顔をしてきいろちゃんは鳴いた。心なしか肩を落としているように見える。私はしゃがんで彼女の頭を撫で、慰めの言葉をかけた。


「よしよし、女将さんが心配なのね。でもちゃんとお医者さんが診てくれてるから大丈夫よ」


でも、きいろちゃんは私の膝に前足をのせて顔をグッと近づけると、何かを訴えるように鳴き続けた。


「ばふぅ!ばふぅうう!!」


顔が近いから鼻息がかかる。子供のころに嗅いだような、どこか懐かしい香りがした。


「うーん、どうしたんだろう?」


首をかしげる私に、ルリが言った。


「そのブルシズはお腹が空いているのではないでしょうか」


「あっ、そうか。きっとこの騒ぎのせいでご飯をまだもらってないんだわ」


さすがに主人もブルシズたちの世話にまで気がまわらなかったのだろう。きいろちゃんは女将の心配ではなく、自分のご飯の心配をしていたらしい。本当にルリにそっくりだ。


「だけど、この子たちは何を食べるの?」


「雑食なので何でも食べます。普通は米や麦を炊いたものに、あれば肉や魚を少し乗せてやる程度です。おそらくどこかに用意はしてあるのではないかと」


私はきいろちゃんに聞いた。


「ご飯のある場所は分かる?」


「ばふっ!」


急に元気になったきいろちゃんは、私たちを先導するように歩き出した。階段を降りてフロントの奥へと入っていく。そこはブルシズたちの待機所らしく、数匹のブルシズ達が心細そうにウロウロしていた。みんなお腹が空いているのだろう。 


隅のテーブルの上に、スープで炊いたらしい麦の入ったバケツがあった。そばに7つの食器がおいてあったので、私たちはそこにご飯をよそってやった。部外者が勝手なことをすると思われるかもしれないが、お腹を空かせたブルシズ達が可哀そうでならなかったのだ。


ブルシズ達は数匹ずつ交代でご飯を食べに来た。どうやら皆で連携して、ちゃんと警備の仕事をしながら休憩しているらしい。きいろちゃん以外は。


「ええっと、あなたはお仕事はいいのかな?」


皿が空になればおかわりをねだり、まだ食べ続けている彼女へ私は声をかけた。


「ばふっ!」


返ってきたのは、「私はこれでいいんです!」と言わんばかりの元気なひと声だった。だいぶマイペースな性格らしい。


「さあ、私たちもご飯にしましょう」


「そうだね」


ルリの声掛けに立ち上がる。さすがに私もお腹が空いた。バケツの残りを全部きいろちゃんの皿に入れてから、私たちは今度こそ部屋に戻った。



「・・・コルーのピリ辛焼きが、3人前しかない」


部屋に着くなりテーブルのうえで包みを開いたルリは、むっつりとした顔で呟いた。普段は表情に乏しい彼女なので、これはかなり怒っていると言っていい。


「それは仕方ないじゃない。ほかの料理だって美味しいし、量はじゅうぶんにあるでしょ?」


私はそう言ってルリを落ち着かせようとした。自分の妻が倒れて心配ななか、宿の主人はできる限りのことをしてくれたのだ。実際、注文通りではないものの量はたっぷりあるし。


「しかし、コルーのピリ辛焼きはここでしか食べられないのですよ?」


ほかの店でも似たような料理はあるが、この宿のものはコルーを漬け込むタレが独特で、ほかではマネできない逸品らしい。きっとそのタレの調合は企業秘密なのだろう。


「これはそもそも、ここに放火した者のせいです!こんな事態を招いた者を許してはいけません!」


「う、うん、そうだね」


ごもっともだが、いつになく熱くなっているルリに若干引きながら答える。食べ物の恨みは恐いと言うが、ルリの恨みは格別に強いようだ。


「ルリ、そんなにピリ辛焼きが好きなら、」


「あなたが全部食べていいよ」と言いかけた私をさえぎり、ルリが決然と言った。


「沙世さま!」


「はい?」


拳をつくって立ち上がったルリを私は見上げた。


「私たちでアレを追い込みましょう!極悪非道な人間を野放しにしてはいけません」


「アレ」とはあの人のことだろう。ルリはモグモグと夕食にかぶりつきながら、明日実行する作戦について話し出した。


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