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さあ、思う存分モフモフしてください!

植物園は思っていたよりもさらに広かった。ルリの解説によれば、もともとここにあった原生林をそのまま残しているそうだ。だから植物園と言っても温室などの展示室があるわけではない。ただ原生林のなかを歩きやすいように、ウッドデッキの遊歩道が設置されているだけだ。


「街の真ん中にこんな森があるなんてすごいね」


ウッドデッキを囲む森の木々を見渡しながら、私は感心して言った。周囲は商店や家がひしめくにぎやかな街なのに、ここには見上げるように大きなマッチョスやヤシの木が生え、その下にはカラフルな葉のシダや草が生い茂っている。


「ティーダル王国の人々は、崇拝する女神さまがつくられたこの地の自然を大切にしています。都市部であっても、このようにできるだけ自然を残す努力をしているのです」


それは本当に素晴らしいことだ。私は立ち止まって目を閉じ、緑の香りのする空気をゆっくりと吸い込む。耳に入ってくるのは、風が木々をサワサワと揺らしていく音と鳥の鳴き声だけ。先ほど通ってきた街の賑わいがウソのようだ。


「あ、沙世さま!あそこにパッパパラッパー・パパッパ・パッパパパッパがいます!」


へ?ぱっぱらぱあが何だって?


ルリが指さす方を見ると、大きな木の枝に美しい鳥が1羽とまっていた。


鳥はカラスくらいの大きさで、全身がとてもカラフルに彩られている。水色の羽は先端が濃い青で縁どられていて、背中は新緑のような緑色。頭頂部と胸は鮮やかなオレンジで、とても綺麗だ。


「あれって」


珍しい鳥なの?と聞こうとしたら、鳥が枝から飛び立った。そのまま下降して、ウッドデッキのうえ、私たちのほんの1メートル先あたりに降りる。ルリが指に人差し指をあてて声をたてないように私に合図する。


「パッパラッパ!ラッパ!パッパランランパン!」


鳥はテンポ良く歌い始め、それにあわせて頭を激しく前後に動かした。ステップを踏むように2本の脚を動かし、左右の翼を腕のように振り回して、ノリノリで踊る。


いったい何が始まったわけ?


ワケも分からず呆然とそのダンスを眺める。鳥はしばらく踊っていたが、ある瞬間にピタリと歌うのも踊るのもやめた。こちらを向いて合掌するように両翼を合わせて天をあおぎ、決めポーズ?をつくっている。


そして私と目をあわせると、歌うようにこう言ったのだ。


「そなた~、心して聞けラッパッパ~!」


「え?」


私は心底驚いた。独特の話し方もそうだが、オウムのような口マネとは違い、意志をもって私に話しかけているのが分かったからだ。この鳥は、以前に釣り上げたあのタコパーマと同じように話せるらしい。何を言われるのかと私は身構えた。


「このまま進めばパッパ!そなたに待ち受けているのは困難のみラパッパ。女どうしの戦いに巻き込まれて辛酸をなめるラパッパッパ~!」


「ちょっ、それどういうこと!?」


「さらばじゃパラパ~!」


言いたいことだけ言うと鳥は空へと飛び立っていった。木々のあいだを抜けて遠ざかっていくその姿を呆然と見送る。


「ルリ、あれはいったい何!?」


となりで難しい顔をしているルリに私は尋ねた。


「パッパパラッパー・パパッパ・パッパパパッパは突然人のまえに現れ、今のように勝手に運命を予言することがあるのです」


「予言!?」


私は震える。この先に困難が待ち受けるとか、辛酸をなめるとか、不吉なことしか言われていないじゃないか。


「それって、当たるの?」


「当たらないです」


「へ?」


「パッパパラッパー・パパッパ・パッパパパッパには未来を予見する力があるのですが、たいていは口からでまかせのウソを言うのです」


「なによそれ」


ただのお騒がせの鳥ってこと?私はホッと胸をなでおろす。しかし続くルリの言葉を聞いて、また顔が強張るのを感じた。


「ですが、10回に1回は本当のことを言うので、まったく無視するわけにもいきません。本当のことを言った場合、その予言は必ず当たります」


「なにその性格の悪い鳥!?」


未来を見る力があるのに、たいていはウソを言って、たまに本当を混ぜる。マジで性格が悪い。


「ルリ、私はどうしたらいいの?」


縋りつくように聞いた私にルリが出した答えは、あっさりしたものだった。


「どうにもできません。万が一予言が本当だった場合のことを考えて、準備をしておくしかないのです」


「で、でも、きっと当たらないよね?」


9割がたはウソで当たらないのだ。だったら大丈夫なはず。私、くじ運悪いし。ルリは眉根を寄せて何ごとかを考えているようすだったが、気を取り直したように視線を道の先へと向けた。


「沙世さま、どうにもできないことを心配するのはやめましょう。もう少し歩けばティンサーの花畑です。可愛いモフモフに会いに行きませんか?」


そして、励ますように私の背にそっと手をあて、先を促す。


「う、うん、そうだね!」


心に居座りそうな悪い予感を必死に脇に避けて、私はせいいっぱい元気よく答えた。ふたりでしばらくウッドデッキを進むと、ふいに森が終わって視界が一気に広がった。ティンサーの花畑へと出たのだ。


ティンサーの花はホウセンカによく似ていた。30センチくらいの丈の草に、小さな赤い花が鈴なりに咲いている。まさに今が花の盛りらしく、辺り一面が赤い花の海だ。その上をたくさんの黄色い蝶が舞うように飛び交っている。私の両手を合わせたくらいの大きな蝶なので、その光景には迫力があった。


「沙世さま、捕まえました!」


ウッドデッキを歩きながらそんな景色に見惚れていたら、ルリの声がした。いつの間にか「小さくて可愛いモフモフ」を見つけたらしい。


ふり返れば、ルリがお握りを作る時のように両手を合わせて立っている。モフモフはその手のなかにいるようだ。


すいぶん小さいわね?ハムスターみたいな生き物かしら?


子供のときにハムスターを飼っていたことがある私は、期待値を爆上げしてルリの手をのぞき込んだ。ルリが私の鼻先で、得意げに手のひらを開いてみせる。


「いっ、いやぁあああああああああ!!!」


特大の毛虫をつきつけられた私の絶叫が、花畑に響き渡った。驚いた蝶たちがいっせいに空へと舞い上がる。美しく幻想的な風景だが、そんなことに気づく余裕はそのときの私にはなかったのである。


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