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やっぱり有名な人らしい

ルリが目指していたスイーツの店はテイクアウト専門で、今流行っていると言うだけあって長蛇の列ができていた。そのスイーツはサンサローネといい、小麦粉の生地を丸めて揚げたなかに、フルーツと生クリームを入れたものらしい。その列に並びながら、私はまだムカムカと腹を立てていた。


「あの人いったい何なの!?ガイドブックにお金を払って不正をしてるなんて、絶対ウソだよね」


「ええ、あのガイドブックは読者の支持をうけている、信頼がおける出版社のものです。不正などそう簡単にはできないでしょう」


私はうなずく。まだあの宿にいて半日だけど、宿主夫婦の人柄の良さは私にも分かった。何より快適で食事が美味しいし、あのイランコトシーナ3世の言うことはみんなでたらめだ。


「気にしなくていいですよ。あの人ちょっとおかしいんです」


私たちの会話が聞こえたのだろう、すぐ後ろに並んでいた3人組の若い女の子のひとりが話しかけてきた。さっきの騒ぎを見ていた地元の子らしい。連れのふたりも次々に話しだす。


「そうそう!いつもランプの宿の悪口を言ってるんですよ」


「さっきみたいなウソをついて、あの宿のお客を奪ってるんです。私たちは地元だからよく知ってるけど、観光客のなかには信じちゃう人もいて」


「そうなの?ずいぶんひどいわね」


私が眉をしかめると、3人娘もうなずく。そう言えば、ルリは「急なキャンセルが出て予約がとれた」と言っていたっけ。そのキャンセルも、もしかしたらあの人のせいなのかもしれない。


「でも、なんであの人はそんなにランプの宿を目の敵にしてるの?」


不思議に思った私は聞いた。女の子たちは顔を見合わせ、初めに話しかけてきた子がまた口を開く。


「昔はあの人の宿がここらで一番良い宿って言われていて、人気だったんです。それが今はランプの宿に抜かれちゃって、それがくやしいんじゃないんですかね」


別の女の子も続ける。


「それだって、あの人が宿を変にしちゃったから人気がなくなったんですよ」


聞けば、昔はあの辺りでは一番といわれた、品の良い老舗の宿だったのだという。それをあのイランコトシーナが安っぽい金ぴか趣味に改装してしまい、名前も「高貴の宿・金ぴか」に変えたのだそうだ。「金ぴか」はそこから客離れがすすむ一方なのだとか。そりゃそうだろう。


「そう言えば、貴族出身だとか王族がどうとか言っていましたね」


ここまで黙って聞いていたルリが口を開いた。あんな話は信じてないと思うけど、名前もアレだし気になるのだろう。女の子たちはぷっ!と吹きだした。


「あの人のお母さんは元は男爵家の令嬢で、老舗で裕福だったあの宿に嫁いできたんです。だから自分も貴族出身だって威張ってるんですよ」


「違うのにねー」と女の子たちは笑いあう。確かにその話だと、貴族出身と言えるのは母親だけだ。


「では、その母親が王族の親戚なのですか?」


ルリが重ねて問うと、皆が「違う違う」と首を振った。さっきの子が半笑いで説明する。


「なんでも、その貴族出身のお母さんの従妹のご主人の妹だかが、今の国王陛下の従兄にあたる方に嫁いでいるんだそうです。だから自分は王族の親戚だって思ってるらしいですよ」


「ええ?それは親戚って言わないよね?」


そんなので親戚なら世の中親戚だらけである。


「そうなんですけど、自分は親戚というか王族の一員だくらいに思い込んでるらしくて、名前もイランコトシーナ3世とか勝手に名乗っちゃって、ぶはっ!」


もうこらえきれないと言うように吹き出すと、女の子たちは腹を抱えて笑った。なんでも、ティーダル王国にはかつてイランコトスナーという、歴史に名を残す賢い女王さまがいたそうだ。彼女はその女王の名と自分の名の「シーナ」を勝手にくっつけて名乗っているらしい。


「でも3世っていうのは?」


私が聞くと3人はまた噴き出した。その理由は誰にも分からないそうだ。


「た、たぶん、ハハ!女王さまみたいで、カッコイイとか思ったんじゃ、ブハハ!ないですかね」


「はぁ~」


あまりのバカバカしさに私はため息をついた。関わっちゃいけない人だというのは分かったので、今後は道で見かけても、目を合わさずに足早に立ち去ることにしよう。私は話題をイランコトシーナ3世から地元の観光情報へと変えることにした。


「ところで、この辺りでお勧め観光スポットとかありますか?」


すると女の子たちが口々に答える。


「観光なら、ここから少し先にある公園がお勧めですよ。城下町の夜景が一望できるんです」


「大きなマッチョスの木があるから乗ってみてください」


「そうそう、あのマッチョスは最高です!」


へえー、異世界の夜景かぁ。ガス灯の灯った街並みはきっと綺麗だろう。マッチョスは前にも乗ったけど、夜風に吹かれながら乗るのはまた違った風情があってよさそうだ。ルリを見るとうなずいてくれたので、デザートを買ったらそこへ行くことにした。


そうこうしているうちに私たちの順番が来たので、私は3人に礼を言って別れた。ルリはもちろん山ほどサンサローネを買い込む。


大きな紙袋2つ持って立ち去る私たちの後ろで、「お姉さんたちすごーい」という声がしていたけど、恥ずかしかったので聞こえないふりをした。


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