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もちろん料理は美味しいです!

「沙世さま、あそこに見えるのがティーダル王国のお城です」


ルリの声に、私はワゴンの窓に顔をつけるようにして外をながめた。ワゴンは今、一時的に異次元空間との接続を絶って、座席があるだけの元の仕様に戻している。城下町は人が多いため、万が一にでも人に見られてしまうことを避けるためだ。


丘の頂上に建つ城は、午後の日差しを浴びて真っ白に輝いていた。丘の斜面に建つ家々も白で統一されていて、まるで南欧の海辺の町のようだ。


「お城も家も真っ白で、南部にあった建物とずいぶん違うね」


「はい、城下町では石やレンガで建てたものを漆喰で固めた家が多いです。狭い場所に家がたくさん建っているので、防災面からそうしているようです」


ルリの言うとおり、今ワゴンが通っている大通りの両脇にも家が店舗がひしめいていた。道を行きかうアヒルンゴワゴンや人の数も多い。店舗は黄色や赤などでカラフルに塗られている店も多く、それが通りをいっそうにぎやかに感じさせていた。王さまのお膝元の街らしい繁栄ぶりだ。


「ティーダル王国は大陸との貿易で繁栄してきた国です。城下町は上下水道の設備が整い、ガスも普及していますので、快適に過ごせると思います」


ルリの言葉に私はうなずく。今通っている大通りは石畳になっていて綺麗に整備されているし、両側にガス灯も並んでいる。夜でも不便なく出歩けそうな雰囲気だし、治安も悪くはなさそうだ。


「私たちの泊まる宿はお城のある丘の斜面にあるのよね?」


私は街並みの向こうの丘に目を戻して聞いた。斜面にある「良い宿」の予約がとれたので、この町では宿屋に泊まることになっていた。事前に聞いた話では、王城に近い辺りは貴族や官僚が住む高級住宅街だけれど、中腹から下はグレードの高い宿や店舗が多いのだそう。


「はい!全国の食事の美味しい宿ランキング5年連続1位の宿です!!」


ルリはいつものポシェットから一冊の本を出して言った。その表紙には「グルグルンティーダ」と書いてある。なんでもティーダル島で人気のグルメ情報誌なんだそうだ。きっと彼女の愛読書なのだろう。そうに違いない。


私としても食事が美味しいのは嬉しい。それに丘の斜面にあるのだから、きっと眺めもいいに違いない。ここは西海岸だから、きっと海に沈む夕日も眺められるだろう。南部では東海岸沿いにいたので、ここまで斜めに北上するかたちで陸路を進んできたのだ。


「人気なのでなかなか予約が取れないのですが、今回は3泊で予約が取れました」


「え?」


私の胸を嫌な予感が過ぎる。人気なのに空いてるとか、また変な幽霊とかいるんじゃないよね?「ちょっと待って」と背もたれから身を起こした私に、ルリが続ける。


「なんでも急なキャンセルがあったそうです。ラッキーでした」


「そっか」


今回はいわくつきではないようだ。ホッとしてまた車窓に目を戻す。過ぎていく景色を眺めるうちに、ワゴンは丘の坂道を上り始めた。


前方の小窓からアヒルンゴたちの様子をのぞくと、尻尾をフリフリしながら大きな黄色い足で坂道を登っていく。坂道は大変そうでいつも可哀そうな気がしてしまうのだけれど、アヒルンゴたちは力持ちだからこれくらいの坂はどうってことないらしい。


「さあ、つきました」


宿の前でワゴンを降りると、アヒルンゴたちはルリの指示にしたがって宿の駐車場へとワゴンを引いて去っていく。宿には専用の駐車場と、世話をする人がついたアヒルンゴ専用の小屋があるのだそうだ。宿に落ち着いたら、あとで労いに行くことにしよう。


隊長たちを見送ると、私は目の前の宿をじっくり観察した。入り口には「ランプの宿」と書かれた看板がかかげられている、思ったよりもこじんまりとした宿だ。


宿の壁は眩しいくらいに白く、ドアや窓の鎧戸は涼しげなターコイズブルーに塗られていた。敷地と道の境には、ブロックでつくった低い塀が設置されている。花の透かし模様が入った白い真四角のブロックは、ゆるい感じに境界を分けていた。


「「ばふばふばふ!」」


宿の異国的な雰囲気に見惚れていると、ブロック塀の影から小さな白い生き物が2匹走り出てきた。私たちの周囲を数回クルクルと回ると、2匹並んでお行儀よくお座りをする。


「わあ、可愛い!」


私は思わずその場にしゃがみこんで、その生き物たちを眺めた。これは犬だろうか?


サイズもちょうど小型犬くらいの大きさだ。垂れ耳で顔は犬に似ているけど、鼻は短くて扁平な顔をしている。全体的に白いフワフワの毛でおおわれていて、4つの脚は短くて太かった。後ろ脚がちょっと「がに股」だ。お尻にはウサギのような短くて丸い尻尾がついていて、今はそれがぴょこぴょこと動いている。


「これはブルシズという生き物で、沙世さまの世界の犬に近いものです。耳も鼻もよく利くので、セキュリティー対策として飼われているのでしょう」


つまりは番犬ということか。こんなに可愛いのに人間の役にも立つなんて、なんてパーフェクトな生き物なんだろう。モフりたいけど、番犬だというならむやみに触らない方がいいのかもしれない。いや、やっぱりモフりたい。


「「ばふぅ~」」


私が葛藤していると、2匹は「いらっしゃいませ」とでも言うように、そろって頭をさげた。そして立ち上がり、私たちを案内するように宿へ先導する。1階に併設されているレストラン脇の小さな青いドアが宿への入り口らしい。


「では参りましょうか」


ルリが開けてくれたドアを入ると、目の前には薄暗い石の階段があった。モフモフが短い脚でそこを駆けあがっていく。宿のフロントは2階なのだろう。


うわあ!


階段をあがりきって明るいロビーにでた私は息を飲んだ。


正面には大きく開いた3つのアーチ形の開口部があり、広いバルコニーにつながっていた。バルコニーの中央に噴水。その先に見えるのはどこまでも青い海だ。


外からは分からなかったけど、宿は海に面した崖っぷちに建っていたのだ。階段を登ったらロビーの中央へと出て、正面にこの景色が飛び込んでくるように設計されている。きっと階段が暗いのはわざとなのだろう。


「ここから綺麗な夕日が見れそうね!」


「はい、あの噴水のフチはベンチ代わりになるようです。時間になったら眺めに来ましょう」


ロビーには階段と平行の向きにカウンターがもうけられていて、壁は外壁と同じく真っ白、床には柄の入った青いタイルが敷きつめられていた。モフモフたちは役目が終わったとばかりに、壁に空いた小さな穴へと入っていった。あの子たち専用の出入口らしい。


「ようこそお越しくださいました。私がこの宿の女将でございます」


カウンターの奥のドアが開いて、40代くらいのふくよかな女性が姿をみせた。


え!?


その奇妙な姿に、私はあやうく驚きの声をあげるところだった。


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