真実を知るとき
なるほど。それでアキノは妹がトウマと結婚できたか、幸せに暮らしてるか、気になってたのね。
アキノの話を聞き終わった私は悲しい気持ちで考えた。彼女は妹と好きな人の幸せのために身を引いたのだ。そのまま生きていればふたりの消息がつかめたかもしれないが、亡くなってしまったのでそれも叶わなくなってしまった。それが彼女の未練になってしまったのだ。
「だけど、年齢が全然違うよね?」
アキノの事情はともかく、そこが分からない。彼女が家を出て亡くなってしまったとき、3歳年下のハルノは19歳だったことになる。そこから5、6年過ぎているというのだから、今は20代半ばのはずだ。計算が全然合わない。
すると、ここまで黙っていたルリが口を開いた。
「沙世さま、恐らくはアキノの時間の感覚がおかしくなっているのではないかと」
「どういうこと?」
「この世にとどまっていても肉体はないので、時間の過ぎる感覚が生きている者とズレてしまったのでしょう。実際は本人が思っているよりも長い時間が経過していたのです」
「そんなあ!本当はあれから60年も経ってるってこと!?」
アキノは信じられないという顔をする。3年まえに亡くなったハルノは80歳近かったというから、確かにそのくらいは経っていないとつじつまが合わない。ルリはさらに続けた。
「あの店に入ったときから違和感はあったのです。できて数年というわりには建物が古く感じました」
「言われてみればそうね」
私はうなずく。そのときは気づかなかったけど、どちらかと言えば老舗感のある店だったわ。
「それに、沙世さまは洞窟に行く前に訪れた商店の女将を覚えていますか?」
「うん、子供のときに洞窟で幽霊を見たって言ってたよね・・・あっ!」
気づいた私は口に手をあてる。あの女将はどうみても60代だった。あの女将が子供のころといえば、やっぱり60年近く昔のことになるだろう。
私とルリは同時にアキノに視線を向けた。彼女はまだ信じられないという顔をして、首を横に振っている。
「お前は洞窟で寝ていたことがあると言ったでしょう?その寝てる間に数年、数十年が過ぎていたのでは?」
そうかもしれないと私も思う。アキノは歳もとらず、世間とも関わることができず、ずっとひとりでいたのだ。魂だけの存在にとって、数年も数十年もたいして変わらないのではないだろうか?
「ウソ、本当に?」
悲し気に眉根を寄せるアキノ。しばらく考えるようにしていたが、やがて決心したように顔をあげた。
「ねえ沙世、私をお墓に連れて行って」
村の墓地には、先祖代々守ってきたナナークサ家の墓があるのだそうだ。墓には亡くなった家族の名前と没年が記されているのだという。
「それを見れば納得できると思うの」
「分かった。なら今から行きましょう!」
私たちはワゴンを村はずれの墓地へ向かわせた。
村の墓地は海を見渡せる高台にあった。石でつくられた墓は家のような形をしていて、なかに2、3人は入れるくらいに大きい。それぞれの墓の周りは石垣で囲んであり、まるで小さな石の家が並ぶ住宅街を見ているようだ。
「あそこが家の墓よ」
アキノが指さす先には、ナナークサの名が記された墓があった。石垣の門を入ると、家みたいな墓の前にけっこうな広さの空間がとってある。そこにいくつかの石碑がたてられていて、亡くなった人の名が刻まれているようだ。
アキノが一番新しそうな石碑に近づく。顔を近づけると、そこに刻まれた文字を読み上げた。
「ハルノ、パピーノ朝886年、ウロ月10日」
ルリにそっと聞いたら、今年はパピーノ朝889年だそう。あの女性が言っていたことはやはり正しかったのだ。アキノは石碑の表面に触れるように手を伸ばした。そしてもうひとつの名前を読み上げる。
「トウマ、パピーノ朝884年、バク月3日」
アキノは「ああ!」と言ってその場にしゃがみこむ。
「そっか、よかった」
泣き笑いのような表情でアキノが呟く。トウマの名がここに刻まれているということは、ハルノと結婚して婿入りしたということだ。そしてハルノより2年早く亡くなったことになる。ふたりがどんな人生を送ったかまでは分からないけれど、少なくとも好きな人と結ばれたのだ。
「父ちゃんも、母ちゃんも、ゴメンね・・・」
両親の名も石碑に見つけたのだろう。そう謝る顔は涙に濡れていたけど、ホッとしたという表情をしている。
よかった、これでアキノも女神さまのもとへ行けるわね。
そう思ったその時、私はお墓の前に杖をついたお婆さんが立っているのに気づいた。小柄で可愛らしい雰囲気のそのお婆さんは、アキノのほうを見てニコニコと優しげな笑顔を浮かべている。
そして、その体はほんの少し透けていた。




