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洞窟探検

その翌朝、早起きした私はアヒルンゴたちにご飯をあげていた。昨日買った星形の果物を手に持って差し出すと、アヒルンゴたちは喜んで食べてくれた。


「クワッ!」


「クワックワッ!」


「クワーッ!」


3頭は「もっとくれ」と言うように、鳴き声で私の気をひこうとする。開けた口に果物を入れてあげると、くちばしをカタカタいわせて食べる。順番にあげているけど大忙しだ。用意した分はあっと言う間になくなってしまった。


「ごめんね、もうお終いだわ」


「クワァ~」


私が空になったバケツを見せると、3頭はしょんぼりしたように鳴いた。申し訳なくなって隊長の首を撫でると、あとの2頭も顔をつけておねだりしてくる。


「あ、ちょ、押さないで!」


甘えているのだろうけど、巨体のアヒル3頭にぐいぐい押されるのはキビシイ。踏ん張ったけど足元が砂なのでずるずる押されてしまう。なんだか相撲の稽古みたいになってしまってジタバタしていると、ルリが気づいて駆けつけてくれた。


「こら、離れなさい!」


叱りつけながら、アヒルンゴたちの首根っこをつかんで私から引きはがしてくれる。みんな馬みたいに大きいのに、やっぱり女神さまパワーはすごい。


「今朝はブリンブリンを焼いて食べましょう」


ワゴンに戻ると、ルリはキッチンの冷蔵庫から1メートルくらいある長くて太いソーセージのようなものを出した。冷蔵庫はどこの家庭にもあるような大きさなのだけど、あんな長いソーセージどうやって入れたんだろう?もしかしてルリのポシェットみたいに何でも入るんだろうか。


「これはティーダル島でよく食べられているアグル肉の加工品です。名前のとおりブリンブリンで肉汁ジュワジュワなのです」


「それは美味しそうね」


ルリは集まって来たチビルリちゃんたちにそれを差し出した。受け取った彼女たちはそれを1センチくらいの厚さに切り、フライパンにのせて焼いていく。これを切ったパンにのせ、さらにチーズをのせてオーブンで軽く焼き色をつける。漂ってくる匂いにつられて、グゥとお腹が鳴った。


「いっただきまーす!」


出来上がったオーブンサンドには、完璧な焼き具合のオムレツと彩の良いサラダが添えられていた。チビルリちゃんたちの料理スキルは凄すぎる。立ちのぼる香ばしい香りに我慢ができず、私はリビングのソファに座ると同時にかぶりついた。


チーズのコクとうま味に、ブリンブリンからあふれ出る肉汁が絡む。思いついてふわふわのオムレツをのせたらさらに美味しかった。


「おいひい!!」


子供みたいに叫んでしまう。ここへ来てからというもの、美味しいものしか食べていない。昨夜は商店で仕入れた新鮮な魚介をつかった海鮮丼を食べた。


赤やオレンジの熱帯魚みたいな魚を見たときには「これ食べられるの?」と心配だったけど、しっかり美味しくてビックリだ。ご飯にはあのウンガァウリが混ぜられていて、酢飯に似た味付けだった。ウンガァウリを薄切りにして塩もみし、酸味をやわらげているそうで、キュウリのようなパリパリ食感が良いアクセントになっていた。


肉汁あふれる朝食を食べ終わると、デザートにあの紫の果実が出てきた。昨夜も食べたけど、本当にアイスクリームのような滑らかな食感なのだ。ほのかにアーモンド系の香りがする生クリームのようなそれをスプーンですくい、口にいれる。


「ああ幸せ」


そんな言葉が思わず漏れた。


料理も片付けもチビルリちゃんたちがやってくれるし、ただ食べて遊んでいればいいなんて、なんて贅沢で幸せなのだろう。私はバカンスをプレゼントしてくれた女神さまに心から感謝した。また会えたらちゃんとお礼を言いたいな。



そして今、私は疾走するワゴンのバルコニーでくつろいでいる。デッキチェアにゆったりと腰かけ、昨日定食屋の店主がくれたお菓子にかぶりつく。それは小麦を揚げたボール状のドーナツのようなお菓子だった。フゥベの蜜がたっぷりかかっているのでしっとりしていて食べやすい。


ヤバイ、朝ご飯を食べたばかりなのに止まらないわ。


庭の向こうをハイスピードで流れていく海の景色を眺めながら、私はそっとお腹周りをなでた。


ワゴンは今、ニャカラン島を目指して海を渡っているところだ。幽霊が出ると聞いたのでちょっと怖かったけど、ルリが絶対に行くべきと譲らなかったのでワゴンを出発させたのだ。


まあ、何かあってもルリがいれば大丈夫だよね。女神の分身なんだし。


口のなかに残るドーナツの甘味を冷たいハーブティーで胃に流しこむ。庭の向こうに目を向ければ、海の色が変わって周囲に岩が多くなってきていた。目当ての無人島に着いたようだ。


「石が多いので気を付けてください」


ワゴンのステップを踏んで降り立った場所は、小さな石がゴロゴロころがる浜だった。この島は山が海に浮かんでいるような感じで平地が少なく、ワゴンを停められる場所はここしかないらしい。


ルリの先導で、洞窟へとつづく細い道を歩く。人工的につくられたその道はあまり整備されていないようで、石がたくさん散らばっていて歩きにくい。


しばらく行くと、昨日ブランコから見た「にゃんこの顔」の正面へと出た。大きく開けた口が洞窟の入り口だ。近くで見ると尖った鍾乳石が天井から下がっていて、それがにゃんこのキバみたいに見える。


「洞窟の最奥に珍しい花があるのです。そこまで20分程度ですし、道はある程度整備されているのでそれほど歩きにくくはないでしょう」


聞けば、かつては観光地として人気だったので安全な道ができているそうだ。


今は人気がないの?なんで?


嫌な予感が胸をよぎるけど、私が何か言う前に、ルリがポシェットから火のついたオイルランタンを取り出して渡してきた。ポシェットは耐火仕様でもあるらしい。


「なかは暗いですからこれを」


かかげたランタンの光に、洞窟のなかが照らされる。


うわぁあ。


私はその光景に息をのんだ。洞窟のなかは赤やオレンジのマーブル模様になっている。ランタンを高く上げてよく見ると、青や緑もあった。いろんな色の地層が重なっているような感じだ。すごく美しい。自然のなせる業は本当に素晴らしいものだと感動する。


「さあ、参りましょう」


ルリにうながされて足を踏み出す。地面からは青い鍾乳石がタケノコのようにニョキニョキ出ていて、その間を縫うように道が通っていた。敷石でできた道は外のように石が散らばっていないので歩きやすい。


しばらく歩くうち、私はキラキラした金色の粉が上から降ってくるのに気づいた。金粉は地面や私の体に触れると雪のように溶けてなくなってしまう。ランタンを持ち上げて見ると、蝶結びになった金色のリボンが踊るように宙を舞っていた。綺麗だけどこれは何だろう?リボン?生き物?


「ルリ、この飛んでるのはなに?」


ルリは私の背後にチラと目をやったあと、上を見て「ああ」とうなずく。


「それはオキンタマダラという虫です。蝶々みたいなもので、このあたりの洞窟にはよくいるのです」


「へぇー、蝶々なのかぁ。リボンみたいね」


「はい、ほどけますよ」


ルリは軽々と飛び上がり、器用にオキンタマダラのリボンの端を捕まえた。その手をサッと引くと、しゅるりと蝶結びがほどけた。


「ええ!そんなことして大丈夫なの?」


「問題ありません」


ルリが手を放すと、金のリボンはしばらくそのまま空中を漂っていたが、やがてスルスルと元の蝶結びに戻った。何事もなかったかのように、またヒラヒラと飛びはじめる。ルリによると、オキンタマダラは食べ物を探すときだけ蝶結びになるらしい。洞窟内に生えるコケが好きなんだそうだ。


「さあ、目的の地点はもうすぐですよ」


うながされて再び洞窟の最奥を目指す。ふと前を行くルリを見れば、ランタンを持つのとは逆の手に、ブリキのバケツをさげていた。いつの間にそんなものを出したのか。


「ルリ、そのバケツはなに?」


「これは貝を入れるバケツです」


振り向きもせずに彼女は答えた。その背中に向かってもう一度聞く。


「貝って?」


「洞窟の奥は海とつながっていて、潮溜まりになっています。そこに希少な貝がいるのです」


なるほど希少な貝ね。私はルリがここに来たがった理由がようやく分かった。


「その貝はきっと美味しいんでしょうね」


ルリはようやく足を止めて、こちらを振り向いた。


「はい!身は小さいですが、とても良い出汁がとれるのです。今夜は貝出汁のスープに麺を入れていただきましょう!」


「う、うん」


勢いにおされて私はうなずいてしまった。彼女が言ってるのは、たぶん貝出汁のラーメンみたいな料理なのだろう。


確かに美味しそうだわ。貝出汁ならあっさり目の醤油味に縮れ麺が合うかな?


そんなことを思いつつ歩き続けていると、突如ひらけた空間に出た。洞窟の最奥についたのだ。奥に空いた穴から太陽の光が差し込んで、向こう側に青い空と波立つ海が見えている。私の足元には、穴から入り込んだ海水がつくった天然のプールができていた。


そして今見えているアレが、ルリの言っていた珍しい花なのだろう。


ああ、なんて・・・。


目の前に広がる光景に、私は言葉を失って立ち尽くした。


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