表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/70

ビーチで遊ぼう!

それはチューリップの花を逆さにしたような形をしていて、フワフワと空中をさ迷っていた。私の両手に乗るくらいの大きさで、半透明の体の内側がぼんやりと光っている。


「あれは何?」


私はルリに尋ねた。よく見れば、同じような謎生物がたくさん空中に漂っていた。


「あれはハマクラゲという生き物です。夜にああして浜辺を漂っているだけで、害はないのでご安心を」


「へぇ」


私はハマクラゲをまじまじと見つめた。形はチューリップみたいで愛らしいし、内側から発するやわらかな光になんだか癒される。光の色は個体によって違うらしく、薄いピンクや水色などさまざまな光のハマクラゲが漂っていた。


「気に入ったのなら捕まえすか?」


「え?捕まえてどうするの?」


驚いて聞き返す私にルリが説明してくれる。ハマクラゲは空気中の不純物を食べて生きているので、部屋の空気をきれいにしてくれるそうだ。嫌な臭いの元も食べてくれるのだとか。


「つまり生きてる空気清浄機ってわけね」


そう言って空を振り返れば、すでにチビルリちゃんたちがハマクラゲを追いかけまわしていた。漁に使うような大きな網を持って追い込んでいるのだ。どうやら網を持つグループと、網に追い込むグループとに別れてハマクラゲを捕獲する作戦らしい。


彼女たちの連携は完璧で、ほんの数分でハマクラゲがたくさん入った網が目の前に降ろされた。網を持ったチビルリちゃんたちがキラキラした目で私を見てくる。眩しい。


「わ、わあ、たくさんとれたね」


キラキラビームに圧倒されてそう答えた。チビルリちゃんたちがまた嬉しそうに空中を舞う。


「でもちょっと多いかなぁ」


網のなかには何十匹も入っている。さすがにちょっと多すぎだ。これじゃあ部屋のなかがハマクラゲでいっぱいになってしまう。チビルリちゃんたちには悪いけど、ピンク、青、黄色に光る3匹を残して、あとは逃がしてもらうことにした。


その夜、私は3匹のハマクラゲが空中をたゆたう寝室で、夢を見る間もないほどぐっすり眠った。今日一日で色んなことがあり過ぎて疲れていたし、何よりもフカフカのベッドの寝心地が最高過ぎたのだ。


翌朝に目覚めたときには、もうかなり遅い時間だった。


起きて顔を洗っていると、チビルリちゃんたちが数人やってきて、昨日のように洋服を見せてくれる。今日はベージュ系で葉っぱの模様が刺繍されている服を選んだ。私が着替え始めると、いっせいに後ろを向いて見ないようにしてくれる。皆お利口さんだわ。


「うわぁ」


身支度を終えて外へ出た私は思わず息をのんだ。今日は晴天で、雲ひとつない青空が水平線まで続いていた。太陽の光をうけてビーチの砂は眩しいほど白く、反射した光が水底に波の模様を描いて流れていく。


私はサンダルを脱いでパンツの裾をまくり、水に入った。ちょっぴり冷たいけど気持ちがいい。足元をグッピーみたいな小さな魚の群れが通り過ぎていく。子供のように魚を追いかけてじゃぶじゃぶと遊んでいるとワゴンからルリが顔を出した。


「沙世さま、朝ご飯にしましょう」


「うん、せっかくだから外で食べたいな」


「いいですよ」


ルリがポーチから椅子とテーブルを出す。ポーチもすごいが、重そうな木のテーブルを片手で軽々と引っ張り出すルリもすごい。


チビルリちゃんたちがテーブルにお膳を運んできてくれたので椅子に腰かけた。お膳にはご飯と菜っ葉の入った味噌汁のほか、アジくらいの大きさの焼魚がのっていた。あとはパパイヤみたいな黄色い果物も。


「この魚はなに?」


「それはグルングルンメートナパリパリウントコサーという魚で、この辺りでたくさん釣れるのです」


長い。よくとれるポピュラーな魚なのに、なんでそんなに長い名前なのか。


「じゃあこれ、ここで釣れたものなの?」


「はい、早朝に私が釣ってきました。沙世さまがこの島のものを食べたいようだったので」


味噌汁の青菜や果物も、自然に生えているものをチビルリちゃんたちが採取してきたのだそうだ。


「ありがとう!」


わざわざ私のためにとって来てくれたなんて、感激だ。米だけはカトートウカ堂のものらしいが、この島でも米はつくっているので、どこかで商店を見つけたら島の米を買いましょうとのこと。これからティーダル島の美味しいものをたくさん食べられると思うと楽しみだ。


「いただきまーす」


私は手を合わせると、ルリとチビルリちゃんたちの心づくしの朝ご飯に口をつけた。青菜はシャキシャキしてクセのない味だし、果物は蜜芋のように甘くてねっとりとした食感で美味しい。


「ルリは食べないの?」と聞いたらもう先に済ませたそうだ。きっと昨夜のようにたくさん食べたに違いない。


「ねえルリ、わたし海で泳ぎたんだけど」


思ったより食べ過ぎてお腹が膨れたので、少し運動をしたい。あんな綺麗な海を目の前にして入らない手はないし。でも泳ぐには水着がいるよね。


「はい、水着は用意してあります」


さすがはルリ。だけどチビルリちゃんが持ってきた水着を見て、私はしばし絶句した。


「・・・なんでこの水着なの?」


ようやく絞り出した私の質問に、ルリは首を傾げる。


「日本で一番ポピュラーなタイプだと思ったのですが、いけなかったですか?」


確かに日本で一番ポピュラーな水着だろう。目の前に浮かんでいるのは、誰もが着たことがあるスクール水着なのだから。ご丁寧にも胸にはゼッケンが張ってあって、「1-3権田沙世」などと書いてある。だれが1年3組じゃ。


「これはちょっと着れないわ。ルリ、この世界に水着はないの?」


「ありますけど、あまり性能がよろしくないので」


私が住んでる世界のような収縮性のある生地がないので、あまり着心地が良くないらしい。このビーチなら島人に見られる心配もないし、だったら着やすいほうがいいと彼女は考えたそうだ。


「気を遣ってくれてありがとう。でもせっかく異世界に来たんだから、そういう不便も少しは体験したいの。だからこの世界の水着をつくってもらえるかな?」


数年前の高校生だった頃ならまだしも、20歳でスクール水着は着れない。断じて着れない。


「もちろんです」


ルリは言うが早いかポーチから布地を出して空中へ投げる。チビルリちゃんたちが見事にキャッチして縫い物をはじめた。フワフワと空中に浮いたままハサミや針を動かすと、あっと言う間に水着が完成する。寝室に戻ってさっそく着替えることにした。


水着は上が半袖のTシャツで、下は膝上まである提灯ブルマのような膨らんだパンツだ。素敵なデザインとは言えないが、スクール水着を着るよりはましだろう。生地は張りがあって二重になっているから、濡れても透けたりする心配はなさそうだ。


それでも久々の水着姿は恥ずかしかったのだけれど、海に入ったら全部忘れてしまった。島の海は本当に綺麗で、潜ってみても視界は100%クリア。泳いでいく小魚や、海底の砂の上を歩く小さな貝まではっきり見える。


「クワックワッ!」


そんなことをしていたらアヒルンゴたちがバシャバシャと海に乱入してきた。昨日も軽快に泳いでいたけど、どうやらアヒルンゴは海が好きらしい。波に浮かんだ隊長が「さあ乗れ」と言うように羽をクイクイさせるので、恐る恐るその背に乗ってみる。


「クワーッ!」


アヒルンゴ隊長はひと声叫ぶと、けっこうなスピードで泳ぎ出した。私はあわてて隊長の首にしがみつく。


隊長は私を乗せたまま、沖に点在するキノコ岩の間をすり抜けるように泳いでいく。隊長がカーブを曲がるたびに水しぶきが顔にバシャバシャかかった。


「きゃああひゃひゃ!」


楽しすぎて叫び声とも笑い声ともつかない変な声が出てしまった。


乗ったことないけど、バナナボートってきっとこんな感じなのだろう。振り返れば、2頭のアヒルンゴ隊員も隊長に負けじと並んで泳いでいる。チビルリちゃんたちも周囲をクルクル回りながらついてきていた。


私はアヒルンゴやチビルリちゃんたちと一緒に、心ゆくまで南の海を楽しんだ。


女神さまは北部に向かうのはゆっくりバカンスを楽しみながらでいいと言っていたから、しばらくここに滞在して南の海を満喫することにしよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ