こんなところで悪かったね
◆山間に響く球音
関東からUターンしたのは二〇一五年三月だった。生家は廃屋となり、生まれ育った村は消滅寸前だった。山を降りた旧市街地に住居を構えた。
ここは吉野川の中流域。近くの河川敷に運動公園があり、野球場が設けられている。グラウンドは地元・池田高校野球部がよく使っている。蔦文也監督に叱責されながら、水野雄仁(読売ジャイアンツ)や宮内直二(阪神タイガース)、杉本尚文らが汗を流したグラウンドだ。独立リーグ・四国アイランドリーグplusの試合も行われる。
◆火の玉再び!
筆者には楽しみにしていることがあった。
(藤川球児が来たら、応援に行くのだ)
いうまでもなく、「火の玉ストレート」の異名を取った、不世出のピッチャー・藤川球児である。
しかし、結論から言うと、その機会を逸した。毎週、関東と四国を行ったり来たりしなければならなかったからだ。Uターンは簡単にできるものではない。
藤川球児はメジャーリーグを退団し、「地元の子供たちに夢を与えたい」と故郷の四国で野球人生を再スタート。四国アイランドリーグplusの高知ファイティングドッグスでプレーしていた。彼の生き様は、筆者に限りないロマンを感じさせた。
◆上から目線・都会目線
ところが、水を差す出来事があった。阪神時代の元チームメイトが徳島を訪れ
「お前はこんなところにいる人間やない」
と言ったらしい。
こんなところとは独立リーグのことなのか、それとも河川敷の球場のことなのか、いずれにしても失礼千万である。
かくして、球児は古巣の阪神タイガースに戻った。数々の金字塔を打ち立てて二〇二〇年に引退、今秋、タイガースの監督に就任した。
本稿はもとより、スタープレーヤーに焦点を当てるものではない。むしろ逆である。
◆野球人生も様々
たまにラジオで四国アイランドリーグの試合を聴く。元プロ野球選手がゲスト解説者として出ていたことがあった。
チャンスに凡退した選手がいた。その甘さを指摘した後
「だから、こういうところにいるんですよ」
とピシャリ。明らかに独立リーグのことを言っている。
ピラミッド型の社会は多い。特に勝負の世界はその典型だろう。しかし、上位の階層が下位を
「こういうところ」
などと見下すのはどういうものか。
独立リーグの選手たちは薄給と聞く。
おそらく、いろいろな野球人生があるのだろう。通過点と考えている選手もいれば、ここを燃え尽きる場所だと決めている選手もいるに違いない。
筆者は、どちらにもエールを送りたい。