七話 思い出と想い
修学旅行の当日、エヌはやけに眠そうに私を起こしてきた。
「はあああ、寝む、、
さ、はやく起きろ。行くぞ」
昨日のことを思い出したのか、やけに顔を赤らめながら。
ほんと昨日は何だったんだろう?
やけに積極的だった割に、今日はおとなしい。
やっぱりあれはあれで幸せだったんだな。
そう思う。
なんて言ってからかってあげようかな。
突然、エヌの携帯がなった。
「ごめん。」
そう言って、電話に出るために少し離れていくエヌ。
「もしもし。
はい。あー、わかりました。
いえ、今からまた現世に降ります。
はい?
わかりました。
徹底いたします。
すみません。
失礼します。」
なにかを問い詰められたのか丁寧に敬語で応対しているエヌ。
エヌって敬語とか使えたんだ。
あ、一番最初は使ってたな。
すっかり忘れてたな。
いつも生意気に、タメ口使ってくるから。
でも、生意気なくせに、すこし可愛かったり。
「ごめんごめん。上がなんかよくわかんないけど、変なことすんなってキレてきた。
適当に返してたけど、マジおもろかった。」
そういいながら笑っているエヌを見て、
ああ、いつも通りだと思ってしまう。
なんなら、エヌに情とか道徳心のなさに笑ってしまいそうだった。
これが、エヌの良さでもあり、悪さでもある。
私は別に気にしていないし、これがいいと思っている。
「さ、行くか」
エヌに手を引っ張られて歩き出す。
現世にやってきた。
またまただ。
テレポート位置の私の部屋に着くと、
「やべえ、楽しくなってきたああ」
「ふふ、はやくいこ!」
喜んでいるエヌを見て、心が癒された。
私が嬉しくなった。
愛おしく思えた。
でも、そんなことより二人で行けるであろう最後の旅を精いっぱい楽しみたい。
そう思って、目的地に移動を始める。
修学旅行、、、
といえば、バス移動とかなのだろうが、流石に幽霊二人でバスは手配できないので、電車に乗ることにした。
勿論、現世で使える金なんてない無一文だし、第一、淀まで行くと、お金というような文化はないから持っているはずがないのだ。
という建前のもと、無賃乗車をすることにした。
しかも、新幹線。
罪悪感が湧いてくる。
「なんか悪いことしてる気分にならない?」
「え?いや、別に。
まあ、仕方ないから。幽霊だし。
そういうことにしとけ」
相変わらずエヌは能天気だな。
まあ、エヌもそういうし、気にしないどくか。
こんなのいちいち気にしてたら楽しめるものも楽しめなくなっちゃうもんね。
気にしない。気にしない。っと
というかの話なのだが、幽霊になっても、壁をすり抜けるとかっていうのはないんだなあ。
現世に降りてきてから、まあまあ経ったけど全然気づかなかったわ。
そんなの気に留めてなかったわ。
普通に頭ぶつけるし、椅子には座れる。
物として判断されている。
でも、声は届かないし、見えない。
なんか不思議な気分になるな。
「修学旅行だし、ぽいことやろうよ」
「ぽいことって何?
学生っぽい事って何だっけなあ?」
「んー、じゃあ、恋バナでもしようか?」
「恋バナ、まあ、別にいいよ」
恋バナって言っても、何話したらいいかわかんないな。
いつも咲姫とかと話すときは、クラスメイトの話とかが多かったからな。
「エヌってさ、その、人間だった時に好きだった人はいたの?」
「まずは、俺かよ、、
まあ、気になってるやつはいたけど、俺が死んだからな。
どうなったかっていうのはないかな」
「へー、どんな子だったの?」
「学校のさ、後輩だったんだよね。
よく覚えてないんだけど、優しいみたいな印象だったっけな」
なんか私の反対みたいだな。
「私はさ、学校の先輩好きだったんだけど、その先輩、事故で死んじゃってさ、自然消滅って言うのかな?それで終わっちゃたんだよね。なんかさ、エヌと似てない?」
「ちげえよ。俺が気になってた後輩はお前じゃない、名前佐々木だったしな。」
そうかなーって思ってたけど違ったのか、
なんか残念だな。
期待と残念に思う気持ちが入り混じってるせいか、ただただ緊張していたせいか、ほぼそのあとの旅の記憶はなかったが、エヌが撮っていた写真を見て時々思い出す。
そこに映っている山頂から見える絶景とともに映る満面の笑みを浮かべる私。
私がカメラを奪い取って撮ったであろうエヌ。
覚えてなくても、思い出は思い出だ。
私の想いも届いていなくても、想いは想いだ。
応援お願いいたします。