五話 惹かれた者
私は泣きながら家を飛び出し、小さい頃よく来ていた公園に行った。
大好きな家族を、友達を、悲しませ、苦しませている。
現世に降りるということは、楽しいことだけじゃない。
自分がもたらした結果を、目の当たりにしないといけないということでもある。
苦しいから、辛いから、そう逃げ続けても、生まれ変わったり、強くなったりすることはない。
だから、目の前で起きていることに目を向けないと何も起こらないし、始まらないって分かっているのに。
見たくない。
傷付きたくない。
「おい奈央、咲姫さんだっけな。あの人、言ってたぞ。『私のためなんかにごめん』ってな。あと、『ほんとにありがとう。でも、奈央は悲しんだりしないでね。私は助けられただけだったから、何かできたんじゃないかって思っちゃうの。でも、それは奈央のせいじゃなくて私のせいだから』だってよ。お前が何に対して悲しんでるかはわからない。けど、そう言ってもらえてるんだからいいだろ?咲姫さん追いかけなくていいのか?どっか行きそうだぞ?じゃあ、ま、俺はお前んちにいるか、、、」
「待って!」
言われた通り、何に泣いているのかは自分でもわからなかった。
でも、口が考えるより先に動いた。
一人ではいたくなかった。
誰かにいてほしかった。
誰かというかエヌにいてほしかった。
「わかったよ。で、どうすんの?この後、咲姫さん追いかけてみんの?適当にどっか回る?」
涙を拭いながら、鼻をすする。
「い、いや。ふー。ごめん。少しだけ休ませて。エヌも一緒に」
エヌは少しだけ鼻で笑いながら、
「当たり前だよ。俺だけどこ行かさせられるんだよ」
と、言う。
私も一瞬、というかまあまあ笑ってしまった。
その時だけは言葉では言えない辛さを忘れることができた。
なぜだか、エヌと一緒にいると、気が楽になる感じが、いや、そうだ。
するんだ。
エヌじゃなきゃしないんだ。
こんな気持ちになるのは、いつぶりだろう。
一年とちょっと前に先輩を好きになったとき以来か、、、、
好き、、、、
私がエヌのことを?
私はエヌの方を見る。
エヌはどこか遠くを見つめている。
黒いマスクに浮かび上がる整った顔立ちに、澄んだ綺麗な瞳。
少し風が吹いただけでも、なびいて飛んでいきそうなほど柔らかい艶のある髪。
胸が高鳴ってくる。
ほんとに私はエヌのことを、好きなのか?
「何?なんかあった?もう落ち着いたの、どっか行く?」
平然としたように、聞いてきたけど、心臓が無駄に大きく、激しく打っている。
「いや、ちょっとね。あ、待たせてごめんね。落ち着いたし、行こ。我儘だけど、行きたいとこあるんだ」私は自分のなかで肥大化していくなんとも言えない感情を押し殺してそう言う。
私はエヌを案内しつつ、目的地を目指す。
「学校?」
そうだ、学校だ。
対して、大きい思い入れがあるわけでもないのに、なぜか見たくなってしまった。
エヌに説明でもしてあげようかと思ったけど、何か思い返してそうだったので、少しスルーしといてみる。
のこのこと学校に侵入しながら、懐かしんでいるとエヌが「懐かしいな」そう言った。
この学校が懐かしいともとれる言い方に引っ掛かりを覚えたが、ま、考えすぎかそう思ってみる。
「久し振りだな、この教室も」
そう呟きながら、教室の戸を開けると、見慣れた、なのに、懐かしい。
今、自分の席がどんな感じになっているのかを確認しに行くと、そこに置いてあるのは、物足りなさと静けさを纏った机と椅子がある。
何かに安堵して、大きく溜息を吐く。
何を話したらいいのか分からなくなって、どうしようかと思っていると、エヌが口を開いた。
「ああ、なんか、懐かしいわ。学校なんて死んでから来れてなかったし。てか、死神やってても学校行くとかいうやついなかったからな。」
そういいながら、私をのぞき込んでくる。
恥ずかしくなって、急いで顔を背けると、
「ああ、すまん。」
照れたと察したかのように白々しく言うエヌに愛おしさを覚えてしまう。
ああ、好きなんだな、私。エヌのこと。
生ぬるい風がそっと流れていった。
未熟者ですが、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
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