三話 幽霊と化す
鼓動がうるさいぐらい部屋に鳴り響く。
現世に降り立った私の目に飛び込んできたのは、咲姫の遺体、、だ、、
「な・・・」
「な・・お・」
「なお・・・」
「奈央、大丈夫か?」
「はぁはぁはぁ、今の夢だよね?」
「知らねぇよ、見てねぇから。はい、水。」
真っ黒な体から伸びてきた腕が握りしめていた水をありがたく頂戴し、一気飲みする。
「ありがと、水。あと、もう奈央呼び?」
「あぁ、別にいいから。ほぼ同い年だからよくね?」
同い年だから、その言葉が引っ掛かる。
「ほぼ同い年ってエヌが死神として生まれてから?」
「いや、違う。俺が人として生まれてってこと、死神になってからも歳は増えるからね」
人として生まれ、死神と成った、、、?
エヌも昔、私と同じ人だった、、、
「じゃあ、エヌも死んでここ来て、死神に成ったの?」
「まぁ、そんなとこよ」
内藤、何かがざわついたけど、気のせいか。
「そうなんだ、死神ってやっててなんか良いことある?」
何気に止まない動悸を抑えようと必死になる。
「あぁ、えっと、天国は労働が自由化されてんだけど、ここは年中無休のブラック。でも、天国に入ったら、もう現世にはいけないけど、ここなら定期的に行ける。家族残してこっち来たってやつが死神に成りがちだよ。俺はそろそろ天国行こうかなって思ってるけどね。」
映画のようなストーリーのよさと夢に見るような自由な天国。何か引き込まれるものがある。
「まぁ、いいや。他に聞きたいことは?はやいとこ、全部教えといた方が楽やし。」
「えーと、じゃあ、いつもその格好なの?」
全身真っ黒な格好は出会った時から気になっていることの1つだった。
「これは支給されてる服。いわば、制服だね。」
意外だった。
というか、死神の裏事情を知ってしまって、少し複雑な気持ちになる。
「まぁ、だから、脱ぎ着できるから、このしたは奈央みたいな人間の体を持ってる」
少しばかり驚きながら、部屋のカーテンを開ける。
「まぶしっ」
突然、差し込んできた陽の光りに目がやられそうになる。
淀は不思議なくらい真っ暗、暗闇だったからか目が明るさに慣れていなかったのだろう。
「ねぇ、淀ってさ、なんであんなに暗かったの?」
「死んだらここは天国、地獄、どっちにいくとしても通らないと、経由しないと行けないからさ。死んだショックの直後、死神なんて見たら、危ないだろ。来た人も俺ら死神も」
すごく真面目な理由でエヌが考えたことではないと知りながらも、あんなふざけてるやつがこんなに他人を思いやれるんだと感動してしまう。
そこから、数日ほどエヌとゲームしたりして、承諾待ちをしていた。
そのときに思ってしまった。
こいつはいいやつだって。
ただ、エヌが別業務で部屋にいないとつまらなかった。楽しくなかった。
そして、半年間幽霊と化すことが承諾された。
勿論、私の管理係兼雑談要員としてエヌと一緒に。
「一応、睡眠、食事とかは1回こっちにワープで戻ってきてからすることになってるからよろしく。あ、でも、現世に行くには馬鹿長い階段下らないといけないから頑張ってね」
最初の行きだけ不便だなと思いつつ、階段がどのくらい長いのか気になってしまう。
胸を高鳴らせながら、エヌと階段に向かう。
私に見えたのは、下が見えないほどの長い長い長い階段。
完全に見くびっていた。
「奈央、行くんじゃないの?」
「あぁ、やだ」
そう言いながら、階段を下り始めた。
未熟者ですが、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
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