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一万回電話をかけた男と再会する話

作者: おねこ


特殊な環境下でも生きることが証明された私の体は、人類の別星系への移住に備えて冷凍保存されることになった。


次に私が生命活動を再開できるのは、人が住める可能性がある星が見つかって人類がそこに適応できるかどうか、この身をもって調査に向かう時だ。



数少ない大事な人たちとの別れを済ませて、これから長い眠りにつく。

眠りについた後は目覚めるまで外部の者の目に触れることもなく、この施設の管理下に置かれることになる。


母は、最後まで泣いていた。



それでも、胸が張り裂けるほどまでの苦しさは感じなかった。


次に目を覚ます時は一人ではない。

五歳になる私の息子も一緒だからだ。



息子の体からも私と同じ特殊な因子が検出されたため、親子での時間旅行を許されたのだ。


そしてもう一つ、私が未来に持っていけるものがある。

今この手に持っている、三年間使ってきたスマートフォンだ。


私が目覚める時まで、機能を保ったまま管理し続けてくれるらしい。

眠った後、届いたメッセージを起きた時に確実に読めるようにしてくれる、タイムカプセルに似たようなものだ。

とは言っても、メッセージを送ってくれる人などたかが知れているが。


いまだ状況がつかめずにいる息子をめいっぱい抱きしめる。

この子もきっと、目覚めた暁には普通の人生なんて歩めないに違いない。



私たちは隣り合ったカプセルに入り、目を閉じた。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





次に目を開けた時、「よく眠れた」という、ただそれだけの感覚をぼんやりと抱いていた。

少しだけ頭に靄がかかったような感じはしていたが、倦怠感などの不調はないように思える。



目の前には、この施設の関係者らしい若い女性が一人。


どうやら、例の時が来たらしい。


隣の装置はまだ起動したままだったが、私の状態を確認したその女性はすぐに息子の解凍準備に取り掛かってくれた。





預けていたスマホは、約束通り丁寧に管理されていたようだ。

女性が言うには、私が眠っている間に正確なメッセージ保管に加え、総通知数など一目で確認できるようにしたりと色々アップデートもしてくれたらしい。



わずかに震える手でなんとか再起動すると、すぐに現在の日にちと通知数が目に入った。



メール件数388件


着信数10158件



メールの送信者は、ほとんど母からのものだった。

そして着信の方は・・・。


毎日、同じ時間帯に、一日一件ずつ電話はかかってきていたようだ。


ざっと見ただけのこの着信履歴と表示された日にちが本当なのだとしたら、私はどうやら三十年近く眠っていたらしい。



目を覚ました息子も何の異常もないことを知らされ安心した刹那、女性は来客の旨を簡潔に知らせてきた。


そして、ほぼ同時に手に持ったスマホから着信音が鳴る。

通話ボタンを押し、もしもし、とだけ口にすると、相手は息をのんだようだった。


部屋の扉が開いて、スマホを耳に当てたままのその人と目が合う。



ずいぶん長い間見つめ合って、やがて私の方から

一晩で、ずいぶん歳をとったね。と口にした。

すぐに失礼なことを言ってしまった、とは思った。


それでも目の前の確かに見覚えのある、けれども私の眠る前の記憶と照らし合わせると多くの皺が刻まれ背も少し縮んだように見える彼は、涙を流しながら微笑んだ。


数十年もの間、一日も休むことなく取られることのない電話をかけ続けてきてくれた大事な人。

彼の生い先は長くはないだろうということは感じたが、それでも、互いが生きている内にまた会えたことが心から嬉しかった。


これからどんな過酷な日々が待っているのだとしても、この日を忘れないようにしよう。


息子と共に優しく抱きしめられる。


私もそっと、優しく抱きしめ返した。

お読みいただきありがとうございます。

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