8.壊れた夜
「ほんとうに、何にもないのか? 爵位とかいらんかね?領地でもいいぞ。」
アルコールが入って、とってもいい顔色になった国王が冗談みたいに言う。
「い、いりませんわ。」
慌てて否定する。
「おぢちゃん、君が眩しくて可愛くて何かしてあげたくて、仕方ないんだよぉ。」
一体、この国王は何を言っているのか。
少なくとも爵位や領地とは、酒の席で惚れた腫れたでプレゼントするものではない。
「あなた、いい加減になさいまし。マリアージュちゃんが、困ってるわぁ。
推し活もほどほどにしてくださいませ。
それがどれだけ素晴らしいものでも、相手が望まなければ、ただの『ストーカー』、相手の望みを察してこその、一流の『ファン』でございますわよ。」
王妃が、国王の両手をぎゅっと握りしめて、諭す。
「ランちゃん♡♡♡」
国王が顔を赤くして、きらきらした目で王妃を見る。
「マリアージュちゃん、酔っ払いがごめんねぇ。でも、この人、全く悪気はないから、気持ちだけは受け取ってくれると嬉しいわ。」
王妃は、国王の視線を振り払って、今度は私の両手をぎゅっと握って、にっこりと言う。
「・・え、えぇ。」
ぐいと近づいて有無を言わさない様子に、私はやや身を引いてしまう。
すると、逆隣から、ごうっと、ものすごい圧の魔力を感じた。
ぞぞっとした王と王妃、私が視線を向けると、冷たい深青の視線とぶつかる。
「王、王妃。うちのマリアージュは、爵位などという低俗なものには、つゆほどの興味がないのですよ。なんといっても、ベルガーの至宝ですから。
差し上げるならば、そうですねぇ、外交交渉権とかいかがでしょうか。
そうすれば、世界が彼女の足元にひれ伏す光景を見られますぞ。ふはははは!」
いや、それは、絶対に違う。
それに、うちの、と言ってますが、私とあなたは今日が初対面ですよね!?
「父上、あなたは魔王ですか。
しかも、何ですと? 国の宰相が外交交渉権などと、直球勝負でどうします?
物事というのは、一手も二手も、いや百手は先を読んで仕掛けないと。
その点、マリアージュ嬢はちょうど100年だったな。ゆえに百手。
ならば、わたしは百一手。」
いや、ちょっと、何言ってるか、分かんない。
「有能な二家に支えられての王家だな、王妃よ。」
国王は満足そうにうんうんと頷くと、王妃と見つめ合って微笑んだ。
「えぇ、そのとおり。ねぇ、マリアージュちゃん、ここだけの話、今の王家は100年前の王家とはつながりがないのよ。
アレク王にはお会いしたことはあったのかしら?彼は、養子なんだけど、アルヴィス王の施策に波風立てないために、最も適した人物として、二家に押し上げられたのよねぇ。」
「え、そ、そうなんですか。」
ちょっと、ここだけの話で聞くには、大きすぎる秘密なんじゃないかしら?
「それにしても、将軍は、既に静かになったようだな。」
真っ赤な顎を触りながら国王が言うと、黒髪の騎士が、腕を組んで固まっている灰色髪の大男を横目で見て、あきれたようにため息をついた。
「将軍は、この見た目なのに、実はお酒に弱いですからね。」
「そういう君は、相変わらず、不調の『ふ』の字もないのか。」
「ドミトリス家は、カール・ドミトリスの時代に、マリアージュ様から加護をいただいているので、代々、怪我知らず、病気知らず、酒にも毒にも負けません。」
いい大人が小首をコテンとかしげて私を見ても、そんなの、知りません!!
ますます腰が引けて嫌な汗を流す私に、ドミトリス卿は爽やかに微笑んだ。
「神殿は誠にうらやましいですね。国王夫妻がこのようでなければ、私も神殿でマリアージュ様の護衛がしたいです。」
これは、果たして不敬ではないのだろうか?と国王を見るも、
「それはいいなぁ」と頷いているので、とりあえず流しておこう。
すると、今まで沈黙を保っていたラウランスが鼻高々に語りだす。
「ふふふ。神殿は、マリアージュ様から絶対の信頼を寄せられていますからね。
それに先ほども、御身をお守りすることにご了承をいただいたところです!
(ほら、うらやめ!(鼻高))それにですね! マリアージュ様のお好みについても私はよ~~く知ってますからね。」
「「「ず、ずる~~い!!!」」」
王妃、国王、ドミトリス卿がぐっと寄せてくる。
王妃様は詰め寄る国王とドミトリス卿の隙間をするりとくぐり抜け、私の右手をさっと持ち上げて引いた。
「ねえ、ねえ、ねえ!マリアージュちゃんは、何がお好みなの?
こうなったら、男どもは放っておいて、女性だけで楽しいお話がしたいわ!
といったら、恋バナよね~~♡♡
アルヴィス王との恋物語なんて、伝説級よ~~、や~~ん、興奮しちゃう!
・・あ、あらあら?
まぁ、まぁ・・・。
ど、どうしちゃったの?マリアージュちゃん。悲しくなっちゃったの?」
その場で立ちすくんでしまった私を見て、王妃様は困った顔をして、それからそうっと抱きしめた。
「・・・そうなのね。ずっと我慢していたのね。
ほんとうに、よく、がんばったわね。
いいのよ? たくさん泣いても。」
「う、うわ~~~~~ん」
子どもに戻ったように泣きじゃくる私の背中をそうっと撫でる王妃と
穏やかに微笑んで、お酒を飲み直す国王たちと
腕を組んでピクリとも動かない熊のような大男が1名。
そうして、壊れた夜は、更けていった。
晩餐会後の秘密の会でした。
みんな、暴発しました。
「もう好きにして」と放任した途端に、みんな好き勝手言い出して、こんな感じです。
いや~~、筆がすべった、すべった。(作者も暴発中)
しかしながら、この夜のことは、実際にあったことなのか、それともあったことのような気がするのか、誰にもわかりません。
だって、目覚めても、だれも口には出さないから。真実は神のみぞ知る、です。
それにしても、この国王と王妃ペア、見た目とは違い、緩い場を作りながら、いつの間にか相手の望みと秘密を手に入れちゃう、実は一番怖い人たち。
でも、たいがいラブラブで、お互い、推し活部屋の充実にしか興味を持たない人たちだったりします。「ランちゃん♡、見て見て!新しくゲットしたマリアージュちゃんの新しい肖像画(どこから入手したかは秘密)」
「まあぁ!なんて可愛い!!さすがね、あなた♡。それよりも、こっちも見て?アルヴィス王ロマンス伝の15巻よぉ。(巷の流行を先導中)」
こんな会話は日常茶飯事。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
マリアージュとアルヴィスの物語を読みたい方、ぜひ評価ください。
お話はまだ頭の中で構想中ですが、応援いただいた分、やる気につなげます。