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6.閑話 手ごわい魔女 (マティウス視点)

「マリアージュ嬢が目覚めたと連絡があった。」

呼ばれて書斎に行くと、あたりに人の気配がないことを確認し、父上が告げた。



18歳で成人を迎えた日、

「魔女システムとベルガー家の魔女」について父上から説明され、

これまでの世界観が一転した。

筆頭侯爵家の後継者として、

自らもこれから動かしていくのだと自負していたこの国の根本は、

実は、神殿と一人の魔女の力で成り立っていた。

しかも、その魔女とは、100年前に生きていた自らの一族だという。


そんなことを聞かされても、全く実感が沸かない。


その後の毎日も、今までと変わらずに、雲が流れ、鳥がさえずり、人々は笑う。

それが当たり前だ。

その当たり前の世界で、寸暇を惜しんで、法律を作り、

人々のための政策を立てたとして、一体何が変わるというのか。


最初は喪失感を、それから憤りを感じていたが、

やがて好奇心が大部分を占めるようになった。


システム自体の仕組みはもちろんのこと、魔女システムが世界にどのような影響を与えているかを知りたくて、もう一度歴史書をあさった。

そして、アルヴィス王の「偉業」の本当の意味を知った。

知れてよかった、と本当に思った。


それからは、法律を作り国の政策を立てることが、とても貴重なことと思えるようになり、より慎重に、この国に真に必要な方策を提案できるようになった。


しかしながら、魔女については、存在そのものに現実味がなかった。

邸宅のホールに飾られている古めかしいドレスの女性の肖像画は、

社交で出会うどの令嬢よりも美しい容姿だなとは思ったが、

その人物は、ただただよく知らない絵画のモデルであった。


そのため、しばらく前に神殿から

「もうすぐお目覚めになる」という連絡を受けてからも、

好奇心はあれど、特段の感慨もなかったのである。



「3日後には国王との謁見と晩餐会がある。」

「ずいぶん、急なのですね。」

「放置など、できるはずがなかろう。」

「まあ、そうでしょうね。」


数々の文献を見ていても、

アルヴィス王の視線の先がいつだって彼女であったことは確かなのに、

事情が事情なだけにマリアージュ嬢自身の記録は驚くほど少ない。

アルヴィス王の記録は数多いのにもかかわらず、だ。


100年前に一体何があったのか。

善か悪か、有益かそうではないか。

いずれにしても、早い段階での囲い込みは必須だろう。


「わが家門の姫だ。明日神殿で()()()()()を整えるように。」

分かっているだろうな、という視線で、父上は私を見る。

「かしこまりました。」

と答えて、私は書斎を出た。


-------------------------------------------------------------------------

「父上、よろしいでしょうか。」

その日、王宮から戻った父に声をかけ、書斎の人払いをした。


「聞こう。」

上着を脱いで、執務チェアにどさっと腰を降ろした父が、

右手で前髪をばさりと崩しながら言う。

中年の疲れは見えるが、それだけで随分と若くも見える。


()()()は、まさしくベルガーでございました。私などよりもずっと。」


向かい合った少女の輝くようなラピスラズリの瞳が思い浮かんだ。

ベルガー家の深青で最も濃い血色と言われている色だ。

父上、自分、弟妹も含めて、あんなに濁りなく輝くような深青は、

今の一族にはいない。


それから、あのたたずまいと話術。

面と向かってすぐに「これは手ごわい」と感じ、思わず手に力が入った。

そして挨拶からあとの、一言一言の重さ。

彼女の反応から人物を探りつつ、会話の主導権をとろうとしていたのに、

最初の一言で持っていかれてしまった。


そんな緊張感は、久々に感じた。

そして、緊張の中でも感じる小気味よさ。


思い出して、ふっと口角が上がる私を見て、父上はため息をついた。

「おまえのそんな様子は珍しいな。

 とりあえず、悪いことにはならないと?

 我々の手には収まらないか?」

「収めようとすれば、失うでしょうね。

 収めない方が面白いかと。」


すると、父上は片眉を持ち上げて、身を乗り出し、机に両肘をついた。

「ふん。ならば、おまえができる限り、手助けするように。」

「存じております。私の()()()()()で。」

と、にっこりと笑う。


家門を離れたところの、個人的な『協力関係』

淑女らしく控えめに微笑みながらも、

「思い通りになった!」とあの瞳は喚起に輝くのだろうな。

さぁ、それでは私はどう動こうか。

想像すると、これから先が楽しみで、私は足取り軽く書斎を後にした。

今回も読んでいただき、ありがとうございます。

次話は明日更新します。お楽しみに。


【あとがき小話】

①ベルガー父子のように、涼しい顔をした裏で根回しをしていたり、

最低限の言葉で百を言うようなタイプは、逢七の大好物♥ 

好きな人はきっと多いよね?


②「ホールに飾られている女性の肖像画」は、イメージでは、父、母、兄との家族画です。ホールに飾る絵画は、おそらく1枚だけ。そこに飾られるということは、つまりマリアージュはベルガー家にとっては大きい存在なのだと思います。


③マリアージュは、本人は自然体ですが、人前では自然に高位令嬢らしくできてしまいます。

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