4.樹と神官と少女
「アルベルト・ユスト?」
その名前は、さっき図書室で見たわ。
神官長のラウランス・イェールと共に、私の魔力供与者となっていた。
だから、なんだか引き寄せられるような気配を感じたのかしら?
馴染みのある魔力だから。
そういうことか、とほっとして、もう一度にっこりと笑顔で覆う。
よ、よかったわ・・。
100年前に、アルヴィスやお兄様に囲まれて磨いた「イケメン耐性」が
眠ってる間に消えてしまったのかと。。
いえ、そうじゃないわ、私。
目覚めたばかりで浮かれてるんじゃないかしら??
「ふふっ。目覚めているマリアージュ様は、とても表情豊かなのですね。」
面白そうに微笑うアルベルトに、カッと頬が熱くなる。
「大変、失礼いたしましたわ。
お初にお目にかかります。
わたくしは、マリアージュ・ベルガーと申します。」
白いローブの裾をつまみ、淑女の礼をとると、
アルベルトの息をのんだような気配を感じた。
「アルベルトさま、聖女さま、知ってるの?」
私とアルベルトの様子をきょろきょろ見ながら、ヤンが尋ねる。
ルカとアナは、その後ろで注意深く、様子を見ている。
「ヤン、聖女さまという表現には、私も同意いたしますが、
マリアージュ様はとまどっておられるようです。
みんな、マリアージュ様に、まずはご挨拶してはどうでしょう?」
すると、一番年長のルカが一歩前に出た。
「はじめまして、僕は ルカと言います。10歳です」
太陽の光にはじけるような蜂蜜ブロンドに、灰青色の瞳。
子供にしては、落ち着いて少し怜悧な声で、
まっすぐに私を見て、そう言った。
「はじめまして。わたしは、アナ。10歳よ。」
濃茶色のカールのかかった髪に、少しつり目の赤みのある茶色の瞳。
ルカに続いて、少女は、早口でそう言った。
「ボクは、ヤン。8歳 です。
聖女さま、さっき、ごめんなさい。」
ヤンは、顔を真っ赤にして、頭を下げた。
「ヤン、大丈夫よ。
だけど、私は聖女ではないの、ごめんなさいね。
あらためて自己紹介をするわね。
みなさん、はじめまして。
私は、マリアージュと言います。18歳よ。
名前で呼んでくれると、嬉しいわ。
昨日から、この神殿でお世話になっているの。
来たばかりで分からないことが多いから、色々教えてくれる?」
にこりと笑うと、3人は一斉に顔を赤くしてから目を輝かせた。
「マリアージュ様、あっちの樹の下で、お話しましょ。」
アナがベンチを指さして、私の左手を引いた。
ヤンは、スケッチブックを両手でかかえこんで、私の横に並んで駆けてくる。
ルカとアルベルトは、少し後ろからついてくるようだ。
「神殿の中が、昨日からざわざわしてて、すごく不思議だったの。
謎が分かったわ。マリアージュ様のことだったのね。
だって、本当にきれい!
あのロータス様も、いつもつまんないルカだって、
鼻の下を伸ばしてるんだもの。」
「うふふ。
鼻の下は分からないけれど、ラウランスとロータスは、確かに面白いわね。
私が何か言うときまって顔を赤くして目を丸くするから、つい思っちゃうのよ。
これは、タコのものまね大会なのかしら?って。」
「・・・あはっ。マリアージュ様のそのお顔で、そんなこと言っちゃうの?
ロータス様がタコ?うはっ、あ、あははっ。やだ。止まんないっ!」
アナがお腹を抱えて苦しそうにしている横で、
ヤンは、スケッチブックをじっと見つめて、首をかしげる。
少し離れたところで、ルカはあんぐりと口をあけていた。
アルベルトは、斜め下を見ているが、肩が小刻みに揺れている。
「な、何?何なの?」
「く・・、い、いえ、何でも。」
そんなこと、ないでしょう!?
口の端が、ぴくぴくしてるのよ!
手のひらで口を押さえて横を向いたアルベルトを睨んでいると、アルベルトは私を見おろして面白そうにくっくっと目を細めた後、やがて優しく微笑んだ。
その様子を見ていたヤンはぱぁっと瞳を輝かせて、ベンチにすたんと座ると、スケッチブックを開き、さらさらと何かを描いた。
大きな樹と、背の高い神官と、髪の長い少女のラフスケッチ。
その隣りのページには、
きらきらした光の中で
腰まである髪がふわふわと広がった
白いローブの女性の絵があった。
今回も読んでいただき、ありがとうございます。
今日の投稿は、いったんここまでです。




