2.アルヴィス王
区切りのいいところまで、ちょっとまとめて投稿しますね。
翌日、私は中央神殿の図書室にいた。
この100年の出来事と、アルヴィス王のことを知りたいわ。
そう言ったら、ラウランスは、この図書室の特別区域の鍵を貸してくれ、合わせて「私」が読むべき資料を3つ教えてくれた。
「まずは、これね。アゼルティーナ国史。」
国史は、王宮の司書官が史実をまとめたもので、20年に一冊編纂される。
国内の主要な図書館や諸外国にも置かれる、いわば「表向き」の歴史だ。
私は、100年前のページから読み進めることとした。
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(私の、依代の魔女の引継ぎの儀のあと)
○アゼルティーナ歴602年、アルバラン王がハークス伯女を側室を迎える。
(私の、依代の魔女の引継ぎの儀の2年後、これは先代の魔女ミリアンヌ様のことではないかしら。
依代の魔女への王の執着は、相当のものだったもの。
側近のハークス伯爵の養女とされた後、娶られたのではないかしら。)
○アゼルティーナ歴605年、アルヴィス王太子が王位継承。
国民の祝祭は、三日三晩に渡る。
(アルヴィスは王太子時代から、絶大な人気を誇っていたものね。当然のことだわ。)
○アルヴィス王
在位30年。魔術具技師をはじめ、数々の技術者を国内に招致し育成。国土全体の治水対策と灌漑事業の開始。現代国家の基礎を築いた王であり、その政治手腕は歴代最高クラスと称されたが、政策は強硬に進められたものも多く、在位初期には疑念の声もあった。隣国ウィステリア国の王女と婚姻するも後継なし。後年は、魔術具研究者としても有名。
○アゼルティーナ歴635年、アルヴィス王没、アレク王弟とアリスト王弟による王位争いの末、宰相マーカス・ベルガーと、騎士団長カール・ドミトリスの後ろ盾を得たアレク王弟が即位。以降、王家と、それを支える知のベルガー、武のドミトリス家により、アルヴィス王の国土政策を維持。
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(・・・なんだか、やっぱり不思議な気分ね。
私にとっては最近まで一緒に過ごしてたみんなが、歴史書の中の人物になっているのだもの。)
私は、この世界にたった一人残されてしまったのだ。
好奇心に溢れていた心が、とたんに、暗闇の中に漂う風船のように、酷く心許なく、私という存在が消えてしまうような感覚に陥る。
それでも、これは覚悟していたことだ。
そう言い聞かせ、次の資料を手にとった。
「・・・イェール家当主の手記、依代の魔女と魔力供与の記録のようね。」
魔女システムについては、他国や大多数の国民には知らされていない、
この国の秘事である。
代々の神官長が、魔女と魔力供与者の情報、魔力供与の記録と国で起こった出来事を関連づけて記してあった。
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602年花月○日 ミリアンヌ・ロッド 覚醒
マリアージュ・ベルガー 引継の儀
マリアージュ・ベルガー
宰相マイアール・ベルガー侯の娘
高位貴族からの初の魔女後継者
適正値が比類なく、王命により魔女を継承
引継の儀、立会人
アルヴィス・フォン・アゼルティーナ
同年 魔力供与者
アルヴィス・フォン・アゼルティーナ
マーカス・ベルガー
カール・ドミトリス
セイナン・イェール
633年 魔力供与者
アルヴィス・フォン・アゼルティーナ
セタ・イェール
※アルヴィス王意向により、供与者は2名に変更
635年 アゼル河、アゼル湖流域の氾濫
635年星月〇日 アルヴィス王没
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700年 魔力供与者
アルベルト・ユスト
ラウランス・イェール
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(あぁ、アルヴィスは、約束を果たしたのだわ。
そしてずっと私の魔力を支えてくれていた。
でも私の中にはもう、あなたの魔力も気配も、もう何も残ってはいない。
名前を見るだけでも、今もこんなに、胸がぎゅうってなるのに・・・。)
寂しくて苦しくて、手記を持つ手に力が入る。
この感情をどうすることもできなかった。
倒れそうな身体を支えようと机にもたれると、
深紅に金色の紋様が施された文箱に手が触れた。
(最後のこれ、何かしら、お手紙?
この封蝋、王家のだわ・・・、!、アルヴィスの手紙、だわ。)
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親愛なるセタ・イェール殿
君には、感謝している。
君が表に立ち、私と私の大事なものが全てここにあるよう、整えてくれた。
元来、私は気弱で、大事な時に伝えるべきことを言えない人間なのだが、
セイナンや君が察してくれたから、
最後に、ここに書くことも、上手く伝えてくれることと思う。
マリアージュの願いを叶える
それが、私の願いだ。
依代の魔女なくとも、平和な世。
20年かけて対策を立て、魔力供与が半分となっても保てる世とできた。
後は、マーカスとカールが、災害に備えた国土対策を予定通りに進め、マリアージュが目覚める頃、仕掛けた魔術具が計算通りに動けば、よい。
だが、魔女システムから魔術具への切り替えによって、前回のように反動の起こる可能性はある。
どの程度の影響があるか、分からぬが。。
私の力はリゼに後を託している。
必要だと判断したからだ。
あいつは気に病むだろうか。
いや、自惚れに過ぎぬか。。もしくは私の希望かもしれぬが。
セタよ。
あとは頼む。
最後に。
マリアージュが目覚めたら、
とっておきの甘いものを食わしてくれ。
アルヴィス・フォン・アゼルティーナ
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今回も読んでいただき、ありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。
【あとがき小話】
逢七は、もともとは、がっつり「読み専」
きっと、そういう人、多いよね?
色々読み過ぎて、食傷気味になったので、
自分でも、書いてみた。的な。