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【記念話】ヤンの具合の悪い日(ネトコン一次選考通過記念)

ありがとうございます。


なんと!ネット小説大賞の一次選考を通過しました!!

処女作にして、快挙です。

ということで、第2弾の記念話を用意しました。

「・・・聞い・、・・・入って・、いい・・?」

「・・寝て・・・、ダメ・・・、・・・待っ・」

 遠くから、ぼんやりと男性の声と女性の声が聞こえる。


「はあぁ、頭がぽ~っと、するぅ。」

 ボクは、ベッドに横になって、額に左手の甲を当てた。

 自分の手だけど、空気に触れていたから、少しだけ冷たく感じて気持ちいい。


 ぼんやりとした視界の先は、白い景色だ。

 天井も、カーテンも。



 ここは、由緒正しきアゼルティーナ王立学園の保健室。


 この日、ボクは朝から体調が悪くて、しばらく授業を受けていたけれど、起きているのも辛くなって、ここに来た。

 それから1時間くらいは経ったのだろう。

 白い景色の先が、来た時よりずいぶん眩しく感じる。


 ボクは、ヨハンナ・ユスト、王立学園芸術科の1年生だ。

 親しい人からは、『ヤン』と呼ばれている。


 ボクは、普段、風邪もひかないほどに健康だ。

 だけど、この時期だけは、身体が熱っぽくなってぼんやりしてしまう。

 アルベルト様によると、マリアージュ様と繋がってるボクは、今のところ魔力は安定しているけれど、季節の変わり目には、その揺らぎが魔力に影響して、体調の波が大きくなるらしい。

 それで、この時期には、ずっと白昼夢を見るようにぼんやりしてしまって、夢見も悪くなるから、ボクは、大好きな絵も描かないようにしている。




 白い視界を変えたくて、コロンと寝返りを打つと、シャッ とベッド横のカーテンが開いた。


「んん、ごめんなさい、先生? ボク、まだ眠くて。」


 うつらうつらしながら、目をうっすらと開くと、目の前には、保健医の白衣じゃなくて、制服の碧いチェック柄があった。


 こんなところに膝があるなんて、長い脚だなぁ。

 そう思いながら、その先を辿っていくと白いシャツ、そのさらに先には、プラチナブロンドがさらりと垂れ下がり、その奥に優し気な若葉色の瞳があった。


「・・・ひっ。王太子、殿下。」


 急に目が覚めて、逆方向に転がって逃げようとするボクの動きを、生徒会長でもあるアレンディス・フォン・アゼルティーナ王太子殿下は片腕1本で止めて、ベッドわきにしゃがみこむ。


「ヤンちゃん、具合が悪いんだって? 大丈夫・・・なわけないか。」

 ひとりつっこみ みたいに言ってるけど、ち、近いよ。

 しかも、なんで、こんなところに、王太子殿下が?


「ヤンちゃん、もうお昼なんだけど、一緒にどう?」

「い、いえ。大丈夫、です。食欲、なくて。」


 こんな具合の悪い日にぐいぐい来られても、ほんとうに困る。

 ボクが嫌がっても、アレンディス殿下は特に気にすることもなく、話を続ける。

「少しでも、胃に入れた方がいいよ。ほら、からだ起こして。」

 有無を言わさない様子に、ボクは抵抗する気力もなくなり、はぁとため息をついて、もそっと身体を起こす。


 一口だけでも食べたら、満足して帰ってもらえるかな?

 そうぼんやり思って、ベッドから出ようとすると、殿下は

「いいから、いいから、ちょっと待ってて。」

と言って、カーテンの向こうからトレイを運んでくる。


「はい、あ~~ん。」

 そして、あろうことか、殿下はスープらしきものをすくったスプーンを、ボクの口に向けたのだ。


 いや、あの、ちょっと、待ってほしい!

 一国の王太子殿下が、一庶民の食事の世話を手ずからする光景なんて、ありえないから!!


 ボクはぶんぶんと首を横に振って、口をむぎゅっと閉じた。


「おや、駄目かい? 残念だなぁ。僕だって、ルカやアナみたいに、ヤンちゃんの口に食べ物を放り込んでみたかっただけなのにさ。」


 や、だって、クッキーやあめ玉と、食事は違うし・・

 ハードルが高いじゃないか!


「あはは。スープがダメなだけか。じゃあ、こっちね。」

 殿下はそう言って、パンをちぎって、スマートに差し出した。


 うぐっ。なんで。


「大丈夫ですからぁ。一人で食べれますからぁ。」


 今日こそは、断固拒否だ!


「しょうがないなぁ、そんなに嫌かい? 涙目になっちゃって、かわいぃなぁ。じゃあ、また今度にしようね、はい。」


 アレンディス殿下は、くすくす笑うと、パンとスープの乗ったトレイを、そうっとボクに手渡してくれた。

 ボクは、それを受け取ると無言でスープを掬って、口にあむっと流し込む。


 もう、ほんと、しゃべりたくない。

 顔が熱い。

 きっと、真っ赤になっているだろう。


 でも、これは、絶対、熱のせいだから!!


 無言でスープを流し込むボクを、横の椅子に座ってしばらく見つめていた殿下は、半分ほどの量になると「もう、いいかな。」と大きな手をトレイに添えた。

「これ以上は、つらそうだから。がんばったね。」


 優しくそう言われると、殿下の親切を無碍にしてしまった罪悪感と、殿下に世話をされているという恥ずかしさで、泣きそうになる。


「・・・すみません。ありがとう、ございました。」

 小さくそう言うと、殿下はにこりと笑って、トレイを受け取り、白いカーテンの向こうに姿を消した。




 ボクは、ベッドのヘッドボードを背もたれにして寄りかかる。

 相変わらず、頭の中も視界もぼんやりとしていて、目を閉じると、うつらうつらと夢の中に入っていく。


 そうしてボクは、たくさんの紅葉が舞い散る中にたたずむアレンディス殿下を、夢で見た。

 ・・・・・

 ・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・



「会長! こんなところで何をしてるんですかっ!?」


 大きな声が頭に響いて、はっと目を開けると、ボクを覗き込むようにしているアレンディス殿下の奥に、幼馴染のアナの姿が見えた。

 めらめらと陽炎のように沸き立つ魔力を背景に、広がる濃茶色の髪と赤みがかった瞳で、まるで鬼のような形相だ。


「え? アナ。 や、これは、ちがくて、絵を・・。」

「問答無用――!!」

「アナっ!!!」


 バッチ――ン!!!!!


 右手を振り上げたアナの前に、背後からするりと姿を現したのは、もうひとりの幼馴染のルカだ。

 アナの平手が頬に当たり、大きな体がよろめいて、ボクの寝ているベッドにストンとおしりを落とした。


「ル、ルカっ!? しっかり、して?」

 ボクは慌ててルカの肩に手を回す。

 そして、目を見開いて呆然とするアナと、スケッチブックを抱えて、いつの間にか横に避難しているアレンディス殿下。


「ご、誤解だ、アナ。確かに二人きりだったけど、手は、出してない・・

 ・・そう、誓って! ヤンちゃんが描いてくれた絵を見ていたんだ。」


 多少、変な間があったけれど、気になったのは、それではなくて。


「絵・・? ボク、絵を、描きましたか?」

「ああ。少しぼーとした様子だったけれど、嬉しそうにさらさらと描いていたよ、ほら。」


 広げてくれたスケッチブックに描かれていたのは、舞い散る紅葉とアレンディス殿下の笑顔。

 そう、さっき、()()()()光景だ。


「ああぁ、やっちゃいました・・。」


 ボクはこの時期は、絵を描かないようにしている。

 なぜなら、白昼夢で見た光景を絵に描くと、それが現実化してしまうことがあるからだ。

 アルベルト様とマリアージュ様は、これがボクの、『魔女の能力』かもしれない、と言っていた。

 だけど、今日のこれは・・・。


「いてて・・。アナ、落ち着け。ヤンを守りたい気持ちは分かるが、仮にも、会長は、王族だぞ。」

 そう言って、起き上がったルカの端正な白い頬には、手のひらサイズの色鮮やかな紅葉マークがあった。

読んでいただき、ありがとうございます!

かわいらしいヤンと押し強のアレンディス殿下をお楽しみいただけましたか。


さて、冒頭は、ちょっぴりエッチな会話を想像するように、一部単語を残してみましたが、事実はこう。

殿下「教室で聞いて、顔見に入っても、いいかな?」

保健医「まだ寝てるから、ダメですよ、すこし待って。」


そして、幕後、保健医が駆けつけると、そこには、平謝りのアナ、脱力するルカ(頬の腫れはアナの癒しの術で治療済)、冷汗を流すヤン、どこか居心地の悪そうなアレンディス殿下が、いましたとさ。


面白ければ評価よろしくおねがいします。

本作100年前の物語『侯爵令嬢マリアージュは、依代の魔女の後継者』も、よければどうぞ。

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