【記念話】ヤンと厄介な事情(10,000PV達成記念)
完結済小説に追加する方法が分かったので、
別話掲載の記念話をこちらに移しました。
10,000PV達成時の記念話です。
ここは、アゼルティーナ王国にある由緒正しきアゼルティーナ王立学園。
ボクは、ヨハンナ・ユスト。
親しい人からは、ヤンと呼ばれている。
ボクは小さい時から、絵を描くのがすごく好きで、今年の花の季節にこの学園の芸術科に入学した。
入学してから、ひとつぶんの季節が過ぎて、クラスに友達もできたし、お昼や放課後には、2歳年上の幼馴染のアナとルカも声をかけてくれて、毎日がとても楽しい。
ある暑い日の放課後のこと
ボクは、大きな画材道具を抱えて準備室へと運んでいた。
開放された渡り廊下から見える中庭には、水の季節らしく、夕方でもまだ高い日差しの中で、色濃く茂る樹々と、きらきら光る噴水と回遊する水路が見える。
ボクのいる芸術科では、先週から、学期末の課題製作で学園内の風景画を描いていて、日中は、この中庭にもイーゼルを置いて、絵を描いている生徒がいた。
芸術科には、音楽や演劇、そして画商などの事業に代々携わっている貴族もいるが、そういった貴族に才能を見出された平民も多く所属しており、そうした生徒たちは、学園で準備された高価な画材などを共用で使っている。
この王立学園内では、『女神様のご加護の元ではみな平等』という理念のもと、身分や性別、学年や学科の枠組にかかわらず、権利も役割もおおよそ平等に与えられ、そして生徒の自主性も重んじられている。
そういったわけで、今日はボクが準備係として、使い終わった道具類を運んでいる途中なのである。
「よいしょ、っと。」
中庭を過ぎたところで、画材を抱えなおした。
ボクは身体が小さいから、きっと前から見たら、画材から足が生えて動いてるように見えるだろうな。
そう想像すると、荷物を運ぶのも楽しくなってくる。
さっきクラスでボクが荷物を持つと、周りにいた何人かの男の子たちが、慌てて近寄ってきて、
「ユストさん、僕が一緒に持つよ。」
「ユスト嬢、困った時には私が助けるといつも言っているじゃないか。」
などと声をかけてくれた。
でもその後、なぜかお互いに睨み合って、喧嘩がはじまっちゃったので、
「面倒だし、もういいや。」と思って、
ボクはその場を抜け出した。
きっと、彼らは、ボクがいなくなったことにも気づいてないんじゃないかな。
「よいしょ、っと。」
廊下の曲がり角で、もう1回抱えなおした時、ふっと荷物が軽くなったのを感じた。
「これ、どこまで運ぶの?」
視界が開けた先にいたのは、
にっこりと微笑む生徒会長、アレンディス・フォン・アゼルティーナ殿下だ。
さらりと揺れるプラチナブロンドに優し気な若葉色の瞳、頬のラインが、赤子のように白く柔らかそうなので、印象として甘い顔立ちに見える。
それに対して、姿形は、それなりに背も高く、荷物を持つのにまくり上げたシャツから見える二の腕は、鍛えているのか、くっきりとした筋が通っていて、そういったギャップが、不思議に印象に残る人だ。
「え、あ、あの、大丈夫ですから!」
慌てて、荷物をとろうとすると、「いいから、いいから。」と背中を向けて歩き出した。
「ヤンちゃん、もう少ししたら、長期休暇でしょ?どこか、行くの?」
いつものように、フレンドリーに話を続ける殿下に、ボクは慌ててついていく。
「えっ・・・と、出かける予定は特にありません。」
そう、つい先日、マリアージュ様に可愛い女の子が産まれたのだ。名前はマナカ。
マリアージュ様に似た、ほんとにほんとに可愛い天使で、休暇に入って家に帰るのが、いま一番のボクの楽しみなのだから。
ボクを見てにっこりと笑うマナカを思い出し、つい頬がとろけてしまうと、横から、ひやっとした空気を感じた。
「ずいぶん、楽しそうだな。」
見ると、にっこりと微笑むアレンディス殿下。
ひいぃ。
思わず、息を飲むと、殿下はこほんと咳払いをして、冷たい空気を払った。
「予定がないなら、アゼル湖に王家の別荘があるんだけど、一緒にどうかと思って。――あ、もちろん、ルカとアナにも声をかけるからね。」
「あ・・、はい。」
いや、断れるはずないですよね?
マナカといれる時間が少し減るかと思うと、ちょっとがっかりするが、でも、と思う。
アナが喜ぶかもしれないもんね。
ボクは、ふわふわの濃茶色の髪、少しつり目の赤みがかった瞳の幼馴染のアナを思い出す。
殿下の押しの強さに困っていると、だいたいの場面で助けてくれるのが、アナだ。
そして、間に入って、殿下と言い争っているアナは、とても生き生きして楽しそうに見える。
ボクは、アナが殿下のことを好きなら、応援してあげたい。
「今、考えてること、たぶん違うから。」
ん?とボクが首を傾げると、殿下は、ん~~と考えるようにして、ちらっと後ろを見る。
「アナと僕はそんな関係じゃないし、その誤解、アナも嫌がるよ。
・・・あ、ほら、来た。」
後ろを振り返ると、ぐんぐんと近づいてくるアナの姿があった。
品よく歩いてるようにしか見えないのに、すごいスピードだ。
「会長!いないと思ったら、またヤンのところに。今度は、何ですか?」
腕を組みながら、すっと間に入る。見事なガードだ。
「いや、誤解しないでくれ。休暇中に開く別荘のパーティに誘っていたんだ。君も毎年参加しているだろう?」
「ダメです!」
つんと横を向いて、とりつくしまもないアナの様子に、殿下は、ふうとため息をついてから、にやりと笑った。
「君のその様子、ヤンが勘違いしているぞ。」
ぎゅんと振り返って、ボクを見るアナ。
「え、あの・・・、アナは、殿下のことが好き・・・?」
とたんに、げっそりと苦い薬を飲んだかのような顔をして、嫌そうに殿下を見た。
「こんな、表の顔と腹の中が違うような人間、好きになるわけがないわ。」
アナは、ばっさりと断言した。
いや、なにげにひどいな。
「その点、ヤンは、顔を見たら何考えてるかすぐに分かっちゃう。ほんと素直で可愛いったら!」
うんうんと頷きあう、アナとアレンディス殿下。
ボクは、自分の未熟さに深く反省する。
「とにかく。あまりヤンを公の場に巻き込まないでください。
後で知られると、ほんと、怖いんですから、アルベルト様は・・・、
あ。」
アナは、慌てて口を押える。
「アルベルト・・・? そういえば、ユストだったな?
・・・ああ、なんだ、そうか。」
納得するようにつぶやくアレンディス殿下。
アナは、顔を真っ赤にして、ぎっと殿下を睨み、ボクの手をとった。
「厄介・・・!厄介だわ!!この男。
もう行くわよ、ヤン。」
「あ、待って、アナ、荷物が!」
アナに引きずられながら殿下を見ると、「僕が運んでおくから。」と左手を上げて手を振り、反対側へと歩き出す殿下の後姿からは、なぜか、燃え立つ炎のような魔力が感じられるのだった。
短時間で書き上げたので、練度が低いかもしれませんが、さらっと読んでいただいて、細かい設定のつっこみはなしでお願いします。




