エピローグ 幸せな日々
最終話です。
読んでいただき、ありがとうございます。
今日は、アゼルティーナ王立学園の入学式。
真新しい制服に身を包んだボクは、校門の前に立って、荘厳な校舎を眺めている。
今日から、いよいよ始まるんだ。
朝から、ずっとわくわくしていた。
だって・・・。
「ヤン!入学おめでとう!!」
左腕に、生徒会役員の印である二本線の刺繍の入った制服を着て
門の向こうからボクを迎えてくれるのは、アナとルカだ。
アナとルカは、最高学年の17歳、
ボクは、今年の春15歳になった。
「アナ、ルカ、嬉しい! ありがとう!!」
ボクは、たたっと校門を駆け抜けて、えいっとアナに抱きついた。
「はあああ/// ヤンったら、相変わらず可愛い♡」
アナはぎゅうぎゅうとボクを抱きしめて、ボクの髪に頬ずりをする。
アナの豊かな胸に埋まって、ボクは真っ赤になる。
風に揺れるふわふわの濃茶色の髪、少しつり目の赤みがかった瞳に、抜群のスタイル。
アナは、すごく綺麗でいい匂いがする。
「おい、アナ。注目浴びてる。めんどくさいことになるぞ、ほんと。」
ルカは大きなため息をついてから、ボクを見下ろして、にっと笑った。
木漏れ日を受けて、きらきら輝く蜂蜜ブロンドに少し垂れ目の灰青の瞳に、怜悧な口元。
背も高くなったルカは、まるで王子様だ。
「ルカも。久しぶり! 今日から、よろしくお願いします!」
アナから離れて、ぺこりとお辞儀をする。
さらりと揺れたボクの黒髪を見て、ルカは少し目を見開いてから、
「ああ、楽しめよ。」
と言って、にこりと笑う。
「なあなあ、その子、誰?」
そのとき、ルカの後ろからひょこっと顔を出すのも、どうやら生徒会メンバーのようだ。
ルカより少し背が低いが均整のとれた姿に、さらりと揺れるプラチナブロンドと若葉色の瞳、女子受けのよさそうな全体的に柔和な顔立ち。
制服の左腕にはやはり二本線の刺繍が入っている。
すると、横からアナが割り込むように入ってくる。
「会長、ヤンは私たちの大切な妹分です。無闇に声をかけないでくださいませんか。」
背の低いボクは、アナの背に隠れるようになった。
ルカも振り返ってアナの斜め前に立ちはだかったので、ますます相手の顔が見えなくなる。
「おいおい、そんなに警戒しなくても何もしないよ? 君たちの妹分だろ? 僕にだって、挨拶させてくれ。」
そう言って、結局、二人を掻き分けて、彼はボクを覗き込んできた。
「初めまして。アレンディス・フォン・アゼルティーナだ。」
柔らかい微笑みを浮かべるのは、まさかの本物の王子様だ。
ボクは慌てて、淑女の礼をする。
よかったぁ。マリアージュ様に教えてもらっていて。
「初めまして、殿下。ヨハンナ・ユストと申します。」
顔を上げると、興味深く見下ろす若葉色の瞳と目が合う。
「ふうん、ずいぶん綺麗な礼だね? 君、貴族科?」
「い、いいえ。わたし、は、芸術科です。」
「そう・・・。」
「・・・・・。」
えっ、この沈黙、一体どうすればいいんだろう?
ボク、失敗しちゃった??
マリアージュ様あっ!!
嫌な汗が出てきたところで、アナが私の右手を引いて言った。
「会長、挨拶はもう済みましたよね? 行こ?ヤン。ルカ、あとは任せたわ。」
「ああ、わかった。」
いいのかな?と思いながらも、アナに連れられて、その場を離れる。
アレンディス殿下はしばらく、遠ざかるボクたちを見ていたが、ルカに話しかけられて校舎へと戻って行った。
「ふう。全く。油断も隙もないわね。ねえ、ヤン。殿下の人当たりのいい笑顔に騙されちゃダメよ。いつのまにか上手く利用されちゃうから。」
と、まるで経験したかのように言うアナである。
「それに、ヤンもそろそろ自覚を持たないと! いつの間にか、こんなに美少女になっちゃって。」
アナは眩しそうに目を細めて、ボクを見る。
最近、ボクは髪も背中まで伸びて、男の子に間違えられることもなくなった。
胸の膨らみはささやかだが、学園の制服から見える手足や首は華奢で、艶のある黒髪に大きな琥珀色の瞳は、大人の庇護欲を刺激するのか、神官長たちや、ラ・フレイヤの皆が、とても可愛がってくれる。
「アナもね? それにルカも、王子様みたいだったね。」
「うふふ。ヤンもそういうことを言うようになったのね?」
楽しそうに笑うアナ。
アナは、強い癒しの術が使え、また、神殿に相談にくる人の相談にすごく親身なので、今では街で大人気の巫女である。
ルカは、その能力と容姿を買われて、後継のいない伯爵家の養子になり、今では貴族の一員である。
そういうわけで、二人はこの学園でも、とても人気があると聞いた。
「ねえ、ヤン?」
「なに?」
「しばらく、マリアージュ様のお顔を見ていないけど、お元気なの?」
校門近くの噴水のそばのベンチに腰掛けると、アナが心配そうに聞いた。
ボクもその隣に、すとんと腰を降ろして、にこっと笑う。
「うん!実はね、もう少ししたら、赤ちゃんが生まれるの。」
「えっ!ほんと!?」
アナがぱあぁっと顔を輝かせる。
「わああ。良かった! 良かったねぇ。」
「うん!!」
4年前に結婚したマリアージュ様とアルベルト様は、少し郊外にお屋敷を借りた。
そして、マリアージュ様は、ボクも一緒に住もうと言ってくれて、
三人と、あと優しい使用人たちで、暮らしている。
毎朝、空を見ては、晴れの日も、雨の日も、風の日も、
幸せそうに笑うマリアージュ様。
そんなマリアージュ様を見て、穏やかに微笑むアルベルト様。
そんな二人をそばで見ることのできるボクは、本当に幸せだ。
一陣の風が通り過ぎて、ボクとアナの髪を揺らしていく。
ボクが風を追って空を見上げると、木洩れ日の射す樹々の上で小鳥たちが幸せそうにさえずっていた。
Fin
完結しました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
初投稿から怒濤の2週間でした。
次回作は、まだ未定です。
マリアージュ×アルヴィスのお話は、二人が動き出してくれるまで、もう少し時間がかかりそうです。
書き上がって投稿が叶いましたら、またお会いしましょう。
もし、ご意見あればお気軽に感想をお寄せください。
また、応援のお気持ちを評価☆☆☆☆☆で表していただくのもうれしいです!




