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1.優しい世界

「うわ~~! 何これ!? めっちゃ美味しいんだけど。

 さっきのスープはハーブの香り?がすごく爽やかだったし、

 このお肉も柔らかい!!! 味も濃厚なのに、くどくないわね。

 一体何の味付けなのかしら?」


パクパクと手と口が止まらない私を見て、

神官の服を身にまとった青年は、ただ呆然としている。


それは、そうよね。

まさか、100年も眠りつづけた人間が

起きてすぐにこんな大食いができるなんて思いもしないわよね。


ていうか、この人

えっと、さっき名前を聞いたのだった。


ラウランス・イェール?

だったかしら?


イェールといったら

100年前、中央神殿の神官長だった

セイナン・イェールの子孫てことよね。


セイナンは、すごく静かで穏やかな人で

地味な神官だって、嫌みをいう貴族もいたけれど

図書室で本を読む彼の近くにいれば、いつも穏やかで安心した気持ちでいられたし

何も言わなくても、いつのまにか波長がシンクロして気分が落ち着くものだから

迷ったときや不安なときなんか、よく通って横で本を読んでいたものだわ。


・・・なんだか、しんみりしちゃったわ。



で、目の前のラウランス・イェール

少し緑味がかった黒髪に、コーヒー色の瞳、

背は高いけれど全体的に細身で撫で肩。

落ち着いていてどこか中性的な外観は、セイナンゆずりね。


でも、セイナンより若いせいかしら?

軽いというか、苦労してなさそうなおぼっちゃまって感じ。


というよりも、第一印象のせいかもしれないわね。

眠りから目覚めて最初に目に入ったのが、うっとりと紅潮した見知らぬ男だったのだもの。


なんかちょっと気持ちわ・・・いえ、残念な感じ。


パンをちぎりながら、ラウランスをチラ見すると、

ビクッとして、少し頬を赤らめた。


「ほら、今の、そうゆうところよ。」

「・・な、何がで、ございますか?」

「あら、失礼。」


いけない。つい、声に出てた。


「ん、んんっ」

「?」


「えっと・・、ラウランス様、」

「呼び捨てで結構でございます。」

「・・ラウランス、は、神官長とおっしゃられましたね。

 では、イェール家のご当主でいらっしゃるの?」

「はい。1年ほど前から。」

「それならば、ここにいてよろしいの?

 ご当主には大事なお役目があるのでしょう?

 新たな魔女の引継ぎの儀は、あなたでなければできないはずよね。」


ラウランスは、目を伏せて考えるようにしてから

ふぅと息を吐き、静かな表情で私を見た。


「アゼルティーナ国の依代の魔女は、貴女で最後です。

 アルヴィス王がそのように定め、100年かけて今日まで整えてまいりました。」

「・・・・!」


セイナンを彷彿とさせる穏やかな瞳と相まって

私は言葉に詰まる。


(そう、アルヴィスが・・・。)


脳裏によぎる微笑みに、心が支配されそうになる。


私は、目を閉じてふるふると頭を振った。


長い眠りの間に、悲しみも後悔も恋慕も充分すぎるほどしたわ。


ぐっと唇を噛んで目を開け、手元のスプーンの重みに思考を戻す。

少し震える右手に力を入れ、真っ白な粉雪に覆われているような柔らかなスイーツを1さじ掬って口に入れた。


「んう!?」

「ど、どうなさいましたか!?」


「な、何これ? すごい!!!

 口の中で溶けるようになくなっていくわ。

 それでいて、後味はとても優しい甘さね!」


「それはよかったです。

 アルヴィス王が後世に託した3つの伝言のうちのひとつが、

 スイーツの職人育成と菓子市場の発展でございました。」


・・・・・・・・・

アルヴィスの作った世界は、とても優しい世界のようだ。


読んでいただき、ありがとうございました。


【あとがき小話】

プロローグで「ビギナーズラック」と書きましたが

逢七が宝くじで当選した最高額は100万円です。

友人が言うには、当選しやすい「イニシャル」があるらしい。

ほんとかな?

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