17.守りたいもの
投稿はじめて、PV1000超えました!
とっても嬉しい。
翌日、クレイル将軍、マティウス、アルベルト、そして私の4人は
王宮を出て、アゼル湖に向かった。
急ぎということもあって、馬上で2日間ほどの日程だった。
将軍を先頭に、マティウス、アルベルトと続き、
周囲には、護衛の騎士が10名程度付き添っていた。
私は、アルベルトと共に馬に乗ることになった。
アルベルトは神職にもかかわらず、ずいぶん鍛えているようで、安定した走りだった。
その道中、アルベルトは、自分のことを訥々と話してくれた。
「私は、幼いころ、騎士の父と二人で過ごしていました。
父は子煩悩で、暇があれば剣を教えてくれて、将来は私も騎士になるのだと思っていました。
父の元へは、時々、中央神殿から人がやってきていて、そのたびに、私に歴史や地理といったことを、それから洗礼の儀の後には、魔力の扱いも教えてくれました。
ただの騎士の息子の私に、何故そんなことを教えるのだろうと不思議に思っていましたが、教わる内容が面白かったので受け入れていました。
母が神殿で巫女をしていると知ったのは、その頃です。
ですが、父との暮らしが十分だった私は、当時は、なぜ父と母が離れて暮らしているのか、気にすることはあまりありませんでした。
その後、神殿からの推薦で、王立学園に通う頃には、自分の能力と容姿が周囲より優れていることを自覚して、ずいぶん好き勝手なことをしていました。
一方で、騎士になってそれなりに出世して、自分にとって有益な女性を選んで生きていけばいい、そんな安易な未来に冷めた気持ちでした。
そんな時、神殿の母から私に連絡があったのです。内密に話がある、と。
初めて会った母は、私とよく似た容姿をしていました。
お互いに、親子としての感動や憎しみといった感情もなく、母は、ただ淡々と、ユスト家のこと、魔力供与のこと、それにアルヴィス王からの伝言のことを説明しました。父や私について何も触れることはなく。
だからといって、私自身も特に感情が動くこともなく、幼い頃の日々はこのためだったのかと不思議に納得して、自分の未来を騎士から神官に置き換えるだけでした。
その後、しばらくして、病を得ていた母は息を引き取りました。」
宿場に着くと、アルベルトは、私が馬から降りるのを手伝ってくれる。
「私が、初めて貴女と対面したのは、今の貴女と同じ19歳のときです。
細くなった母に連れられ、魔力供与の間に入り、眠る貴女を見ました。
母の魔力供与の様子を見て、自分の中に『嫌悪』に似た感情が沸いて、とまどいました。」
そのまま、私をエスコートしながら、にこりと笑う。
その笑顔に一瞬怯んで、離れようとする私の手を、アルベルトは握りこんだ。
「母の魔力を受け取る貴女が、父と母と私の、普通の当たり前の幸せを消化しているように感じたんだ。」
アルベルトは、廊下を歩きながら、そのまま強く私の手を握る。
「でも、魔力供与をしているうちに、少しずつ分かってきた。供与のたびに、貴女から伝わってきた思いは、『この世界のすべてを守りたい』だったから。
そこには、私たち家族のことも、もちろん含まれていた。
そして、そんな貴女に魔力を注ぐ母の思いも、やはり父や私を守りたいという思いだったのだと、私も漸く理解できるようになった。」
そう言って、アルベルトはとても穏やかに微笑う。
心がじわりとした。
「・・・ありがとうございます、アルベルト様。」
100年前、私は、私の守りたいもののために、独りで眠りについた。
そして、いつの間にか、独りでこの世界を守っている気になっていた。
そして、この思いを理解する人は、もう誰もいないと・・・。
でも、そうではなかったのだ。
私は独りで守っていたのではない。
私に魔力を与えてくれた人たちも、それぞれの思いで、一緒に大切なものを守ってきたのだと。
「・・・すみません。貴女を泣かせるつもりは、ありませんでした。」
アルベルトは、私の頬を大きな手の平で覆い、親指で頬をなでた。
「さあ、ゆっくりお休みください。明日は、アゼル湖に到着しますから。」
アルベルトを見送って、その晩、私は眠れない夜を過ごした。
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翌日、明け方に宿を出た私たちは、アゼル湖に向かって馬を駆けていた。
「もうすぐですよ。」
樹木に覆われた川沿いの道を抜けると、一気に視界が開けた。
対岸まで見ることができないほど、大きな湖だ。
100年前に訪れたアゼル湖は、青い空の下、透き通る深い青の湖水が太陽の光を弾き、きらきらと輝いていた。
だが、今日のアゼル湖は、厚い曇り空の影響なのか、湖水そのものの色なのか、暗い緑色が広がり、鬱蒼としていて、視界から見える水平線が空の光を吸収しているようにも見える。
そこには、生物の気配も感じられなかった。
私たちは、不安な気持ちのまま、湖畔を駆ける。
マティウスとクレイル将軍は、とても険しい表情をしていた。
調査の時から、さらに状況が悪化しているのかもしれない。
その気持ちに反応したのか、馬のスピードが上がっていく。
私はぐっと唇をかみしめて、アルベルトの腰に回した腕に力をこめた。
今回も読んでいただき、ありがとうございます。
アルベルトは、やっぱり書けば書くほど黒いです。学生時代に、その容姿と能力を活かして、きっと色々やっちゃってるのでしょう。
書きながら、「これってもしや〇〇ハラでは?」と思いつつも、吊り橋効果的な感情の揺り動かしをしないと、石橋を叩いてる真面目なマリアージュが動いてくれないので、・・・はぁ。
ほんと、早く幸せになってほしい。
でも、逢七は、ハラスメント全般、反対です。
マリアージュ×アルヴィス×リゼの恋物語を読みたい方、評価☆ください。
あと、2話、ぜひ応援ください。