表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/23

13.マリアージュの日常

「マリアージュさん、おはよう。今日もよろしくね!」


商業区の石造りの建物の隙間から少し高くなった朝日が照らす石畳の上を歩いていると、お店で働いている売り子の女の子が駆け抜けながら、声をかけていった。

彼女は、まばらな人並みを縫うようにしながら、小さな子どもたちや、店先の掃除をするおかみさんに次々と笑顔で挨拶をして、駆けて行く。

赤茶けた石畳には昨日の雨の跡がまだ残っている。


私は、マリアージュ・ベルガー 19歳。

100年の眠りから覚めて、1年と数か月。

目覚めたこの世界は、自由で優しくて楽しい。


私は、神殿で生活をしながら、巫女としてのお仕事をするほかに、

週に何度か、街のスイーツ店『ラ・フレイヤ』で働くことになった。


働くといっても、主に商品開発への助言や試作品の試食で申し訳ない限りだが、時々「お手伝いしましょうか」と店に顔を出しても、時間も経たないうちに、店主に「店が荒れる!」と慌てて追い出されるので、仕方がない。

「店荒らし」の意味は分からないけど、まあ、元侯爵令嬢に、客前に出せるほどの給仕や料理の技術もないのは確かだし、お店に迷惑をかけるわけにはいかないよね。

ということで、私にできることをちゃんとやろうと思っている。


最初、街に出て生活したいと言ったときは、ラウランスがひどく反対した。

「マリアージュ様をお守りするのが、私の使命であり、生きがいです!」

と、駄々をこねていたが、アルベルトが何か耳打ちすると、

びくっとして、「はぁ。分かりました。致し方ありません。」

と引いてくれた。


一体、何を言ったのだろう。

アルベルトは、思いのほか腹黒いからなぁ。


それに、はじめて『ラ・フレイヤ』を訪れたときも。

アルベルトは一緒についてきて、

妙齢でふくよかな女性店主に、いつもの人好きする笑顔で何かを手渡したら、店主はそれを見てぎょっとした後、あからさまにぽーっとしちゃって。

ああ、思い出すだけで、なんだかイラッとしちゃう。


「アルベルト様は、神職でなければ、とんだ詐欺師ですわね。」

って嫌みを言っても

「おや、やきもちですか?嬉しいですね。」

なんて流して、狸もいいところだわ。


そう、ヤンのことで協定を組んだあの夜から、アルベルトは私に対して、

ずいぶん遠慮というものがなくなった。


だけど、感謝もしている。

私を必要以上に貴族令嬢や「力」持ちとして扱うこともなく、

私がしたいと思っていたことを手助けしてくれる。


そうして、生活の本拠は、ラウランスたっての願いで神殿としながらも、

時々はこうして街の人々と生活を共にすることができるようになった。


『ラ・フレイヤ』で働くのは、店主を始めみんないい人たちで、急にやってきた経験もない私を邪険にすることもなく、色んなことを教えてくれる。


・・・そう、店主に最初に教えてもらったのが、この店の経営理念だった。

「マリアージュさん、このお店のスイーツはね、全て女神への捧げ物と思ってください。創始者が遺した言葉・・・、それはね。

『アルヴィス王の愛した女神に捧げる究極のスイーツを!』ですからね?」

「・・・・・・。」

あれ?これって、もしかして私のことでは?


しかしながら、おかげさまで?

私も加わって考案したスイーツたちは、このご時世にもかかわらず、好調な売れ行きで、そのたびに、店主は「女神様のご加護だわ!!」と大喜びである。


お店には、時々、マティウスが足を運んでくれる。

新商品を出す日には、なぜか店先で待っていて、

「家のメイドに」「王宮の侍女たちに」と、大量に買い占めていった。

あのスマートな見た目で「いつもありがとう。」と微笑むと、店内の女の子たちは、一斉に動きを止めた後、「きゃああああ///」と騒ぎ立てている。


そんなマティウスも、ここ一月ほど顔を出さない。

アゼル湖に調査に行くのだと聞いた。


王都でも、最近、東部地域の水害や西部地域の干ばつで、麦の価格が上がったり、市場の品数が目に見えるように少なくなった。

露店の出店も減り、通りを歩く人もまばらである。

災害に遭った人々が農村地域から流れてきており、定期的に炊き出しなどが行われている。



考えているとひどく不安になって、私は席を立ち、窓辺に寄った。


すると、先ほどまで晴れていた空がずいぶん暗くなっている。

突然、ピカッと空が光り、ざあああああ、と大粒の雨が吹き付けてきた。

屋根に当たる雨音がうるさいくらいだ。

通りを歩く人々が、急いで軒下へと走り込んでいる。


「最近、こんな天気ばかりね。」

店主も、仕事の手を止めて、不安そうに窓から外の様子を眺めた。

「昨日も大変だったけど、今日も通りが水路みたいだわ。大丈夫かしら?」


魔女システムを止めたことの影響かもしれないわ。

そう思うと、心が苦しくて、私は独り、ぎゅっと腕を握りしめた。

この世界を守るために、今私にできることをするしかないのだ、そう思って。

今回も読んでいただき、ありがとうございました。

終盤に向けての説明回となってしまい、ちょっと読みにくい回かもしれません。


【あとがき小話】

『マリアージュの店荒らし』

けしてドジっ子だからということではなく、マティウス同様に容姿の優れたマリアージュが店先に出ると、ヒロイン特性として、いらない暴動がおこりがちです。

『暗躍するマティウス・ベルガー』

マティウスは、頭の良さを生かして、高位貴族でありながら、若手実業家としても名を馳せています。彼のおかげでベルガー家の富はますます底知らず。特に、マリアージュ関係の情報は目ざとくチェックしており、マリアージュの知らないところで店主と細かなやり取りをして、売れ行きのチェックやさりげない広報活動をしているため、販売初日にも立ち会えるのです。

『マリアージュ考案のスイーツ』

幾分か加護の力が含まれているらしく、商売繁盛や心身健康の効果があるらしい。(マティウス調査)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ