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10.ヤンの秘密(2)~よみがえる光景

10歳のお告げの儀の日

私は、大人の目をかいくぐり、中庭までやってきた。

大きな樹の下で小さくうずくまり、心細くて膝を抱えて、しくしくと泣いた。


私は、国きっての侯爵家の令嬢なんだから、弱みを見せちゃいけない。

貴族らしく美しく微笑っていなきゃ。


だから、ずっとがんばっていたんだけれど。

お告げの儀の時に、魔女候補の女の子から言われた言葉が、まるで毒針のようにじわじわと、心を黒く染めていた。


-----------------------------------------------------------


魔女候補者は5人。

私のほかに貴族の子もいたし、貧しい町の子もいた。

5人に共通していたのは、魔力が多いことと、聖系統の魔力適正があること。

5人は7歳の洗礼の儀で候補者として選ばれて、次代聖女の育成という名目で、それから3年後のお告げの儀の日まで、月に数回、神殿に行き、魔力操作を練習する。


練習は主に、聖魔法を使うものだった。

私のほかの4人は、洗礼の日から3ヶ月も経たないうちに、

聖魔法の基本である「癒やしの術」を使えるようになっていた。

枯れた花を再び咲かせ、お互いの傷を治し合い、まるで奇跡のような力だった。


なのに、私にはそんな奇跡は起きない。

枯れた花は枯れたままだし、折れた花は、折れたままだ。


「侯爵令嬢だっていうくせに、何にもできないのね。どうして、あんな子が選ばれてるのかしら?」

「決まってるわ、家の力よ。」

大人がいない休憩時間には、くすくすと陰口を言っている。


悔しいし、悲しかったけれど、気丈にふるまった。


「焦る必要はありませんよ。マリアージュさまは、魔力量が飛び抜けて大きいので、身体を守るために、まだ魔法が発動しないのでしょう。」

緑味がかった黒髪に、コーヒー色の優しい瞳をした神官が、そう言ってくれたから。


けれど、結局3年経っても、私は癒やしの術を使えず、お告げの日を迎えた。


お告げの日の朝早く、私たちは女神像のある祈りの間にいた。


「もうすぐ朝日が昇るとき、女神様から光が降り注ぎます。お祈りを。」

神官長のセイナン様がそう告げると、5人は、跪いて祈りを捧げる。


すると、女神像の後ろのステンドグラスから朝日が差し込み、それに混じって、夜空に光る星みたいなきらきらとした光の粒が舞い降りてきた。

「うわぁ、きれ~~い。」

子どもたちが歓声を上げるなか、きらきらの光は私の胸のあたりに集まってきて。


ぱ、きーーーん!


頭の中で、ガラスが割れたように、

月の光の中に立つ一人のきれいな女の人の映像が浮かんだ。


そのとたん、私の中からぶわぁっと魔力があふれ出して光る。


「ちょ、ちょっと、何、その光? どうして、あなたが?」

私の光を掴もうとする女の子の手を防ごうと、慌てて私も手を出したら、

その手先から光と闇が渦巻き、彼女の腕ごと、その魔力を引き込もうとする。


「きゃああぁ!!! 助けてっ! なにこれ!?」

振り払おうと手をばたばたと動かす女の子。


「いけません、マリアージュ様!」

セイナン様の鋭い声がする。


はっと顔を上げると、光が霧散した。

「あ、あの、私・・・。」

出していた手を戻そうと動かすと、目の前の女の子がビクッとして、恐怖に怯えた顔で私を見た。

「な、何よ!? 今の? 化け物!! 触らないで!!」


ほかの子どもたちも、座り込み震えている。

神官長が副神官長たちに耳を寄せて何かを告げると、

彼らは、4人の子どもたちを抱きかかえるようにして、祈りの間を出て行った。


「大丈夫ですよ。マリアージュ様。」

神官長のセイナン様が、私の目の前にしゃがんで、そうっと手を持ち、立ち上がらせてくれる。

「・・・セイナンさま。一体、私に何が・・・。」

身体が震えて止まらない。

セイナン様は、コーヒー色の瞳で、少し哀しそうに、私を見た。


「マリアージュ様、落ち着いて聞いてください。

 今日、貴女が、『依代の魔女』に選ばれました。

 今日のことは、ほかの候補者の記憶には残りません。

 これから、一緒に勉強してまいりましょう。」


その後は、神殿、王家、家族も立ち会って、儀式の続きが行われた。

私は、自分の中で整理もできず気分はぐちゃぐちゃのまま、

言われたように祈りを捧げ、聖水を口にした。


儀式の間中、お父様は怖い顔をしていた。

先ほどの祈りの間での私のことを聞いて、怒っているのだわと思い、早くこの場から離れたかった。

そうして儀式後、国王を呼び止めて話し始めたお父様の隙を盗んで、この中庭にやってきたのだ。


--------------------------------------------------------------


ふと、気づくと誰かの気配がする。

「セイナンさま?」

震える声をかけると樹の後ろから

「僕だよ。」

と馴染みのある男の子が顔を出した。


「アルさま。」

夕日で赤みがかる、プラチナブロンドと緑の瞳、幼馴染みの男の子、王太子のアルヴィス。


アルヴィスは、私の横にさっと座ると、赤い夕日を見つめて、

眉の間にきれいな顔に似合わない皺を寄せる。

それから、「う~~~ん」といって、背伸びをした。

プラチナブロンドの髪がさらりと風に揺れる。


緊張していた心がふっとほどけるようだった。


「アルさま、私、これから、どうなるんでしょうか。こんな力・・。」

膝を抱えて、顔をうずめると、アルヴィスが明るく言う。

「う~~ん、そうだなぁ。ねえ、こっち見て。」


頭を膝に埋めたまま、左横を見ると、アルヴィスはにこっと笑って

「ほら。」

と、手の平から金色の小さな炎を立ち上げた。


「僕にも不思議な力があるよ。

 力があるってことは、悪いことばかりじゃないよ。

 守りたいものを守ることもできる。

 僕はこの力があって嬉しい。

 マリーが人と違う力を持っているなら、

 きっと、マリーにしかできないことがあるんだね。」


誇らしそうに笑う幼馴染みの笑顔が夕日を弾いてまぶしかった。

今回も読んでいただき、ありがとうございます!

次話まで、まとめて読むのが、オススメ!


【あとがき小話】

幼い頃のアルヴィスを出してあげれたのは、逢七自身も、とても嬉しいことでした。

マリアージュとアルヴィスの物語を読みたい方、もし良かったら評価ください。

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