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7話「人生を変える、機会なんて何度もない」

「レジーナさん、これからしばらくここに住みませんか」


 オイディールは真っ直ぐにこちらを見つめながら言ってきた。


「え……」

「貴女はあの家で必要とされていないのではないですか?」


 そう、そうよ……。

 私は要らない娘なの……。


 言いたいけれど言ってしまう勇気もなく、ただ小さく一度だけ頷いた。


 なぜだろう、涙が出そうになってしまう。


「貴女は理解されないかもしれない。でも、だからといって価値がないわけではありません。少なくとも僕は、貴女には価値があると思っています。貴女に替えはいません」


 オイディールが本気で言ってくれていることは分かる。

 けれどもそれに真っ直ぐに向き合うことができない。


「でも、私……」


 どうしても、あと一歩、踏み出すことを恐れてしまうのだ。


 だがそんな私に。


「ここへ来てください。嫌でないのなら」


 彼はそこまで言ってのけた。


「……いいのですか、私なんかがそんな、よくしていただいて」

「ええ、もちろんです」

「まだ……まだ、少し、理解が追いついていません」


 そう、私の心もまた揺れているのだ。


 この道へと一歩踏み出すべきか否か。


 答えなんて簡単だ。

 辛いところから逃れられる道を選べばいい。


 でも心というのはそこまで素直ではないのだ。


 だから今になって迷う。

 こんな時になってもなお迷い続ける。


 ――揺れるのだ、あんな嫌いな場所のために。


「と言っても、いきなりは無理ですかね。ごめんなさい、レジーナさん、びっくりさせてしまいましたよね」

「いえ……」

「これはあくまで提案、一つの道です」

「はい……」

「ですから当然無理にとは言いません。貴女が嫌な思いをするなら強要はしたくありませんからね」

「はい、ありがとうございます……」


 すっかり話が逸れてしまった。


 そうしているうちに夜が近づく。

 もう帰らなくてはならない時間になった。


「じゃあ今日はこれで――」


 別れしな、彼がそう言うと。


「あの!」


 思わず声が出た。


「私! 決めました!」


 この時が来るまで決心できなかった。


 でも今はもう。


 私が決めたこと、私の心が望むもの、全部分かっている。


「ここに置いてください!」

「え――」

「私は! ここで、ここで……生きていきたいです! あそこへ戻るのはもう嫌です!」


 たとえ愚かと言われるとしても、それでも構わない。


 これはチャンスなのだ。

 薄暗い人生を変えるための、滅多にない機会。


 逃せば次がいつかなんて分からない。


 チャンスはもう一生訪れないかもしれない。


「今さらですみません……でも、お願いします!」


 頭を下げた。


 すると彼は微笑んで。


「もちろん。そうしましょう。大歓迎ですよ、僕としては」


 ああ、これで解放される……。


 雨雲が晴れてゆくかのようだった。

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