4話「彼は揺れない」
私が仲良くしている青年オイディールを発見して迷いなく寄ってきたミーレナー、しかしオイディールは彼女に心を開かなかった。
「ええっ、どうして。こんな地味な女と喋るより、わたくしとお喋りする方が絶対楽しいですわ!」
「いやだって貴女、頭空っぽそうじゃないですか」
「は……?」
「僕は共通の趣味があるからレジーナさんと仲良くなったのです。貴女は無関係でしょう、出てこないでください」
それにしても――ミーレナーはどうしようもない女だ、婚約者もいる身でまだ他の男にまで手を出そうとするなんて。
「それに、貴女、婚約者いますよね?」
「えっ。どうしてそれを」
「聞いていますよ、噂で。ミーレナーさんは婚約者がいる身で好き放題していると」
「なっ……なんてことっ、そんな噂を信じるなんてっ……」
少し間を空けて彼女は「ひどいっ」と発し涙を流した。
だがこれは彼女の常套手段。
悪質な部分の一部である。
ミーレナーは泣いてみせるのが得意なのだ、しかも隙あらば繰り出してくるから厄介で。
だがオイディールは堂々としていた。
「あの、そういうの本当に要らないので」
それから彼はこちらへ目をやる。
「場所を変えましょうか」
「え……」
意外な提案が飛んできた。
「うちとか、どうです?」
「え、家……オイディールさんの家、ですか……?」
せっかくの楽しい時間をこれ以上ミーレナーに潰されたくない。
その思いは強い。
そして、オイディールもまた、同じことを感じ思っているようだ。
「そうです」
「それはハードルが高いです」
「嫌ですか?」
「いえ、嫌……ではないですけど」
「大丈夫、二人きりではないですよ」
「あっ、そうですか……! じゃあ、それでも……!」
そうして私は彼の家へ行くことにした。
去り際、ミーレナーから「ちょっと! 待ちなさいよお姉さま!」とか何とか言われたけれど、そういった声かけは無視しておくことにした。
だってそうだろう?
彼女の言葉に反応する意味なんてどこにもない。
――オイディールの家に着いて。
「ここが貴方の……!?」
「はい」
「え、豪邸じゃないですか」
「代々使っているだけなので、僕が頑張ったからではないですけどね」
「でも凄い! そう思います」
驚いた、彼の家はとても立派だったから。
しかも使用人までいる。
「書庫もあるので、後で行きましょう」
「もしかして本が!?」
「そうです」
「えええ! 凄い! そんなの、最高じゃないですか! ああ、絶対、未読のやつもありますよね……ドキドキしてきました」
オイディールも魅力的だが、彼の家はもっと魅力的――なのかもしれない、もしかしたら。
そんなことを思ったりした。
「取り敢えずお茶でも、どうです?」
「そんな、申し訳ないです」
「気を遣う必要はないですよ」
「え……でも……私にはお返しも何もできないですし……」
「いやいや! 求めませんって!」
「そう、ですか?」
「はい! これは僕がやりたくてやっていることですから! 貴女といると楽しいんです、とっても」