3話「光、注がれる」
その日から私の人生は大きく変わった。
――そう、オイディール、彼が現れたから。
オイディールは私の薄暗い人生に光を注いでくれた。
「そうそう! ここがいいんです! レジーナさん、詳しいですね!」
「そうでしょうか……でも多分、皆、そこを気に入るのでは?」
「まぁそうですよね、名作ならぬ名シーンですし。でも! やっぱり嬉しいですよ! 読み込んでいる方で同じ意見の方がいたら」
私たちは毎日のように顔を合わせて本について語り合った。
話題にあがるのは小説が多かったけれど。
でも、互いに知識を保有していて会話するという経験は初めてのことで、それは想像していたよりもずっと刺激的で楽しいことであった。
「ふふ、それは私もです」
本について語り合える彼という存在は特別で、私の中で日に日に大きくなっていく。
「レジーナさんはこれまでに本友は? 何人くらいいました?」
「ゼロです……」
そう、女性の中で本好きを探すのはかなり難しいのだ。
幼い頃に絵本くらいを読んでいた人ならいる。でも大きくなってから本を読んでいる人となると急に数が減ってしまう。その頃には既に、皆、他のことに興味を持つようになっているのだ。女性は大抵、異性や身を飾ることに興味を持っている。
そんな中で本好きを探すというのは、少々無理のある話だ。
「あ、そうなんですね」
「オイディールさんは?」
だからといって異性の中から本好きを探すというのも難しい。
家にいても本好きの男性になんか滅多に出会わないからだ。
「いや、僕も、ゼロに近いですよ」
「ゼロに近い、ってことは、ゼロではない感じですよね」
「まぁ、僕が馬鹿みたいに語るのを聞いてくれる人はいたので。それを含めているので、ゼロに近い、という表現ですね」
ああ、ずっとこうしていたい。
彼といるとそんな風に思えてくる。
だって、家に戻れば地獄が待っている。そこに光はなく、楽しいことだってほとんどない。嬉しいことなんて、楽しいことなんて、皆無に近い。そんなところに戻らなくてはならないなんて想像したくもないくらいだ。
もっとも、毎日その運命は避けられないのだけれど。
その時。
「あら、お姉さま! 何をなさっているの?」
誰かが声をかけてきた――それはまさかの妹ミーレナーだった。
「ミーレナー……」
「素敵な殿方ね?」
「……ええ、本好き仲間よ」
言えば、彼女は馬鹿にしたように笑う。
「あっは、お姉さまらしいですわね」
その挑発的な言葉にオイディールは一瞬眉を寄せた。
「初めまして! わたくし、レジーナの妹のミーレナーと申します!」
「……どうも」
早速オイディールに近づいてくるミーレナー。
嫌な予感しかしない……。
ミーレナーは自由人だ。そして私のものを欲しくなるといった傾向もある。それゆえ、私が仲良くしている人がいると知れば、彼女はきっと手を出してくるだろう。
厄介だなぁ……。
「貴方、お名前は?」
「オイディール」
「まぁ! オイディール様! とても凛々しい殿方ですわね、よければ今からわたくしとお茶でもしませんこと?」
予想通り、早速誘い始めるミーレナーだが。
「いえ、結構です」
オイディールはきっぱりと答えた。
「僕はレジーナさんと話をしているのです、貴女は関係ありません」




