契約の条件と内容
なんで射雲の店に飛ぶんだよ。「なんて契約したんだ?」
『入 龍,醫田 学,河野 水愛の3人の座標を醫田 学の家付近に移動させる契約』だ。「なるほど,それが原因かもしれない。」
あの家はお前の家ではないのか?「いや,だが所有権は水愛になっている。そして,“隠者の友”はもともと俺の家を射雲に売り払った物なんだ。」紛らわしいな。
「今回はなんで撤退したの?」
そういえば,学が唐突に撤退を命令したので,俺たちは逃げてきたのだ。
「俺の能力は他人の能力の“効果”を不可能にするものだ。ただ,あいつの瞬間移動は誰かにバフデバフをかけるもんじゃなかった。」
でも1回目は引っかかったんだろ?
「ああ。ということは,3つの可能性がある。1,精神操作で瞬間移動に見えるようにした。2,能力を二つ持っている。
3,体質として精神操作,あるいは瞬間移動の力が備わっている。
3は能力と体質の関係性が見えないから可能性が低い。しかも,精神操作もあくまで噂だからなんとも言えない。ただ,全滅の可能性があった。」
能力はあっても1人1つというのは常識だ。その常識が覆される可能性があるのだから,撤退しようとしたのも無理はないだろう。
「え?でも,能力は1人1つじゃないの?」
「そうだ。だから撤退した。今回の任務は失敗だ。」え,じゃあ俺落ちたのか?
「そういうことになるな。」俺,落ちたら射雲に泣くまで殴られる約束なんだけど。「殴られる前に泣けばいいだろう。」そういう問題なのだろうか。「まぁ,なるようになるよ。」
そんなに明るく言われてもな。
「下請け側にも問題があったとのことで,今度やる面接で合否を決めるそうだ。よかったな。」よかった,のか?「ああ,よかったんだ。」そうかよかったのか。
「龍,洗脳されてるぞ」いや,射雲さんはいい人だぞ。そんなことするわけ…
「まあいつもの悪ふざけは置いておいて,ここで一つ問題がある。」
なんだ?「なんだ?」「龍はわかっているだろ。ここに逃げてきた契約の条件で,龍は不運になった。」
「は?」見てれば分かる。
すると,学が手を滑らせて,生物学の本を落とす。ちょうど爪先に当たり,激痛のあまり後ろに転んだ。棚にぶつかり,商品が落ちてくる。
な?「ああ,わかりやすかったな。」
「さて,ここで問題だ。」「いや,言わなくてもわかると思う。どうすればいいと思う?」
射雲はわざと肩を竦めて《すく》言った。
「答えは一つでしょ」
声を少し低めて,ひょっこり現れたのは水愛だ。
なんだ?「私たちが援護するんだよ。」
水愛は何を勘違いしているのか,少し目を輝かせている。