雨の男と死神feet.醫田 学
スマートフォンに連絡が来ていた。雨が降っているのも相まって,嫌な予感しかしない。
「うわー,やっぱりかあ」
水愛が残念そうに口を尖らせる。それはそうだ。雨の日は,「狩 利糾の日」だ。
利糾はなぜか雨の日になると暴走する人物で,元KNIGHTの1人だ。昔,訳あって上の人間を殺した,らしい。詳しくは知ることが許されず,都市伝説のようになっている。だが,しっかりと実在する,厄介事だ。
厄介というのは,雨になると一般人を巻き込む可能性があるため,観察しなければならない。いや,監視しないといけないからだ。無作為に数人選ばれるのだが,その数人に,俺と水愛が選ばれた。最近,あまり仕事をしていなかったせいだろう。
「めんどくさいよー」
晴れた空のような色をした傘を差した水愛が文句を垂れる。傘は晴々としているのに、顔は冪冪としているのは,少し可笑しかった。少し先には,化石のようになった黒いポロシャツを着た男だ。履いているデニムはもはや,もとからダメージデニムだったのではないかと思わせるほど破れていた。
雨足が強くなってきた。少しずつ,嫌な予感が増していく。
「かごめかごめ」
前の利糾が歌い始める。籠め籠め?と,水愛が不思議そうに首を傾げた。
「籠の中の鳥は」
男の声は,低く不気味だった。背中に冷や汗が走り,気分が悪くなってくる。
「いついつ目回る」
これが俺を元にしたなら,既に目は回っていると訴えたい。眩暈がしてきた。前に一度この男には会ったことがあるが,なぜかその時より気分が酷い。雨の強さに比例するのだろうか。確か,俺の記憶では「いついつでやる」だった気がする。地域差があるのだろうか
「夜明けの晩に」
まだ晩というにはまだまだ速すぎる。ただ,この男が歌うと夜のような不気味さが漂う。媒体があったら今すぐに歌えないようにしていたところだ。この組織の人手不足もいい加減してほしい。
「鶴と亀が滑った」
何か,俺と水愛のことを指しているようで冷や汗が額にまで昇ってきた。よく考えると,鶴と亀が滑る,という歌詞は縁起が悪すぎやしないだろうか。
「うしろのしょうめんだ〜れだ」
声が,後ろから聞こえた。振り返ると,利糾がいつの間にか背後にいた。手には大きな鎌が握られている。
「水愛,後ろ!」
利糾が水愛に切り掛かる。間に入り込もうとするが,間に合いそうになかった。
リーゼントの,特徴的な髪型をした男が利糾の懐に入り込み,腕を止めたのはその時だった。