親友の死と靴feet.輪島 春
「ハッピークリスマース!」
「なんか祝い方違くないか?」
「いいんだよ,そんなこと気にしなくて。
それより機嫌,損ねちゃったじゃん」
とは言うが,実際のところ秋は機嫌は悪くはない,むしろ普段より良いように見えた。これも,クリスマスのハッピー効果だろうか。
カフェは,いつもの落ち着いた雰囲気はどこへやら,秋と同じように興奮したカップルばかりだった。
話題に詰まったので,用意していた紙袋から箱を取り出す。
「はい,プレゼント」
「こっちも,秋サンタからのご慈悲ですよー」
「秋なのか冬なのか」
お互いのプレゼントを交換しあう。袋を開けると,絶対にいらないと言われているスニーカーだった。あら,これはと秋の方を見てみる。互いに笑い,身を捩らせる
「センス,同じだったみたいだね」
「まあ,ともかくこれで名誉挽回,汚名返上だね」
名誉挽回,汚名返上が秋の口癖だった。
「名誉を捨てた覚えも汚名を着た覚えもないけどね」
「あたしを不機嫌にさせたじゃない。もしかして悪いと思ってないわけ」
わざと秋が声にドスを効かせて言う。
「まあ,商売繁盛?だか前途有望だかしたんだからいいでしょ」
そのスニーカーは,ヒールの部分が盛り上がっており,立ちにくかった。さらには,すでに意味のわからないように紐が結んであり,足を入れるのも苦労するような設計になっている。本当に,この靴の開発者は何が目的でこれを作ったのだろうか。
外に出ると,雪が降っていた。都会ではホワイトクリスマスと騒ぎ立てるが,ここの辺りではそこまで珍しいことではなかった。誰もが忙しなく,もしくは誰かとだらしなく歩いている。僕は後者になり,帰ることにした。
大きな十字路で,僕と秋は別れることになる。はずだった。まず最初に聞こえたのは,聞き慣れない悲鳴だった。嫌な映像が頭の中に浮かび,反射的に秋を振り返る。まさに,刺されそうになっていた。荷物を落としてしまう。
「通り魔」「秋が危険」「助けに行かないと」「でも僕も危ない」
塵と警報だけが頭の中を回り続け,吐き気がする。いつの間にか,秋の前に立っていた。
どうせなら,あの靴履いて死にたかったな,と,最後はくだらないことが頭に浮かんだ。次の瞬間,瞬きをすると荷物の場所にいた。想定外すぎる。
通り魔の刃物が衣服を破く音に混じり,皮膚が裂かれる音が聞こえた。鈍いような,鋭いような音が聞こえ,誰かが呻き声を漏らす。あたりに血が飛び散り,そこだけ白ではなく赤になる。秋が最後,こちらを向いて何かを言おうとした。頭の中に,「汚名,またあげる」と,秋の声が響く。