過去の事件と消失
『自分の“体質”が分からない』そう気がついたのは,自分の体質を質問されてからだ。
「え,分からないのかい?」はい
「それは困ったな。」
と椎羅は言うが,さほど困った様子ではなかった。
「じゃあ,すこしばかり辛いかもしれないが,発現した時の状況を教えてくるかい?」
それも,分からないです。
「おや,忘れるはずはないと思うんだけどな。」
というか,あれから前の記憶がないな…
「あれとは何かな?」
自殺しようとしたことがあったんです。その時より前が,全く記憶にないですね。
「ということは,自殺をした理由も?」
はい,なんだったか全く分からないです。
考え込もうした途端,体が支えを無くした。体を強く床にぶつける。椅子が抜けたのだ。
「大丈夫かい?古い物ではないはずなのだけれど。」
今は不運なんです。今日で終わる筈なんだが。
「今日だけじゃないのかい?」
俺は,椎羅にここまでの経緯を話した。
「なるほど。君の能力は,条件は指定できないのかい?」
はい。ん?いや,試したことはありませんね。なんだかそんな印象があったような。
「能力は発動した時の出来事が鍵。その記憶がないなら,君の能力は弱体化しているんじゃないか?」
確かに,そうかもしれませんね。あ,あの,これは面接では…?
「ああ,そうだったね。」
というと,椎羅はわざとらしく咳をした。
「まあ,能力的には申し分ないね。さて,次の質問だ。君にとって,正義とはなんだい?」
学校の課題にあったやつだ。必死にその場で考えようとする。だが,その前に言葉が口から突いて出た。
俺は人の正義を潰せるほどの覚悟こそが正義だと思います。
なんだそれ。と心の中で後悔が止まらない。
「ほう,なにか覚悟を決めたような台詞だね。やはり,過去に何かあったのは間違いない。」
そうですね。
その後,いくつかの質問を受け,ついに面接は終わった。
「とりあえず,能力としては申し分ないから,このまま順調にいけば合格だと思うよ。『順調にいけば』ね」
なんかそう言うこと言うと雲行き怪しくなるからやめません?と,言いたかったが,大人しく退室した。
数日後,KNIGHTから合格通知が来た。あの強調はなんだったんだよ。