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スカーレット・ライフリング  作者: 出汁 入子
2/6

2198年06月30日 ①

二人の仕事が始まって間もない頃の話

――前回よりも少し前、まだ始まって間もない頃――


1

――2198年06月30日 21:30 東京国際空港(通称羽田空港)南東 D滑走路端――

東京の夜空はよほど明るい星や月じゃない限り、何も見えない。ネオンをはじめ、人間の灯す明かりが星を見るには明るく、淀んでいるからだ。

そして私が見ているスコープ越しの夜空にも星はいない。高倍率に設定したスコープから見えるのはRunway 22の端から距離2000m、高さ195m(642フィート)の空間、ほぼ点のような範囲、おまけにスコープに入る光量も少ない。

それでも私は自分の瞳の中のコンタクトレンズに映るレーダー情報と続々と着陸する航空機の間隔のタイミングから引金を引く時が近いことが分かっていた。


「距離4000、高さ398、来ます!」

隣でペアの濱村野乃さんが遠くを見つめながら私に相手の位置が伝える。周囲の空は夜間なのに朱色に染まっている。彼女が対怪用の結界、庭を展開し相手の挙動を観察し、抑え込んでいるからだ。彼女は結界内のおおよその物体を自在に見えるので私より相手をもっと見極めているだろう。

私の瞳にはレーダーの他に管制室で計算された弾道予測のグラフ、弾道シミュレーションが投影されている。心の中で標的を引き付けるために数刻数えて私は引き金を引いた。


花火のような高音が炸裂し、.50 BMG弾(12.7㎜弾)が高速で射出された。

振動を減衰するためのサプレッサーがついているとはいえ一瞬強烈な反動が向かってくるため、私は反動を両腕で抑え込む。


マクミランTac-50の弾道初速は時速805kmに達する。ただ私が弾を放ったポイントはここから2000mも離れているため、空気抵抗で減衰する弾丸がそこまで到達するまでに約4.7秒の時間がある。弾を放った私に出来ることはこの瞬間はない。心の中でゆっくりと数を数えるだけだ。


1、2、3、4……

何も見えないスコープ上に白い機体と機上の黒い直方体が映った瞬間だった。

黒い直方体に衝撃が走り、形を保てずに粉々に弾け飛んだ。


「初弾命中、直方体型の(フレア)粉砕。粉砕後も自律運動なし、反応ありません。」

隣にいる濱村さんがトーンを変えずに結果を報告する。

一発で命中させた。もとより水際の迎撃なので一発で仕留めなければ次はほぼない。


指令室から通信が入った。

「怪の反応消失を確認、そのまま警戒を維持。」

「了解です。」

濱村さんが回答し、結界の庭を一旦解いて双眼鏡で周囲を確認し始める。

私は次の現れるかもしれない敵に向けて、黙々とまた照準を合わせるためスコープを再調整し始めた。

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