オリビア・フレイザー
今回はオリビア視点になります
私はいつだって彼の傍にいたかった。
私はいつだって彼の一番でいたかった。
なのに、なんでなの?
彼の傍にいるのはあの女で、
彼の一番もあの女。
憎いあの女が憎い
◇◇◇
私は“オリビア・フレイザー”としてとある侯爵家に産まれた。
両親は私を蝶よ花よと育てた。
もし私が少しでも怪我したら直ぐに医者を十人は呼び、徹底的な食事管理に、一週間に一回の健康診断に、異性との交友関係の制限、他にもいろいろある。
両親は私が傷付き、穢れるのをえらく恐れていた。
その理由は直ぐに分かった。
十三歳になったばかりの頃、珍しく両親が二人で出かけて行った。
私は普段から家での行動も制限されていたため入った事のない部屋が多くあった。
幼い私は興味が湧かない筈もなく、ずっとそれらの部屋に入る機会を伺っていた。
そして、ようやくその機会がきた。
邪魔な使用人たちの目をかいくぐって色々な部屋を見て回った。
その中でも一つだけ、なんとも言えない嫌な空気がする部屋を見つけた。
その部屋を少し探ってみると、見つけてしまった。
隠し部屋への入口を。
その扉を開けてみると、血なまぐさいような、獣臭いような嫌な臭いがしてきた。
足を一歩踏み入れる事に臭いは増し、嗅ぎ慣れない臭いのせいか、目や鼻が痛くなった。
でも、そんなのは直ぐに慣れてしまった。
臭いよりも強烈なものが目の前に広がっていたから。
溶けかけた大量の蝋燭に、何のものかは分からないけれど本の中でしかないような魔法陣。
その魔法陣の上や周りには赤い液体や塊が散らばっていた。
部屋の隅には黒魔術と書かれた本が詰まった本棚まである。
そのうちの一冊を取り出して見てみれば、黒魔術のやり方や必要な材料など事細かに書かれていた。
材料は主に生娘の血や、生娘の髪など、『生娘』と言う言葉が目立った。
いや、どの頁を見ても黒魔術に必要な血は全て生娘か生息子のものらしい。
私はこの時ばかりは自分の察しの良さを呪ってしまった。
一週間に一度、健康診断という名目で血を注射器二本分ほど抜かれる。
普段の料理にはレバー等内蔵類が多く並ぶ。
そして、私の周りには女性しかいない。執事もいなければ、いるはずの兄弟とも会えない。
私は悪魔崇拝者の両親による単なる生贄に過ぎなかったのだと、その時気付いてしまった。
恐らく、他の兄弟たちも私と同じく生贄にされていたんだろう。
侍女たちから兄弟たちの話を聞いたことがある。
他の兄弟たちも私と同じような生活を送っていると。
そして、一番上の兄は結婚適齢期にも関わらず恋人どころか婚約者すらいないとも聞いている。
嗚呼、可哀想に。
でも、きっと私はこんな生活は直ぐに終わると思うの。
だって今この部屋の扉が開く音が聞こえたんだもの。
両親が帰ってきたのかしらね。
もし、私がここにいると言うことを両親に知られてしまったら恐らく殺されてしまうだろう。
「誰だ! そこにいるのは!」
男の怒鳴り声がした。
でも、不思議と怖くなかった。
何故なのかしらね。初めて父ではない他の男の声を聞いたからなのかしら。
後ろを振り向くと鎧を着て、剣を構えている男性が五人、いや、もっといた。
「あなたたちは、だぁれ?」
「我々は王宮騎士団第一部隊の者だ。貴方はこの家の子女であるオリビア・フレイザーであっているか?」
「ええ、そうですわよ」
と答えると男性の一人に担ぎあげられ、この部屋を出た。
そして、家を出て馬車に入れられた。
馬車の中には母に似た私と同い年ぐらいの男の子、母に似た私よりも少し年上の男の人と、その男の人の膝の上に乗っている父に似た小さな男の子がいた。
馬車の扉が閉じてから次に開くまで、私たちは口を一度も開かなかった。
馬車が着いた先はうちの屋敷よりも大きい白亜のお城だった。
私とさっき一緒に馬車を乗っていた男の子達は侍女や執事達に手を引かれバラバラの部屋に連れて行かされた。
私が連れて行かされた部屋は広くも狭くもない部屋だった。
部屋にはソファーに机など、必要最低限のものしか置いていなかった。けれど、どれも職人技の光るものだった。
部屋を眺めて暇を潰していると、誰かが部屋に入って来た。
綺麗な金色の髪に、宝石の様な青い目をした男の子だった。
上着の袖や首元には王家の紋様が刺繍され、私でもこの男の子が王族の子だと分かった。
恐らく、王太子であらせられるチャーリー・ペンバートン王太子殿下。
私は急いで座っていたソファーから立ち上がり、挨拶をした。
彼はそんなに堅苦しくしなくて良いと、私を座らせ、彼も隣に座った。
彼は優しく声をかけてくれた。
怖かったね、大変だったね、もう大丈夫だよ
と。
私は今まで怖い思いも、大変な思いもした事が無かった。だから彼の言っていることが何ひとつとして理解出来なかった。
けれど、何故かすごい幸せな気持ちだった。
心臓がバクバクしてすごくうるさかった。それに顔もすごく熱かった。
その日彼と話す時間は長く無かった。
直ぐに母方の祖父母が私を引取りに来てしまった。
彼はまた会おうと言ってくれた。
私もそれに頷き、祖父母と馬車に一緒に乗っていた一番小さい男の子と共に帰った。
その後、祖父母宅へと移り住み、最初は勝手が分からなかったけれど、元々一ヶ月に一回は会っていたと言うこともあり直ぐに慣れてしまった。
祖父母は両親のように束縛はしなく、むしろ放任主義だった。
他の男の子も自由に過ごしていた。
私はずっと頭の中で彼の事を考えていた。
次はいつ会えるんだろうと。
もうこの時には彼に恋心を抱いているんだと気づいていた。
でも、きっともう会えないだろうし、この恋は叶わないとわかっている。
先日、祖母から私に話があった。
私は元々彼の婚約者候補だった事。
だけれど、婚約者候補上がるにつれて私の身辺調査を王宮がしたところ両親の悪魔崇拝が分かったこと。
両親は今、王都から少し離れた牢獄に入れられているという事。
それらの関係で私は婚約者候補から外された事。
彼の婚約者には同じ侯爵位で、同じ歳の“エミリー・フィンク”がなった事。
何故、私はこれほどまでに酷い人生を送らなければいけないのか。
私が一体何をしたのだろうか。
何故、彼を愛している私ではなくてあのエミリー・フィンクが彼の婚約者になるのか。
不思議で不思議でたまらなかったのと同時に怒りや嫉妬、憎しみなどのどす黒い感情が湧いてきた。
エミリー・フィンクとは昔家で開かれたお茶会で顔を見た事がある。
何を考えているのか分からないあの人形の様な顔。
血を焦がしたような赤茶色の長い髪に、感情も何もこもっていない冷たい目。
まだ子供なのにやけに大人ぶったあの態度。
全部全部大っ嫌いだ。
あの女なんて消えてしまえばいい。
全部邪魔するやつは消えてしまえばいい。
◇◇◇
嗚呼、お父様、お母様。血には抗えないのですね。
誰かを呪うだけでこんなにも幸せになれるだなんて。
隠して持ってきてて良かったです。あの黒魔術の本。
先日、エミリー・フィンクがようやく死んだらしいのです。
あの女に黒魔術を掛けて三年。
ようやく私の努力が実を結びました。
殿下、ようやく邪魔者が消えましたよ。
これで私たちは結ばれますね。
待っていて下さいね。
多分次からは黒魔術とかは出てこないと思います。てか、オリビア視点がまたあるかどうか。
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