02,
殿下達の会話を盗み聞きした後、私は一旦自宅へと戻った。
幽霊となったこの体はとても便利で、扉は開いていなくても簡単にすり抜けられし、もちろん壁だって簡単にすり抜けられた。
それに、いくら早く動いても一切疲れない。
なんて楽な体なのかしら。
いや、多分体だけの問題ではない。
今私はドレスを着ている。ドレスを着ているということはコルセットも当然している。
なのに、なのに、全く苦しくない。
前はあんなに苦しくて肋が折れそうだったのに。
まぁ、死んでしまっているから苦しくないのは当たり前なのかもしれないけれど。
その楽な体で自宅の屋敷へ行き、壁をすり抜け、自室に篭った。
何を考えるにしても自室が一番落ち着くし、頭がよく働く。
ベッドに横になり一息ついた後、殿下達の口から出た“オリビア嬢”の事を思い浮かべた。
“オリビア・フレイザー”
フレイザー侯爵家のご令嬢で、眉目秀麗。
家柄、容姿共に大変素晴らしく、毎日多くの殿方から求婚されている。
が、しかし未だに誰からの求婚も受け入れず婚約者はいない。
んー、これはかなり大変そうね。
誰からの求婚も受け入れないだなんて、あの殿下がオリビア嬢を落とせるのかしら。
これはやはりわたくしの手助けが必要になりそうね!
よし!そうとなったら、まずは物を持てるようにならなくてはね!
今物を持とうとしても手がすり抜けてしまって持つどころか触る事もできないもの。
幽霊達はポルターガイストとかを使っているようだけれどアレはどうやって使うのかしら。
よく雑誌かなんかに、《寝ている間にものが動いていた!?》や《目の前にあった人形が動き出した!?》などの記事が載っていたけれど、どれも目撃情報しか載せていなくて、ポルターガイストの使い方を書いたものは無かったのよね。
なんて使えない出版社なのかしら。
王国の批判しかしないで為になるような事は一切書かないで。
本当に害でしかないわね。
おっと、つい愚痴が出てしまいましたわ。
いけない。いけない。一度愚痴が出てしまうと止まらなくなってしまうのよね。
さて、気を取り直してポルターガイストの事について考えてみた。
今日中には何としてでも使えるようになりたい。
でなくては殿下とオリビア嬢の恋愛する期間が短くなってしまいますし、オリビア嬢ではないどこぞのご令嬢が殿下の婚約者に名乗りをあげてしまうやも知れませんし、また逆も然り。
急がなくては!!
気合いを入れ、思いついたものを一つずつ試していく。
まずは、全ての力を出し切って物を持ってみることにした。
うん、駄目だった。
部屋の中で比較的軽そうなアクセサリーがある化粧台に行き、その数あるアクセサリーの中で一番軽そうなものを選んだのだけれど、通り抜けてしまって駄目だった。
何度も繰り返しアクセサリーを変えたりして試したけれど、何回やっても無理なものは無理だった。さあ、次!
次に、手で無理なら足で持って見せようではないか!
着ているドレスから素足を出し、少し空中に浮いてから台の上に足をあげる。
少々、否、かなり行儀が悪いけれどいまは致し方あるまい。
今は一刻も早くポルターガイストを習得しなければならないのだから。
ハアァァァァァァ!持ち上がれ!シルバーリング!
うん、駄目だった。
何故こうも上手くいかないのかしら。
やっぱりお行事悪いのはダメだったのかしら。
仕方がないわ。次行きましょ、次。
それから、いくつもの方法を試して見た。
マナー講師だった夫人の真似をしながらや優雅にお辞儀をしてからとか。
けれど、どれも惨敗。
何故なの、わたくしには殿下とオリビア嬢の恋愛を応援することは許されないと言うの?
指輪よ早く浮きなさい!
これからわたくしにはやるべき事が沢山あるのよ。
今こんな初歩的なところで立ち止まる訳にはいかないの!
とっとと浮きなさい!!!!
そう、指輪に叫んだ時だった。
指輪の周りが青く光だしゆっくりと宙へ浮いた。
え、なんで浮いたの。
怖っ。
あ、もしかして、感情に任せて叫んだから浮いたのかしら?
強い思いを込めれば浮くの?
確かに今までは何も考えずに、ただ無心に持ち上げることに集中していたわね。
『指輪よ元に戻りなさい』
心の中でそう命じると指輪は青い光が消え、元あった場所に落ちた。
心の中で命じれば物を持ち上げることができるのね。
これで色々できるようになったわね!
あ、でもいくつまで持てるのかしら。
一つだけではまだまだね。少なくとも十は持てないと。
化粧台にある指輪やネックレス、ピアスなど机の上に出ているので三十程ある。
『机の上にあるもの全て浮きなさい!!!』
先程よりも感情を込めて命じると、浮いたのはたったの二十七個。浮かなかった物はどれも他のアクセサリーの下にあったもだった。
あら、案外いけるじゃないの。
さて、次は今浮かせたものを宙で自由自在に動かさせるようになりましょうか。
『指輪は右に、ネックレスは左に、ピアスは更に上へ動きなさい』
そう命じると更に青く光、動き出した。
命じたとおりに動いたのはおよそ七割ほど。
指輪の中にピアスが混じっていたり、ピアスの中に指輪が混じってしまっている。
ネックレスは全て右に移動し、ネックレスに混じっている他のアクセサリーはなかった。
んー、形が似ているものが混ざってしまっているような。
指輪に混ざっているピアスは少し大きめの宝石がついた物や、リングピアス。
ピアスに混ざった指輪は正式な場所で付けるようなゴツゴツ石がはめてあるような物ではなく、どれもファッションリングかそれに似たようなもの。
もっと識別能力を上げなければならないわね。
頑張らなくっちゃ。
誤字報告ありがとうございます┏○┓
すっごい助かりますm(__)m