22「ホビーショップ『ヴィンダーヴル』」
ホビーショップ『ヴィンダーヴル』の店内のカウンターにはオヤジさんが座っている。
たぶんこのドワーフがヴィンダーヴルさんなのかな。
「売り物の人形、すごい出来ですね」
「そうじゃろう」
店主は目を細め、嬉しそうに破顔する。
どうやら商品は殆どオヤジさんが創った物のようだ。
「ドワーフは手先が器用だって聞いてたけど、噂以上だと思う」
「お嬢さん、嬉しい事言ってくれるじゃないか」
ドワーフは鍛冶職人が多いと有名だ。
しかし剣を造るだけじゃなく、調理用品や宝飾品を作る者も多い。
腕の良いドワーフの職人は、己の作品にプライドを誇る。
「私、思ったんだけど、頼んだら何か作ってもらえる?」
「儂にオーダーメイドを頼みたいのか?」
「出来れば是非。
無理なら諦めるけど」
「どれ、何を作って欲しいんじゃ?」
「この子用に鎧兜創れるかなと」
私はカウンターにアルレースを出して立たせた。
ひょっとして、この店からも追い出されるかもと内心ビクビクだった。
しかしドワーフ店主はアルレースを見ても一向に動揺する様子が無い。
「このフェアリーに鎧兜を創るのか。
ふむ、面白い、生きた素材の装備品か。
ううううぅぅぅぅ、クラフトマンシップが刺激されるぅぅぅ!!!
よし、良いぞ、創ってやる」
ヴィンダーヴルさんのクラフトマンシップに火が付き、燃え上がる。
「出来ればお安く頼みます。
それにしてもヴィンダーヴルさんは、フェアリーに怯えないんですね」
「なぜ怯えにゃならん」
ヴィンダーヴルさんは言う。
「今見たところ、そのフェアリーは攫われた妖精じゃない事は判る。
何よりの証拠として、あんたに怯えていないじゃないか。
儂もクーフーリンは攫われた妖精を助け出すと聞いている。
けどな、別に儂が攫った訳じゃないから、奴が来たらお門違いってもんじゃろう」
ドワーフって体形がズッシリしているけど、肝もズッシリ据わってるみたい。
「ミニチュアの鎧兜か、作ってみるのも一興じゃ。
七日間ほど時間をくれ。
本物の妖精鎧を創るのは無理だが、薄いアルミ板でそれなりの物なら工作出来る。
それで良いなら作ってやる」
制作時間中は街道を七日間歩いて移転で戻って来れば良いか。
私達は了解して注文をした。
ヴィンダーヴルさんは傍らの材料置き場から金属板を何枚か取り出した。
アルマイト処理された色の付いた金属光沢が綺麗だ。
「赤い金属があるのですね。
私は赤いのが綺麗だと思います」
「うん、お前さんはこの色が気に入ったのか。
じゃぁ、寸法を測らせてくれんかのぅ?」
アルレースはノギスとメジャーで採寸された。
後ろから資料本を取り出しデザインの検討を始める。
次に紙にデザインを描き起こし、私とアルレースの意見を取り入れていく。
「儂にゃぁ本物の妖精鎧を創るのは無理じゃ。
だけど、この防具で小動物くらいなら相手できるじゃろ」
ヴィンダーヴルさんは木型を削り出し、丸みを確認しながら調整していく。
その後、木型の上にアルミ板を置き、その上に傷付かない様に布を敷く。
それをハンマーでコンコンと叩き成型を始めた。
やる事は鎧鍛冶師と同じような技法だ。
「うわ、本格的ですね」
「ドワーフの儂が作るんだ。
本物のミニチュアでなければ、仲間から笑い者にされちまうわな」
「完全オーダーメイドになるのですね」
「ここまで喜んでくれたんだ、剣もオマケしてやるぞ」
アルレースは感無量となり、感激した。
いくら貴族でも、完全オーダーメイド防具は高価で手が出せなかった覚えがある。
ドワーフの鍛冶師でなくても、人間の鍛冶師の造った防具は値段が高いのだ。
だから兄弟のお古の使い回しという事も多かった。
そんな鎧兜を修理に次ぐ修理を重ねてきた。
見てくれ重視で綺麗でも、内情はガタガタといって良い。
「ああ、人間サイズでも欲しいと思いました」
「そん時は、またニダヴェリールを訪れてくれや」
ヴィンダーヴルさんは渋過ぎる男の笑顔で答えてくれる。
良いねぇ、その笑顔、酔っぱらいの神のための戦士達より百倍良い笑顔だ。
私達はホビーショップ『ヴィンダーヴル』に鎧兜の注文を終えた。
後は適度に街中を観光し、街道をスヴァルトアルフヘイムに向け出発した。
七日経った頃、移転でホビーショップ『ヴィンダーヴル』に戻って来た。
ヴィンダーヴルさんから綺麗な箱に収められた鎧兜を渡される。
値段は店内の人形とそれほど変わらない。
「こんなにお安くて良かったの?」
「装備だけだから、そんなもんじゃろ」
私達はますます感激した。
「着心地もすごく良いです。
体にピタリとフィットして、緩さも痛くも無いです。
動きも阻害されないし、重くもありません」
鎧兜にはパテ盛りで立体的なモールドが作られ、銀色に塗られている。
そこらの貴族の鎧より素晴らしい出来だった。
しかし、何処かアニメのデザイン臭が漂ってるんだよね。
どことなく聖戦士ナントカみたいな。
オマケの剣も切れ味はすごかった。
たぶん、この剣は鉄材の砥ぎ出しかもしれない。
とはいえ15㎝のフェアリーの剣戟じゃ何と戦えるんだろ。
アルレースとしては女性騎士だった頃を思い出させてくれる逸品だ。
常に装備している訳にもいかないから、箱に仕舞って亜空間収納に収める。




