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162「マイトリーの棲家」

【BGMにどうぞ】

https://www.youtube.com/watch?v=907B_thMhnQ&ab_channel=GARBAGE

怒りの獣神 (獣神ライガー MIQカバーver.)『あつまれ!ガーベージ音楽部』(幻の迷盤・トンデモ音源・珍カバー・パチソン) 獣神サンダーライガー・新日本プロレス・プロレステーマ曲


【参考動画】

https://www.youtube.com/watch?v=xAMKCWLKF_0&ab_channel=%E7%8B%82%E6%AD%A6%E8%94%B5%E3%81%9F%E3%81%8F%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%81%AD%E3%82%8B

インド謎の戦闘武術「カラリパヤット」の速すぎる武器術に坂口驚愕!

https://www.youtube.com/watch?v=c7QNyzbXx7g&ab_channel=%E3%82%86%E3%81%A3%E3%81%8F%E3%82%8A%E6%AD%A6%E5%99%A8%E5%9B%B3%E9%91%91

古代インドの武器「ウルミ」 Shorts

ヴィマーナは密林の上空を移動している。

雲で出来たヴィマーナは外も中も白一色。

搭乗している私達は何故か全員立っている。



「何でヴィマーナってのに、操縦席とか座席が無いのさ」


「そういう仕様なんだから仕方無いでしょ」


「仕方無いで諦めてないで、改良とか工夫はしないのかい?

 思考停止してたら技術発展しないじゃないか」



メカについては一家言(いっかげん)あるイシュタル(イナンナ)様は煩い。

絡まれるマイトリーは辟易しイライラが募っている。



「そんなの別にいいじゃん、長距離を移動しようってんじゃ無いんだからさ」


「そうかい、ヴィマーナってのは電動キックボードかセグウェイレベルの乗り物だなんてガッカリだよ」


イシュタル(イナンナ)様、あんたねぇ煩いよ、わっちのヴィマーナが気に入らないなら下りてくれて良いんだよ」


「それが招待客に言う言葉かい、まったく夜叉ってのは」


「客側にもマナーって物が必要だと思うんですけど」



私達はマイトリーの棲家に招待され向かっている最中だ。

密林の中では、如何にグガランナといえども移動は難しいだろう。


やがて密林の中で木々に侵食された寺院が見えて来る。

あそこが彼女の寺院かなと思ったけど違ったようだ。

そりゃそうか、羅刹や夜叉を祀る寺院なんて無いのは道理。

建物は寺院でも、それは廃墟という元寺院だった建築物。


マイトリーが廃墟に住んでいるのは夜叉らしいと言えばそうなのだろうけど。

戦いに敗けた神族に神殿や寺院が与えられないのは、世界中どこにでもある話だ。


室内に入り込んでいる植物は、観葉植物とでも思えば悪くない。

彼女の従者達が毎日手入れをしているようで、あちこち拭き清められ汚れは無い。

部屋の隅には剣や盾、ククリナイフやウルミが置かれている。

グルカ傭兵団と関係があるのかな。



「わっちはカラリパヤットゥもやってんだよ」


「そうなんですか」



マイトリーは夜叉だから十分に戦えるようだ。

壁には何本も松明(たいまつ)が灯され、香木が焚かれているから歓迎されているのが理解った。

廃寺院とはいっても、床にはペルシャ絨毯が敷かれ、磨き抜かれた青銅の食器に沢山の料理が用意されている。

私達は廃寺院の一室で細やかながら、歓迎の宴を用意され(もてな)された。


彼女も外の世界を知りたくて仕方が無い様子。



マイトリーの事をもう少し解り易く聞いてみた。

夜叉ダーキン一族の姫マイトリーは荼枳尼となる。

アスラ神族の中に夜叉ダーキン一族は含まれていた。

アスラ神族と二度戦ったのがディーヴァ神族で、ディーヴァ神族が雌雄を決した。


最初にディーヴァ神族を勝利に導いたのが女神ドゥルガー(チャンディー)

二度目にディーヴァ神族を勝利に導いたのが、女神パールバティの戦闘形態カーリー。


破壊神シヴァの神妃は山王ヒマーラヤの娘パールバティ。

対して女神ドゥルガー(チャンディー)は、当時劣勢だったディーヴァの神々の願いと祈りで生まれた。

神々はその戦女神に十種(とくさ)の武器、神宝(かんだから)を与えた事から十の腕を持つ。


女神チャンディー(ドゥルガー)女神カーリー(パールバティ)は、どちらも戦女神として知られている。

どちらも人気の女神なので混同されがちだが、別()なのが正解のようだ。


荼枳尼マイトリーは女神カーリーの眷属となり、付き従って尸林を彷徨い、敵を殺し、その血肉を食らう。

尸林(シュマシャーナ)』とは葬儀場・処刑場を言う。

インドでは死者を火葬して荼毘に付すか、鳥葬として鳥獣の貪り食うに任せる。

彼女達は時々尸林で摘み食いをしていた様で、それを見た人々から恐れられた。


マイトリーの眷属であるジャッカルの聖獣は野干(やかん)と記される事がある。

日本や中国ではジャッカルを知らなかったので、キツネと見做され稲荷と習合した。

稲荷神である荼枳尼が血生臭いのはこういう経緯があるからに他ならない。

もしくはジャッカル繋がりでアヌビス神とも繋がりがあるのかも。



「そうなんだ、ここらの魔神や魔物ってそういう経緯があったんですね」


「そうなんだよ、わっち等のこと解ってくれるのは嬉しいよ。

 ここだけの話なんだけどね、不動明王って破壊神シヴァが元になった魔神なんだよ」


「他の明王って? 沢山いるみたいだけど」


「ざっと上げても五大明王として不動明王・降三世明王・軍荼利明王・大威徳明王・金剛夜叉明王がいるね。

 他には大元帥明王・愛染明王・孔雀明王・烏枢沙摩明王・馬頭明王(別尊:馬頭観音)・六字明王・大可畏明王とか。

 出自がよく解らないのが多いけどね」



確かにクンダリーニを指す軍荼利明王や、孔雀の如く毒蛇を食う孔雀明王は別なものの混同を匂わせる。


ガイドによれば明王は一般的に『天』と名の付く天部で、毘沙門天・帝釈天・弁才天・荼枳尼天等の神々と同様とされた。

古代インド神話に登場する神々、特に夜叉や阿修羅と呼ばれた悪鬼神が仏教に包括されて善の神となった者が多い。

仏教に包括された後も『天』は仏の世界を支える須弥山の守護を主役割とし、明王は民衆の教令を主とする等その役割に違いが現れている。



「わっちの方はこれくらいで良いだろ?

 あんたらの神界ってどんな世界なんだ? どんな魔物がいるんだい?」



マイトリーは目を輝かせ聞いて来る。

私達の神界は熱帯のインドと違い寒冷地帯にある。

イメージとしてはヒマラヤに近い地方を考えてもらえれば遠くないかもしれない。



「そうですねぇ世界樹ユグドラシルを中心に九つの世界から成っていますね。

 アース神族の世界アースガルズ。

 ヴァン神族の世界ヴァナヘイム。

 人間の地ミズガルズ。

 巨人スルトが国境を守っている炎の巨人の世界ムスペルヘイム。

 氷に覆われた巨人の世界ニヴルヘイム。

 エルフや妖精たちの住む世界アールヴヘイム。

 卓越した鉱夫や腕の立つ鍛冶屋であった、ドワーフの世界ニザヴェッリル。

 霜の巨人ヨトゥンが住む巨人の世界ヨトゥンヘイム。

 死者の世界で、女神ヘルが治めているニヴルヘイムのように」


「ほうほう、それで? それで?」


「魔狼のフェンリルや世界を一周しても尚体が残るほど巨大な蛇ヨルムンガンド(世界蛇)の話もありますよ」


「そんなにデカイ蛇がおるんか」


「ルトラーデお姉さん、実はヨルムンガンド(世界蛇)は魔物でも怪物でもないんだ」

「そうなの?」



デンくんの話では、かつて惑星を創っていた時、軌道上に星間物質を集め、惑星リングを形成していたと言う。

日本神話で語られる天の虹橋も同じものだそうだ。

ある程度開発が進んだ段階で、軌道上の資材置き場(惑星リング)から星間物質は地上に落とされた。

地上をどこまでも延々と続く影と、上空の影は超巨大な蛇と思われても仕方無かったかも。



「ほえー、そうなんかぁ、それにしても聡いお子だね君は」


「デンくんは時々私より物知りなんですよね」


「そっかぁ、で、イシュタル(イナンナ)様の世界って?」


「あたしの世界はメソポタミアになるねぇ。

 テラフォーミングの神々十六氏族の内、五種族が集まって開拓していた所だよ。

 近場を言うならエジプト(アフリカ)・ギリシャもそうだねぇ。

 証拠に伝わる太陽紋は菊花十六紋とそっくり同じで、世界中に派遣された十六氏族の意匠なのさ」


「テラフォーミングって」


「あんたらの所には無いのかい? 神々の創造神話ってやつが」


「わっちは聞いた事が無い」


「そうなのかい、ならあんたは何世代目の魔族、いや神族なんだろうねぇ」


「昔の話なんて年寄りのお説教臭くて苦手なんだよ」


「あー、その気持あたしにも理解るわぁ」


「でしょ? でしょ? あんた何処と無く気に食わないって思ってたけど、わっちと同じだったんだねぇ」


「多分同じじゃないです。

 ひょっとしたらマイトリーの方が品行方正かも」


「ちょっと、ルトラーデ、あんたねぇ」


「だって、よくアヌ様からお仕置きをもらってるじゃないですか」


「お黙り!」


「あんた等、この後何処に行くんだ?」


「そうですねぇ、最終的に豊葦原瑞穂の国へと考えてますが」


「ふぅん、ベンガルからそっち方面だとカンボジアを通るのかな」


「そういうルートも良いかもですね。

 何かお勧めでもあるんですけ?」


「仏教の南伝ルートだから歴史的な寺院があるよ」



三蔵法師による北伝ルートに対し、仏教上座部の色が濃い教えが南方ルートで広まって行ったそうだ。

チベットには密教の総本山ポタラ宮があるし、カンボジアにはアンコールワットがある。

ルトラーデが北伝ルートを選ばなかったのは、ヒルトのレポートで遺跡しかないのを知っているからだ。



「上座部って何です?」


「それは開祖ゴータマシッダルタ没後500年後に教団が二つに割れたんだよ」



マイトリーの説明によれば、仏教教団は釈尊没後500年程は結集(けつじゅう)という形で教えの確認を行ったそうだ。


釈迦の死後、その教えは記憶や暗唱として、口伝形式で受け継がれた。

やがて教えの散逸を防ぎ、異説の生じる事故を防ぎ教団の統一を図る目的として教典の編纂が成された。

『結集』のサンスクリット語の本来の意味は『共に唱える』というもので、お経を唱えるというルーツはここにある。

比丘達が集まり釈迦の教えを誦出(じゅしゅつ)し、互いの記憶を確認しながら、合議の上で仏典を編集した事業を結集と呼んでいる。


後に教団は釈尊直伝の教えを継ぐ上座部と大衆部に分裂してしまう。

長老とも言える大衆部は直伝の教義を保持していたが、分かれた大衆部は新たに自らの経典を作るしか無かった。

真理に目覚めた人(仏陀)ではない人物が創った経典は、哲学的しにて概念的で曖昧な物しか創れなかったろう。


このために新たな経典の数が膨大に膨れ上がり、大乗仏教と名乗る。

対して上座部の飛鷲するゴータマシッダルタ直伝の教えを小乗仏教と謗った。

三蔵法師が唐に持ち帰った様々な経典は整理はされていない。

鳩摩羅什(くまらじゅう)(クマーラジーヴァ)が後秦の時代に長安で仏典を漢訳した。


日本に伝わった仏教経典はこの様な経緯がある。

ただ経典のみが伝わった状態だから、国や民族、教団の事情等のファクターが抜け落ちた。

結果として歴史的垢を削ぎ落とさなければ本当のことを知るのは難しいだろう。

仏教を知るにはゴータマシッダルタが何を伝えて来たかを先ず学ぶ必要がある。

和訳のスッタニパータや雑阿含経で、今では誰でも知ることは可能になっている。



「た、大変で御座います」



私達が難しい話をしていると寺院内が騒がしくなって来た。

密林の中でマイトリーの眷属が三頭の虎に襲われているらしい。

報告を聞いたマイトリーは顔色を変え立ち上がる。



「何だって! 急いで助けないと」


「眷属のジャッカルが虎に襲われてるのかい。

 あたしも助けてやろうかね、アシンヌ、アルベル助けて差し上げるんだよぅ」

「「 アラホラサッサー バトルモードに変身!!」」


うおおおおおおお――――――――――――――――

  うおおおおおおお――――――――――――――――


二柱(ふたり)はライオンの聖獣だから野生の虎より強い。

二匹の聖獣が神を守る構図は、神社の狛犬によく似ている気がしないでもないが。

アシンヌとアルベルの体は制約を解かれ巨大化を始め、筋肉が盛り上がり獣人のような姿に変わって行く。

今迄の間抜けな従者の姿から、勇壮な立髪、鋭い牙と爪を持つ真紅の戦士となる。

私とデンくん、マイトリーは驚愕と感謝の感情で、混乱しながらも目を見開いた。



「おおおおぉぉぉぉ―――――――――。何と! 何と!

 そ、そうだ、お前達、この方達が助っ人に駆けつける、急いで案内せよ」


「はっ!」



マイトリーの眷属、アシンヌとアルベルは部屋から凄い勢いで駆け出していった。

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