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110「黄金騎士団」

「アウレーテ、私を待っている騎士は何処にいるの?」


「もう少し先だよ」



私を案内するワルキューレの名はアウレーテ。

輜重輸卒部の同僚だ。

今いる所は霊界、人が死して行く所で、一旦とどまる冥界の先に当たる。


それにしても、もうそんなに時期が過ぎちゃってたんだ。

ずっと待ってたアルレースには悪い事しちゃったね。



「あんたを待ってる騎士だけどね、そりゃもう頑固で、

 「ヒルト様が来るまで待ち続けます」って、私達じゃ受け付けないんだよ」


「ワルキューレなら誰でも良いという訳じゃないんだ」


「何て言うかね、中世騎士の忠義心はかくも揺るぎ無いと言うか」



あー、何となく解る。

関帝がそんな感じだったっけ。

一度主君と決めたら、死んでも忠義心を忘れない堅物。

きっと騎士と言うのも同じなんだろうなぁ。

それにしても、何で私なんだろう。



「あ、見えた、あそこにいる騎士団にいるよ」


「はぁ? 騎士団? つか大軍団がいるんですけどぉ」







「皆さん、ワルキューレヒルトがお迎えに来ましたよ」



おおおぉ――――――――――――――

      おおおぉ――――――――――――――

 おおおぉ――――――――――――――


「ヒルト様!」「ヒルト様!」「ヒルト様!」「ヒルト様!」「ヒルト様!」

  「ヒルト様!」「ヒルト様!」「ヒルト様!」「ヒルト様!」「ヒルト様!」

 「ヒルト様!」「ヒルト様!」「ヒルト様!」「ヒルト様!」「ヒルト様!」



私達の言葉で一斉に歓喜する軍団員。

大軍団の中から、将軍と思しき者と、副官と思しき者が近づいて来る。

私とアウレーテの前で騎士の拝礼の姿勢を執った。

二人の挙動で後ろに控える大軍団も、一斉に拝礼の態勢になった。



「ああ、女神ヒルト様、お待ち申しておりました。

 この様に迎えて頂けるのは感無量であります」


「え?」


「お忘れですか? 私です、アルレースです」



いやいやいや、アルレースを忘れるなんて事は無いよ。

無いけど、私の知ってるアルレースは華奢で、如何にも姫騎士って感じだった。

しかし目の前にいるアルレースは、秦国の唇将軍みたいなんだもん。



「女神ヒルト様、お初にお目に掛かります。

 私は副官のアリエットと申します」



何でも副官アリエットは、アレクロウド王国第三王女だった人だと言う。


何で? 何で王女様が家臣のアルレースの副官になってるの?

立場逆じゃん。



「アルレースは帰還後、主君と認めたヒルト様を鬼神からも守り通せる騎士になりたいと頑張ったのです。

 それはもう、涙ぐましいを通り越し、命など要らぬと言わんばかりの訓練に明け暮れたのです」


「鬼神って?」


「はい、何でも十の腕を持ち、神すら凌駕し打ちのめす鬼神と聞き及んでおります」



十の腕を持ち、神すら凌駕し打ちのめすって、そりゃチャンディー(ドゥルガー)様やがな。

無理 無理 無理 無理、あの方を相手に戦える者なんていないから。

でもアルレースはチャンディー(ドゥルガー)様からも私を護りたいって思っちゃったんだ。

ある意味、騎士の(かがみ)だねぇ。



「私はそんなに頑張るアルレースに軍を創って差し上げたいと考えたのです。

 戦いには一人の力より、多くの力を結集して臨むもの」


「それでこんな大軍団に?」


「私も含め、皆、エインヘリヤル(女神ヒルト様の戦士)になりたいのです。

 アルレース大将軍を含め、私や黄金騎士団一同をヒルト様のエインヘリヤルにして下さい」



黄金騎士団は当初、アレクロウド王国でアリエット第三王女立ち上げ、王国内の女性騎士から選ばれていたらしい。

アルレース率いる軍団はその鎧兜から『黄金騎士団』と異名が(ささや)かれたと言う。

後にアレクロウド王国の正式騎士団名となったらしいけど。

勇猛で名を馳せた『黄金騎士団』は、近隣の王国の女性達や、平民の女性達まで憧れの存在となったそうだ。

集い来る女性達は『黄金騎士団』に入団し、今では総数2367人の女性騎士軍団になっている。



「総数2367人……」



これは困った。


アルレースだけなら寮を出て部屋を借り、ルームシェアしながらなら、何とかやっていけるだろうと思ってた。

いくら何でも、こんな大軍団を受け入れられないよ。



「それにしても、何でみんな私のエインヘリヤルになりたいの?」


「王国の騎士より、女神様の騎士の方が良いに決まっております」


「いやいやいや、いくら女神って言っても、私、こんなだよ?

 アース神界の平民、下級神なの、なのに何で?」


「問題御座いません、ヒルト様は女神様に違いないのです。

 女神ヒルト様には、アルレース大将軍を始め、2367人の女性騎士軍団が付いております。

 主君の出世は家臣団の誇り、我等の働きは必ずや主君であられる女神ヒルト様のお力になりましょう。

 是非とも我等黄金騎士団に主君と仰がせて下さい」


「何で私が主君なんて大役に」


「アルレース大将軍が女神ヒルト様を主君と認め仰ぐのです。

 なればこそ、臣下の我等も女神ヒルト様を主君と仰ぐのです」


「えっと、ね、取り敢えず皆をアース神界に招きます。

 その後どうするか上司と相談してから、皆の振り方を考えようと思うの」


「御意!」






「ヒルト、何か知らないけど凄い事になってるね」


「どうしたら良いんだろ、アウレーテ」



中世世界の忠義心を甘く見てたよ。









「何ですって!!!

 迎えに行ったら大軍団が付いて来たですって?」


「何でも私に仕えたいって言うんです、ルデグスタ課長」


「2367人なんて大人数をいきなり連れて来られても、戦士の館に収まり切れませんよ。

 オーディン様に上奏して判断を仰がなければなりませんね」



どうやら『課』や『部』では裁量の範疇を超えるらしい。


部屋を出ると何仙姑(かせんこ)とジブリールが待ち構えていた。


本来なら私が二柱(ふたり)に観光案内しなければならなかった。

でも、急務が出来ちゃったんだよね。

そんな私を見るのが面白いのか、二柱(ふたり)は帰ろうとしない。

いや、本体の豊宇気姫(とようけひめ)様は帰って、分御霊のジブリールがいるんだけど。


それで良いのかといえば、本来宜しくないだろう。

でも二柱(ふたり)はオーディン様の貴賓客として私に付き纏っている。

異国の重鎮達だから、誰もが苦情を言い難い。



「ヒルトさん、何でも大軍団を連れて来たんですって?」

「すごいですの」


「もう耳に入ったんだ」


「噂程度には」

「どんな軍団なんですの?」


「私が旅に出てすぐの頃、召喚魔法に引っ掛かってね、そこの国アレクロウド王国の軍なの」



私はアルレースとの事などを説明した。


黄金騎士団は街中で大人数を受け入れるだけの施設が無い。

だから今、黄金騎士団にはグラズヘイムの外に在る練兵場で野営してもらっている。



「女性だけの騎士団なんですか」

「私もみたい」


「じゃぁ、行ってみようか」

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