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8.ランダムイベント(攻略対象者側の視点)



…左腕を斬り落とされる夢を見た。


なんっつ-不吉な夢だ…仮にも二段の剣士が、為す術も無く腕を斬り落とされる夢を見ちまうとは…


慌てて飛び起きようとしたのだが、何故だか身体が持ち上がらなかった。仕方無しに目だけを開けると、茜色に染まってはいても十何年と見上げきた、見間違う筈の無いいつもの天井がそこにあった。


少し気怠げな、それでいて奇妙にふわふわしたと感じ…どうやら完全に寝落ちしていたらしい。


…やっべぇ…


晶と試験勉強する予定だったのに、思いっきり寝てた。


勉強中いつでも摘まめる様に、ばーちゃん秘蔵の色々なお菓子(ブル○ン系多め。爺婆って妙にブ○ボン好きだよなぁ…)を皿に載せ、後は晶が来たらジュースでも出そうかと思っていたのに。


今日の為に、態々部屋をしっかりと掃除したのに…


今の今まで、あいつとの約束を一度も破った事が無かったのが密かな自慢だったのに…ああ、やっちまったなぁ…


等と罪悪感に苛まれながらも、目覚めてからずっと左半身に感じる微かな重みと、違和感に目を向ける。



…うん? どうやらまだ夢の世界らしい。



俺の左腕を枕にし、晶が気持ちよさそうにすやすやと寝息を立てていた。


そして、二人の上には毛布が…晶が気を利かせてくれた様だ。まぁ、ちゃぶ台のせいでちゃんと毛布が掛かっているのは、ほぼ上半身だけだが。


晶が起きてしまわない様に、ほんの少しだけ動かしてみる…左腕の感覚が、ほぼ無い。全体の微かな痺れと、指先が冷たくなっているのだけは解る。原因は、当然この腕枕か…


人間の重量において、頭部の占める割合は結構馬鹿にできない。そりゃそうだ。だからこそ自らを知的生命体と名乗り、こうやって地上に繁栄しているんだから。うん、痺れて当たり前だ。


で、こんな状況が続いたんなら左腕を無くす夢を見るよなぁ…納得した。



…さて。それよか、これからどうするね?


不可抗力とはいえガッツリ昼寝をしちまった所で、ふと目覚めてみたら愛しき”彼女”の寝顔が間近にあるとか。あまりにあまりなサプライズに、さっきから心臓がバクバク言って固まっている。ヘタれ過ぎンだろ、俺。


小さい頃…ってーか、幼稚園辺りの頃は当たり前の様に一緒の布団で寝ていたらしいのだが、流石に色を覚えたお年頃。この状況は色々と不味い。


なんてーか、法律関係とか、世間体とか、晶の気持ちとか…なぁ?


法律上、俺が18になるまで結婚できないし、さらに出来ちゃった婚とかなんて、目も当てられない。最近では『授かり婚』って言うんだっけか。ヤる事やって、ヤるべき事を疎かにしたからそうなっただけなのに、まるで他人事過ぎンだろ。


…おいこらマスゴミ。言い方変えれば、恥ずかしい事実が誤魔化せる訳じゃねーぞ。



…うぬぅ。八つ当たりっぽくなっちまった。



長年、拗らせすぎた片思いだと、ずっと一人で思い込んでいたんだが、まさか両思いだったとは思ってもみなかった。


そのせいか、今までの反動による色々な欲望を抑え込むのに、かなり苦労をしていたりする。


アイツの何気無い笑顔とか、はにかんだ表情とか、緩やかにウェーブの入った癖っ毛とか、そこから匂うシャンプーの香りとか…もう獣の様に一気にがばーっとイってしまいたくなる瞬間ってのが、稀によくある。


所詮、高校男子の理性なんて、この程度のモンだ。股間の衝動の方が、遙かに(つえ)ぇ訳で。


だが、そこはでき得る限り、じっと我慢だ。


せめて、自分で稼げる様になるまで手出し厳禁。その間だけでも、俺の股間の紳士よ、最後まで紳士たれ。ホント頼むぜ?


…稼げるといやぁ、ウチの学校、校則でバイト禁止なんだよなぁ。これが結構キツい。金、全然貯まんねーもん。


今日も懐に余裕があったら、外で飯食ってから図書館へ…ってな、学生らしい健全なデートコースとか考えられたんだが。そうすりゃ、こんな寝落ちでやらかすなんて事ぁ無かっただろうになぁ…


まぁ、どうせ部活があるから、バイトなんかまともに入れる余裕は、俺には全くねぇ訳だが。これで万年県大会準決勝止まりなんだから、ホント笑えない。せめて全国に出ればまだ格好は付くんだろうが。…今年は頑張らねば。



…だめだ。


無理矢理現実逃避をし続けても、全然間が持たねぇ。



さっきから、めちゃ良い匂いすんだよ…


多分だけど、告白した時にプレゼントした香水の匂いだと思う。態々今日に使ってくれているのは、凄く嬉しい。嬉しいのだが、お陰でマジヤバい。ってーか、自分の語彙力の無さが本当に情けない。むぅ。


ってーかこれ、ヤバいなんてもんじゃないな。理性のダムが決壊寸前だ。


感覚が殆ど残っていない左腕が、勝手にアイツの髪を撫でているっていう…これが無意識って、本当に自分が怖ぇ。



「うぅん…かず、ちゃぁん…すき…」



甘い声を出しながら、晶は俺の胸の方に頭を載せてしがみついた。


あかん。これは反則過ぎンだろ…


ああ、やめて。晶ちゃん、俺の胸に頬ずりしないで。気持ち良過ぎるから。いやマジで、暴走しそうだから…これ冗談じゃ無く、ホントに色エロとヤバいから。とある一点に血流が集まってきているせいか、脳への酸素供給が足りてない気がする。おバカになる。てか、なってる。


晶の頭が胸部に移動した事で、左腕にずっと掛かっていた負荷が無くなり、徐々に血流が戻ってきているのか強烈な痺れの感覚が一気に腕全体に広がる。


その痛みのお陰で、何とかギリギリで理性が保たれている様な状態だ。


「…でもよ、これくらいなら、許されるよ…な?」


晶の柔らかな髪をなるだけ優しくかき上げ、額にそっと口付ける。本当は唇から何から、今すぐにでも全部奪い去ってしまいたい。


だが、それは自分の獣欲、性欲を吐き出す結果だけにしかならず、晶の気持ちを無視し、踏み躙るだけになるだろう。


だから、ここは意地でも我慢だ。


でも、これは予約の証。


いつか、お前の全てをいただく。その覚悟と決意。


まぁ、お前が寝ているから、こんな事ができるんだけどな。相変わらずヘタれ過ぎンだろ、俺…



誤字脱字があったらごめんなさい。

評価ブクマ戴けたら嬉しいデス。

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