7.ランダムイベント(お家デート)
「おばあちゃん、かずちゃん帰ってきてる?」
「おお、晶ちゃん。かずちゃんなら部屋におるはずだでよ。上がっていき」
球技大会が終わったと思ったら、中間試験がもうすぐに。一学期の最初から、本当に忙しいわね…
試験休み直前の部活が午前中にあるそうなので、じゃあ午後から一緒に勉強しようかと彼と約束していたのだ。
本当はどこかで一緒にお昼を摂ってから、図書館にでも…って考えていたのだけれど、そこはバイトが禁止されている高校生の懐事情を鑑みるに、中々に高過ぎるハードルだった訳で。
ただでさえ常時腹ぺこキングの彼に、そんなお小遣いの余力など残っている訳も無く。
こうして晴れて、お家デートに相成りましたっと。
…そこに、不満は全然無いのだけれど。
ただ、この事を千里達に話した途端、彼は私の友人一同から「甲斐性無し」の烙印を押されてしまった。
普通に考えたら、あの手のラブコメで当たり前の様に毎度行われているデートの内容って、一般家庭で育った庶民の感覚とどこかズレている気がしてならないのよね…
一回一回の事なら、多少の無理をすれば、そりゃできるわよ?
それが毎週の様に、二人で昼食を外で摂って、その後映画を見て、剰え特大サイズのポップコーンにドリンクのLLサイズと、帰りにはその映画のパンフレットを、とか…
その後ウインドウショッピングに繰り出したかと思えば、試着を繰り返し、一式の服を買い込むとか…
うん。どれだけお小遣い貯めたというの、あなたたち?
そんな感想が先に来てしまい、物語を全然楽しめない。
ふんっ。どうせこんなのは、所詮貧乏人の悲しい僻みって奴よ。コンチキショー。
…話が逸れた。
試験勉強の話よね。
…忘れてなんかないわよ? うん。
やらないと、きっと面白い様に成績下がると思うし? 私限定の話、だけれど。
そういえば、最近積みゲーとか、小説とかが全然崩せてないのよねぇ…(遠い目)
誘惑多すぎ、私の部屋…一回、断捨離すべきかしら?
今の惨状で、到底彼を部屋に招き入れる事は不可能ね。恥で軽く三回ほど死ねるから…私が。
丁度今から三年くらい前だったか。
とある少年誌…ジャ○プに連載されていた、某死神の男の子達がくんずほぐれつハッスルする薄い本を、ついうっかり彼に見られてしまった事があったなぁ…
今まで見た事のない様な、ものすっごく嫌そうな顔を彼がしていたのを鮮明に覚えている。あの時は絶対にその日の内に死のうと思った。私の中の腐った黒歴史の一つだ。
仕返しとばかりに彼の部屋を物色してやったのだけれど、あんにゃろ、隠すのが上手いのか、ひとっつもやましいモノが見つかんないでやんの。もうそれこそ逆に心配になるレベルで。
だから、チョイと自撮り画像を何枚か送りつけてやった。題名は<使ってネ♡>と。ガラケーでも写真は添付できたのよ?
次の日、顔を合わせるなり”梅干しスペシャル”という超痛い折檻を喰らったわ…ちょっぴり期待していた感想、くれなかったし。ぐすん。
…ああ、また話が逸れた。
そうそう。試験勉強の話よね。
…わざと話を逸らしているんじゃないかって?
うん。多分それで合ってる。
私、本当に勉強が苦手なのよねぇ…
とある刀剣のアレのお陰で、歴史に大変興味が湧いたのだけれど、そんなオタクのピンポイントな知識なんて、すぐに試験範囲を通り抜けてしまうだけだし?
ああ、これがポケ○ンの名前なら全部言えるのに。MSやパイロットの名前も、ある程度は。戦国武将のカップリングとかも得意よ? ああ、でもこれは口が裂けても言えない話。千里や静香は大好物だと言ってくれたけれど。
なのに、この記憶力が何故か勉学には働いてくれないという理不尽。ホント、嫌ンなるわね…
…そんな現実逃避を繰り返してみた所で、すぐに彼の部屋の前に着く訳で。ああ、勉強…しなきゃ、ね?
「かずちゃん、入るよー?」
扉を軽く三回ノックしてみる。
…へんじがない。ただのしかばねのようだ。
…これの元ネタなんだったっけ?
まぁ良っか。
勝手知ったる何とやら。運良く彼の着替えシーンだったりしたら、ラッキースケベ完成って事で。それじゃ、遠慮無く開けちゃいますよー?
「……寝てる」
うん。少しだけ…ほんの少しだけ、魅惑の腹筋を期待してたのだけれど、これは完全に肩すかしって奴ね。
部屋の様子から察するに、勉強会の準備を終えて、私を待っている間にポカポカ陽気に負けた…って、そんな感じかな?
下の階から運び込んだであろう、年季の入ったちゃぶ台には、お菓子がお皿にいっぱい載っていて、その横には私の苦手科目である数学と英語の参考書が。ここまでちゃんと準備しなくても良かったのに。
大の字になっている彼の寝顔を覗き込む。
…こうやって見ると、ホント睫毛長いわね…顔立ちからも、メイクすれば女装もイケるかも知れない。彼の大きすぎる体格が、それを全否定するのだけれど。ああ、でも。それはそれで面白いか?
うん、今年の文化祭は決まったわ。女装メイドカフェを提案してみよう。男共は絶対に嫌がるだろうから、女子達を全員抱き込まなければ。これで半々よ。
そんな黒い事を考えている間も、彼の微かな寝息だけが聞こえる。
ああ、そうだ。このままじゃ風邪引いちゃうかも知れない。押し入れから毛布を出して、彼の上にかける。
中学一年の終わり頃から急速に伸びた彼の身長は自重する事を知らず、あっさりと私の身長を追い抜き、そのまま日本人の標準サイズまでをも大幅に逸脱してしまった。
お陰でベッドはもう諦めたと彼は言っていた。どうやっても足がはみ出るのだそうで。
そこは我慢できたとしても、やはりお布団に関してはそういう訳にもいかず、最終的に特注品と相成った。
ダブルサイズとかって、横にはサイズが大きく広がるけれど縦方向にほぼ伸びないのを、その時初めて知ったわ。
「ほんと俺って、金かかる身体してるよなぁ…」
あと10㎝小さくなりたい。そういつもボヤいているもんね、貴方。
でも、私はそう思わない。
だって、私の身長は172もあるから。
今なら、丁度釣り合うと思わない? 個人的な意見なのだけれど。
彼の頬を指でつついてみる。うん、あまり楽しくない。弾力が足りないわ。
髪を撫でる。やわやわな毛並が、どこか大型犬を連想させる。彼の性格からしたらゴールデンレトリバー? それともハスキー? どちらも賢いは賢いが、どちらかと言えばチョイアホ側に分類される犬種になるのだけれど。
ああ、なんだか私も眠くなってきちゃった。
どうせなら…彼の腕を枕にしてっと…
おやすみなさい。かずちゃん。
勉強会? それは起きてから考えましょう。ね? かずちゃん。
誤字脱字があったらごめんなさい。
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