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6.強制イベント(球技大会)



「っつー訳で、今度の球技大会は男女共、この二種目で行われる。原則、全員参加だからなー?」


新学期、まず最初にある全体行事がこの球技大会だ。


クラス内で親睦を深めようという意図によるものなのだろうと思われる。


仲間内で結束を図るには、外部に明確な敵を作る事が最も効率が良いともいうし…我ながら穿った見方をするなぁとは思う。


そして、ここでクラスの雰囲気がある程度決まってしまうと言っても過言ではない。運動ができる人限定の企画なのは、どうあっても否めないのだけれど。


今回は、バスケとサッカー。どちらも人気のスポーツよね。


球技大会は、毎年生徒による投票によって競技が決まる。ちなみに昨年はバレーボールに野球(女子はソフトボール)だったけれど、何故かバレーでなくセパタクローで決まりそうになりかけて、関係者一同が大いに焦ったのだとかという噂もあったり。


セパタクローって、何? 


あの時、そんな名前のスポーツの存在を知らなかったから当然ググってみたわ。そしたら色々と出てきた動画に、彼と二人で唖然。こんなの素人が出来る訳が無いじゃないかと大爆笑。巫山戯んのも大概にしろって奴よね、本当に。


「かーさんは、当然バスケだよな? バスケ部の奴らよりデケぇし」


「それな。おとーさんなら多分ダンクいけるっしょ?」


「おうふ…」


クラスの人達からの期待の籠もったキラキラした眼差しを受けて、彼は分かり易い程に狼狽えた。そうよね、あなたって昔から球技が苦手だったし…


昨年の彼はバレーに出場して、その長身と跳躍力を活かして多くの得点を叩きだし、文字通りの大活躍をしたのだけれど、後衛に回った途端、急に足手まといと化した。レシーブが下手くそ過ぎたのだ。


相手は当然、そんな彼を狙ってサーブを打ってくる訳で。


チームメンバーのフォローがあったけれど、流石に全部をカバーできる訳も無く。


負けた時の悔しそうな彼の顔が、とても印象深かったな。


「ちょっ、ちょっと待ってくれ。俺はドリブル上手くできねーぞ? ”歩くトラベリング””ダブルドリブルの魔術士”と、小学生の頃から異名も持つくらいだ」


ボールを持ったまま3歩以上歩いたり、ドリブルを止めて再度ドリブルをしたら反則。バスケをやる上で、こんなのは常識よね。


そして、彼は何故かドリブルができない。本当に嘘臭い話なのだけれど、できないのだ。不器用なんてレベルではない程に。だからバスケの代表は願い下げなのだろう…でも、そんな異名、私は初耳なのだけれど?


「ちょっと待って。あなたサッカーのドリブルも、当然のごとくダメダメじゃなかったかしら?」


「大丈夫。キーパーならドリブルをしなくて済む」


…なるほど、そういう事ね。できないならできないなりに、ちゃんと考えている様だ。


「おいおい、かーさん。置いてあるボールすら空振りしちまう様な人間にゃ、最後の守りなんか任せらんねーよ?」


「…デスヨネー」


まぁ、クラスで勝つ事を考えている以上、当然そうなるわよね…


でも競技人数を考えれば、バスケよりサッカーを選びたくなる彼の気持ちも痛い程に解る。


サッカーは人気スポーツだ。普段運動をしていない人間でも、自習の時間を含めれば、体育の授業で頻繁に行われる訳で。皆それなりに動けて当たり前の競技だとも言える訳だし。


だからこそクラスメート達も、彼の嘘臭い技量の程を当然把握している訳で。そんな人間を使おうなどと誰も考える訳が無い。


「かーさん、バスケならそのタッパも活かせるだろうからさ。バスケやろうぜ」


「……ぬぅ」


これはダメね。そこでいくら唸ってみせた所で、これは覆せない。もう諦めなさいな。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「って訳だ。(あきら)、すまないが付き合ってくれ」


お昼休み。


お婆ちゃん謹製特大お弁当を掲げ、彼が私の元へやってきた。


こうしてお昼ご飯を一緒に摂る事は、極めて稀だ。一応先々週から正式にお付き合いを始めたのだから、いつでもどこでも一緒でありたいのが本音なのだけれど、彼も私も今までの付き合いがある以上、それは難しい。


よく女同士の友情なんて、男ができてしまえばあっさり無くなる…などと世間では言わていれるけれど、本当にその通りだと思う。


今の私は、千里や茉莉と三人で良く遊んでいるのだが、昨年までここにもう三人がいた。その内の一人は学年が上がってクラスが別れてしまっただけなのだけれど、残り二人の娘達は、彼氏ができてからというもの、会話する機会が極端に減った。彼氏に終始ベッタリだからだ。


そんな彼女達の姿を、羨望の眼差して見ていた時期が、私にはありました。


ホント、凄く、すごーく羨ましかったです。はい。ああ、でも、千里と茉莉は小学生の頃からのズッ友だし、疎ましいとか、そんな事は全然ないのよ? ホントホント…


…って、話が思いっきり逸れている気がする。



休み時間中、体育館は常に開放されている。


何故お昼休みに彼が私を誘ってきたのか、その理由がこれだ。


「バスケの練習に付き合って欲しい」


中学に上がった際、剣道を辞めた私は、バスケットボール部に入った。その頃からクラスの女子の中でもかなり身長が高い部類だった事もあり、戦力として期待されていた。


まぁ、結局は、正式なレギュラーになれずに、三年間が終わった訳なのだけれど。


それでも昔取った杵柄という奴だろうか。体育の授業でバスケがあった時は、それなりに活躍はできている。


だから彼は、そんな私を頼ってくれたのかも知れない。うん、悪い気はしないわね。


「で、かずちゃん。ドリブルの練習から始めれば良いのかな?」


「いや、今更だ。ドリブルはとうに諦めている」


え? ドリブルは基本中の基本だ。それを捨てるって、なら彼はどうするつもりなのだろう?


「まぁ、それは今から説明するよ」


…本当にそれで大丈夫なのかしら?



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「かーさん、容赦ねぇな」


「おとーさんカッコイイ」


あ、また3pシュートが決まった。


結論から言ってしまえば、彼はドリブルを捨てて、徹底的にシュートとパスに特化する方向へ動いた。


その策が見事ハマったみたいで、今や彼がコートを支配している状況だ。


194㎝という高身長の彼からボールを奪うのは、それこそ経験者でもなかなかに難しい。その高さから放たれるボールを防ぐなんて、球技大会レベルではほぼ不可能だろう。


そして私との特訓の成果はそれだけではない。彼の3pシュートの精度が、尋常じゃ無かった。


彼はボールを持ったらすぐさまシュートかパスをする。ドリブルを諦めるという事は、つまりはそういう事だったのだ。どの位置からでもゴールに刺さるシュートとか、もはや相手にとって悪夢でしかない。


「…ガチの人に言わせりゃ、こんなの誤魔化しも良いとこだがな。でも、これで誰にも足手纏いとは言わせねぇ」


…だからって、そのまま全校優勝しちゃうなんて、誰も思わなかっただろう。バスケ部の人達、絶対彼の事欲しがるだろうなぁ…こんなデタラメな人間がいてたまるかと思うけれど。



追記1:あの後試しにドリブルからのシュートをやらせてみたら、あんにゃろ私より上手いでやんの。


追記2:小学生の頃の記憶って、あんまりアテになんないわね。情報の更新、大事。ホントコレ。



誤字脱字があったらごめんなさい。

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