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5.攻略中(バレンタインイベント)

ふと今日になるまで、その日だと気が付かなかった俺…



これは、まだ私達が”恋人同士”になる前のお話。と言っても、ほんの一、二ヶ月前の出来事。


丁度世間では、『バレンタインデー』と、無駄にテレビで特設販売会場の様子を映して煽っては盛り上がりを見せていた。そんな時期。


私も世間一般女性の御多分に漏れず、そんな安い煽りをモロに受けては、想い人の為のチョコ選びに余念が無かった訳で。


だがしかし、とかく今の情勢は、不景気一直線。


本命への予算すら情け無用とごっそり削られる世知辛い世の中。である以上、業界も手段を選んではいられない様で。


『想い募る本命のあの人へ』


ではなく、


『お世話になったあの方へ』


だったり…


『大好きな友達に、日頃の感謝を込めて』


と、大多数のターゲットに増やす方向へとシフトした様で。


一個辺りの単価を下げて、その分数を取りに行くという分かり易い戦略ね。商売的にはそれが正解じゃないかとも思ったり。


まぁ、私の狭い交友関係では、そんな友チョコを交換しあう様な人数も、そう多くはないのだけれど。


そして、よく漫画である様な、クラス全員の男の子に徳用チョコを配る…なんて事も、普通はしないしね。


うん。普通あり得ない。


何あれ? 聖女か? 私には絶対に無理だわ…



…話が逸れた気がする。



ま、そんなこんなで私がチョコを送る人間は、そう多くない。


まず義理は、ウチのお父さんと、彼のお父さん。


友チョコは、千里に、茉莉、あと、隣のクラスの静香。


びっくりするくらいに、私ってば、交友関係狭っ。


…いやいやいや。普通、大体こんなものよね? そうよね…その筈よ…うん。たぶん…


そして、本命チョコは彼。幼馴染みのかずちゃん。


私は毎年、彼に本命チョコをあげている。


ただ、そうとは本人にずっと言えていないのだけれど。本当にヘタれ過ぎて自分が()ンなるわ。


折角のイベントなのだから、私だって一度くらい勝負をかけても良いんじゃないかナー? とは、毎度毎度思うのよ?


それに恋愛ゲームでは、バレンタインなんて定番のイベントなのだし?


こういうのはテンションに任せて、前後を、成否なんかを考えず一気にぐわぁぁぁぁ(?)って行くべきだとも思うし。 


…でも、たぶん、今年も言えず仕舞いで終わる様な気はする。私のヘタれ具合は、本当に深刻だ。


本命なのだけれど、昨年はちょっとだけ高い既製品を彼に贈った。


何故かと言うと、その前の年のバレンタインで、彼は大きなトラウマを抱える事件が起こったからだ。


彼はモテる。


嫌ンなるくらいにモテる。


それはもう、腹が立つくらいに、あンにゃろーはモテやがる。人の気も知らないで。チキショー。


そのせいで、毎年結構な数のチョコを貰うのだが、その中に当然の様にある手作りチョコがその発端。


意図的な異物混入だと言ってしまえば、それまでの話なのだけれど、齧り付いたチョコから、爪だの、髪の毛だのがそれだと解る程に大量に出てきたらどう思うか? …まぁ、そういう事。


うん。確かにこれはトラウマモノよね。私も彼の口からそれを聞いた時、本気で鳥肌(寒イボ)が立ったわ。


結構その手の<おまじない>が、この時期の女性雑誌のコラムに溢れかえる(自分の血や、おしっこをチョコに混ぜるという記事を眼にした時、恐怖と同時に目眩がしたわ)し、それを鵜呑みにして実践しちゃったのでしょうけれど、普通に考えて、これはアウトだと気付かないのかしら?


衛生面で言ってもそうだし、自分が口にするものに、その様な異物を混入されていたらどう思うか? その様な想像力が欠けている事にすら気が付かないとは…若さって恐ろしいわね。


あれ以来、彼は手作りチョコが恐怖の対象になってしまった。それでもまだマシになった方で、一時期はチョコレート味の食べ物全てが口に入れられなかった。


…あの、食いしん坊の彼が、だ。


当然、昨年のバレンタインの成果の中で、手作りチョコは、そのまま彼のお家のゴミ箱へ直行(贈ってくれた人の手前、有り難く受け取ってはいた)となる。


…可哀想な話ではあるのだけれど、手作り=本命が基本なのよね。だけれど、トラウマとなってしまっては、もう彼を責める事もできない。



だから、昨年は私も既製品にした。



毎年、私は、彼の為にチョコレートケーキを作っていたのだけれど、多分もう彼は、それを口にできないだろうから諦めた。


それを始めたのは、小学五年生からだった。


初めて作ったチョコレートケーキの出来は、それはもう、本当に酷いものだったのを覚えている。


「…来年の出来に、期待する」


作った本人ですら、二口でギブアップした超絶失敗作なのに、そう言って、彼は全部食べてくれた。


毎年、それを作っては新しい反省点が見えて来る。そんな拙いケーキだけれど、彼は嬉しそうに、美味しそうに食べてくれた。


二人で切り分けて食べるチョコレートケーキ。


その大半が彼の胃の中に収まる訳だけれど、それを食べきってしまうまでの間は、二人だけの特別な時間。


だから、昨年からそれができなくなって、少しだけ寂しい。



「晶、今年は、ケーキ作ってくれるよな?」



だから、彼の一言に私は驚いた。


「え? かずちゃん、手作りチョコはダメだって言ってたじゃない。だから私は…」


「お前のは別だ。毎年アレを楽しみにしてんだよ、俺は」


「へ…へぇ~? そっかそっか。それじゃご期待にちゃんと応えてあげないとダメよね? 作ってあげなかった去年の分も含めて、今年は頑張ってあげるわ」


だから、その一言が凄く嬉しかった。


彼もあの時間を大事にしてくれていたのだろうか?


もしかしたら、本当にチョコレートケーキが食べたいだけなのかも知れないけれど。


そこはあえて考えないでおこう。


去年の分も含めての『好き』をケーキに込めて。私の本命は、これからもずっと貴方だけなのだから。


だから、覚悟なさい。かずちゃんっ!



誤字脱字があったらごめんなさい。

評価戴けると嬉しいデス。

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